毎年この季節になると・・・
だから我々一般の人々は建設業界のことを知らない。どんな背景でどんな課題があり、それらの解決に向けどんな進歩が遂げられつつあるか、見えないから知ることができない。知れば「うおおおーーっ!」と感嘆の声を上げるかもしれないのに、だ。
そこで本稿は、近年再び脚光を浴びている「建設テック」の視点から、知られざる“防音パネルの向こう側の世界”を垣間見よう。キーワードはデジタル、AI、ロボット。そしてBIMだ。
人とAIが協働する建設DX
そこで同社は機械学習の一種であるクラスタリングを用いた「リサーチAI」を開発。「ベテラン設計者が持つ『嗅覚』のようなものをAIで補い、誰でも簡単に有益な情報にたどり着ける」ようにした。また「構造計画AI」ではディープラーニングを用い、構造計算をせずに仮定断面(=建物の詳細が未決定な段階で仮に算出する部材の断面寸法)を自動で推定可能にした。さらに「部材設計AI」では施工性と経済性をバランスさせる部材のグルーピングを自動で絞り込んで設計者の意思決定をサポートする。人とAIが協働して生産性を上げる点で、まさに建設業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の好例となっているようだ。
生産性の原則と建設業の可能性
だが、これは逆にいうと、「1;苦役的な繰り返し作業をまだ多く含み」、「2;一定割合で労働集約型産業であり続けることは今後も予想され」、しかも「3;製造業のように技術イノベーションを頼みにしやすい」建設業のような分野で生産性向上を果たせれば、全体の底上げにつながるのではないか。
ロボットとモジュールと3Ⅾプリンター
また、建設業が労働集約型産業であり続ける点をめぐっては、すべての建築建造物が型番商品になる未来は想像しにくいことを考えれば十分だろう。
そして3つめ、「建設業の製造業化」とも呼べる変化に関しては、「建築物のモジュール化」が進行中だ。昨2019年6月、鉄筋コンクリートのモジュールからなる40階建てのツインタワーマンションがシンガポールに完成した。フランスの大手建設会社ブイグのグループ会社が施工した「クレメント・キャノピー」だ。高さは140m、延べ面積は約4万6000㎡。マレーシアで製造した躯体にシンガポール国内の工場で配管・配線、タイル張り、塗装、防水処理を行い、現場に運んでタワークレーンで組み立てた。モジュール1個の重さは26~31t。それを誤差2㎜で積んでいったという。
「建設業の製造業化」は建設3Dプリンターの普及もその範疇だろう。建物や橋などをモルタル積層でつくってしまう建設3Dプリンターは型枠の設置を不要にする。のみならず、型枠の物理的制約からデザインが解放されて建築物の付加価値生産性が上がる。造形の自由度が高いから強度を出しつつ材料(材料費)を必要最少限にでき、ロボットアームを連続稼働させ工期を爆速化することで労働生産性も飛躍的に向上。予測では建設3Dプリンター市場は2020年の5600万ドルから2027年には約40億ドルまで拡大が見込まれている。
本丸はBIM
BIMが効果を発揮した一例が、メルセデス・ベンツ日本と竹中工務店による展示施設「EQ House」だ。工事が終わって完了検査に進んだ際、指定確認検査機関である日本建築センターの検査員は、ヘッドマウントディスプレイを装着してBIMの3次元モデルを映し出し、実際の建築物と重ねて見ることで検査の確度と効率を高めた。この例ではMR(複合現実)技術を組み合わせて実際は見えない延焼ラインまで視覚的に確認できたそうだ。「数十枚の紙の図面の情報が1つのモデルに集約されるので、検査がスムーズに進んだ。図面に記載されない監理記録を同時にチェックできることも大きかった」とは、同センターの杉安由香里主査のコメントである。
今年4月に着工して現在も工事が進む北海道日本ハムファイターズの新球場「エスコンフィールド」は、設計・施工を受注した大林組が意匠設計の段階から三次元のBIMモデルを作成し、安全面、運営面、はてはスタンドに飛び込む飛球経路まであらゆるシミュレーションを試行。データを持たせたモデルを工事用詳細施工図の作成に引き継ぎ、さらに納まり(部材接合部の総称)の情報も加え、竣工(建物の完成)までをいったん全部、仮想空間のモデルで検証した。すべては「世界がまだ見ぬボールパークをつくる」という施主のコンセプトを叶えるためだったようだ。
品質と効率の両立、生産性を上げようとする工夫、付加価値実現に向けた意地、etc・・・。木枯らしに揺れる防音パネルと防塵シートの向こう側に、知られざる“漢(おとこ)たちの世界”を見た。
*1 『建設DX デジタルがもたらす建設産業のニューノーマル』(日経BP 2020/11/10発行)p24~28。以下、事実の記載に関してはすべて本書を参照した。
*2 現状はまだ設計・施工までと維持管理・運用局面とで必要な情報量に差がありすぎて使いにくく、解決が待たれるようだ。
(2020.12.2)