B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

卸売市場と三原則

 
glay-s1top.jpg
ぱぱ〜ん / PIXTA
2018年に成立した改正卸売市場法(「卸売市場法及び食品流通構造改善促進法の一部を改正する法律」)が、6月21日から施行される。1923年に「中央卸売市場法」として始まり、1971年に「卸売市場法」となってから時代ごとに改正を続けてきて、来月の施行でいったん完成を見る形だ。完成ととらえるのは同法が一貫して国の関与を減らす方向で改正されてきたからで、生鮮品流通における卸売市場の役割を国が一種の公共財として守っているEU諸国とは対照的である。
 
現在、卸売市場には地方の自治体が農林水産大臣の認可を受けて開設する「中央卸売市場」と、同じく自治体が都道府県知事の認可を受けて開設する「地方卸売市場」がある。農林水産大臣が国政のポストである点からもわかるとおり、地方卸売市場のほうが中央卸売市場より国の関与が薄い。ありていに言えば規制がゆるい。
 
その代表が「第三者販売禁止」「直荷引き禁止」「商物の一致」という、いわゆる卸売市場の三原則である。それぞれ意味は、「卸業者は仲卸業者や買参人以外に卸売りをしてはならない」「仲卸業者は卸業者以外から買ってはならない」「商流と物流を分離させて扱ってはならない」だ。
 
 

都市化と二つの店舗法。そして“何でもあり”へ

 
三番目について補足すると、6月の法施行後は具体的には、商流(取り引きの約定)は市場内で、物流(生産者からの集荷配送)は市場外で、つまり産地から直で行えるようになり、物流の工数が減ることで鮮度へのニーズに対応しやすくなるとされている。
 
ただ、三原則の残り二つに関しては、1971年の卸売市場法への交代時からすでに形骸化が始まっていた。農林中金総合研究所主事研究員の一瀬裕一郎氏によれば*1、それを後押ししたのは「高度経済成長にともなう都市化の進展」「量販店の台頭」、そして「産地の大型化」である。
 
これらを背景として、例えばセリ・入札売りは条文ではその維持を謳いつつも、実際は1971年当時から卸業者と仲卸業者(流通チェーン)とのあいだで予約相対取引が常態化しており、1999年の改正ではセリ・入札売りは廃止され、「商物一致の原則」も緩和された。2004年の改正では「第三者販売禁止」「直荷引き禁止」についても緩和された。
 
ただしその二原則も1999年の第一次改正時にはすでにタガが外れていたことは、90年代初頭から続いた卸売市場以外の変化からも推測できる。すなわち、1991年の「大規模小売店舗法(大店法)」の改正と、1998年の「大規模小売店舗立地法(大店立地法)」への交代である。
 
大店法の改正で店舗面積規制が外れた総合量販店はどんどん大型化し、食品スーパーに代わって消費者の需要を一手に集め、大口需要家としてのプレゼンスを高めていった。並行して産地の側も、一度の荷下ろしで大量の品をさばける大型の中央卸売市場へ好んで出荷するようになり、2000年以降は「地方の産地→大都市の中央卸売市場→地方の中央卸売市場」という転送(逆流?)の流通構造さえ珍しくなくなっていた。総じて、三原則の立場とは裏腹に “なんでもあり”の状況になっていたのだ。
 
 

市場外流通とコロナ支援

 
俯瞰して眺めれば、そしてそれを実践されている方々には心外な見方であるだろうが、いわゆる市場外流通――飲食店および小売店が生産者ないし産地と直接契約を結んで生鮮品を仕入れること――も、この“なんでもあり”の一例である。ただし、「ほうっておけば画一化・均一化に傾斜する市場原理」へのカウンターパートとして。既存の構造を揺さぶる創造的変化として、だ。
 
こんなことを思うのは、思ってみる意義があると思うのは、2年前の2018年6月15日、国会で改正卸売市場法が成立した日には想定していなかった事態が、現在進行中だからである。つまり、新型ウイルスで余儀なくされた外出自粛と飲食店の不本意ながらの休業である。
 
今、ウイルス禍の真っただ中で、生産者も卸業者も仲卸業者も、「飲食店および小売店」という最終販売先の片方を失い、大量の在庫が行き場を失っている。食品産業は自然の再生産能力に依拠する。その意味では原資は無尽蔵だ。と同時に、食品産業はそれ(自然の再生産能力)を回し続けることで初めて関連業者全体に余沢が回る。収穫・生産を止めるわけにはいかない。
 
それを受けて今、消費者と食品産業の川上をダイレクトにつなぐ動きが始まっている。『食品産業新聞』4月16日の記事は、農林水産省が「うまいもんドットコム」と組んだ特設通販サイト(国の支援により送料無償)の他、民間でも同様の動きが複数立ち上がったことを報じた*2。それらの中には企業や団体でなく個人の発意からSNS上で始まった動きもある。消費者のほうも彼らを助けるため、積極的に彼らから買おうとしている。双方の気持ちが向き合っているのだ。
 
 

リピートの下地とSNSを使った共同購入

 
今のところ、生産側は「廃棄になるよりは」と思って赤字覚悟の大幅値引きで売り、消費者側は「この値段で買えるなら」と思ってお得感で買っている面が大きいかもしれない。一種の“祭り”になっている観もある。――が、きっかけはともかく、直でつながった事実が残ることで、外出自粛要請が緩和されてからも「一般消費者⇔川上の各業者」の距離は格段に縮まる。
 
そう考えると、赤字覚悟の、とはつまり利益を求めない点で事業としてはいびつな今の状況も、「まずは商品の良さを知ってもらって利益はafterコロナで取る」という一種のフリーミアム戦略と位置づけることができれば、明るい展望が見えてこないか。
 
生産側は「そんな他人事みたいに」と眉をひそめるだろう。――が、購入した消費者のうち数パーセントは、通常価格に戻ってからも商品の良さに惹かれてリピートすると思う。具体的な作業を一通り経験した後では、生産側も消費者も、不慣れな流通ルートに対する抵抗がグッと下がる。リピートの下地が残る。顧客名簿も残る。
 
一般消費者がこれらのルートから買うときネックになるのは「最小購買単位あたりの量が多すぎる」ことと、「商品以外の料金(=送料)がかかる」ことである。だがそれも、近くの親戚や友人同士、例えば5、6人で共同購入すればかなり解消される。あるいは友人でなくても、共同購入のメンバーを地域で都度確保するやり方でかまわない。SNSでグループをつくって同好会的に運営すればほとんど生協(生活協同組合)さながらだ。しかも生協と違ってメンバーは運営費の供出義務がない。SNSは無料だからだ。
 
 

変化の先を想い描いて

 
高度経済成長以来改正を続けてきた卸売市場法がいったん完成を見るこのタイミングで、生鮮品の流通消費形態が“afterコロナ”ないし“withコロナ”を見据えた変化を求められるのは何の因果か。もちろん、そんなレトリックで終わらせてはいけないのだ。関連業者の窮状に言葉を失いつつも、変化の先は明るく想い描けるよう、応援を続けなければ。
 
なお、最後に、本稿だけでは「結局外食産業は要らなくなるということか」との誤解を招きそうなので、決してそういう意味ではないことを断わっておく。外食産業の変化の可能性については、新型ウイルスへの社会の対応に時系列的な目途が立ったときに、それをもとに改めて示せると思う。学識者でも何でもない一介の物書きの試論ではあるが、そのときは読者諸兄とともに、黙さず思考してみたい。
 
 
 
*1 農林中金総合研究所刊『農林金融』2018年7月号「最近の卸売市場を取り巻く諸情勢」
*2「食べて応援 学校給食キャンペーン」(農林水産省、うまいもんドットコム)
     「緊急! 流通促進フェア」(業務用食材の業者間電子商取引サイト「Mマート」)
     「在庫ロス掲示板」(株式会社バトラ)
     「#sosmapjapan」(GONENGO LLC)
     「Smile Marcheプロジェクト」(SmileMarcheプロジェクト応援団)
     「コロナでお困りの野菜や肉、魚の生産者さん」(「食べチョク」特設サイト)
      Facebookグループ「コロナ支援・訳あり商品ご縁結び救済
      Twitterハッシュタグ「#コロナでお困りの生産者さん」「#フードロス

 
(ライター 筒井秀礼)
 
(2020.5.6)
 
 
 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事