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リモートワーク? テレワーク?

 
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北村笑店/PIXTA
1月14日に最初の感染者が報告されて以来、新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。本稿執筆時点の2月25日現在、加藤厚労相は国内の感染状況について「発生早期」としつつ、「次のフェーズへの移行期」との認識も示した。政府の専門家会議は24日発表の「対策の基本方針の具体化に向けた見解」で、「これから1~2週間が急速な拡大に進むか、収束に向かうかの瀬戸際」と警鐘を鳴らし、最後は「症状のない人も~」として国民全体に向けて協力を呼びかけた。その末尾一文にある「リモートワーク」が本稿のテーマである。
 
まずは語の整理から。「リモートワーク」は別名「テレワーク」ともいい、行政では主にこちらのほうの語が使われる。さらにいえば、テレワークは「在宅勤務(一日のうちの部分在宅を含む)」「モバイルワーク」「サテライトオフィス勤務」の3つに分けられる。感染阻止の観点からは人のいる場所への外出自体奨励されないわけだから、今言われているリモートワークは在宅勤務のことと思っていいだろう。
 
リモートワークを含むテレワークは、今は一時的に――しかし圧倒的に――公衆衛生の文脈で語られているが、もともとは労働行政の文脈、具体的には「働き方改革」の一環である。関連の知見と施策も労働行政の分野で蓄積されており、例えば2014年から「職場意識改善助成金(テレワークコース)」の名称で補助金事業が始まっている。2018年からは長時間労働是正の狙いをより前面に出した「時間外労働改善助成金(テレワークコース)」に名前を変えて続けられており、先月15日に昨年度の交付認定企業の取り組み実施期間が終了したばかりだ。新型ウイルスを受けた現在のリモートワーク推奨の勢いからして、今年度ぶんは昨年以上の規模で実施される可能性がありそうだ。
 
 

当たり前の就労形態の一つとして

 
今回の件が起きるまでは、リモートワークは新型ウイルスという外圧への対抗ではなく、「日本の労働者のワークライフバランスの改善」という、あくまで内発的な動機から進められるものだった。厚労省がまとめたテレワーク実証モデル事業の報告資料「テレワーク活用の好事例集」巻頭言では、リモートワークを含むテレワークのメリットが〈個人〉〈企業〉〈社会〉の各視点から次のように整理されている。
 
〈個人〉・・・ワークライフバランスの実現、育児や介護時間の増加
〈企業〉・・・生産性の向上、事業継続(BCP)、人材確保・離職防止
〈社会〉・・・地方創生、一億総活躍社会の実現
 
個人のメリット2つは主に、通勤時間を生活の時間に当てられることによるものだ。企業のメリットにある「生産性の向上」は、通勤による従業員の心身の疲労が減り、業務の生産性が上がることによる。
 
今進んでいるリモートワーク導入の動きは過度に「事業継続(BCP)」のメリットに偏っている感があるが、他に「テレワークではじめる働き方改革―テレワークの導入・運用ガイドブック」なども参照すると、この際、新型ウイルスの外圧を奇貨としてテレワークないしリモートワークを一気に普及させてはどうか。少なくとも当たり前の就労形態の1つと認められるようにしてはどうか。
 
そのためにももう少し詳しくテレワークないしリモートワークについて見てみよう。なお、以降は資料の表記がそうなっている箇所以外では両者を区別せず「リモートワーク」の語で統一する。行政とは関係なく筆者個人の主張としても、もっと在宅勤務が一般的になっていいはずだと考えていることを示すためである。
 
 

介護および育児ニーズの存在

 
総務省が1996年から続けている「通信利用動向調査」の最新版(平成30年度版)は第5章がテレワークの章になっており、第1節の導入状況、2節の導入形態から始まり、第3節利用している従業者の割合、4節導入目的、5節導入効果、はては6節導入しない理由までデータで載っている。最後第7節が「ふるさとテレワーク普及のために必要な要素」となっているのは、親の介護などのために郷里で働きたい労働者が如実に増えていることを示すものだ。
 
実際、4節導入目的で3位になっている「通勤困難者(身障者、高齢者、介護・育児中の社員等)への対応」は、前々年度12.3%、前年度22.5%、本年度26.0%と、年々順調に伸びている。子どもの出生数は減っているのだから伸びの中身は介護目的が大きいと見ていいだろう。親の介護を抱える社員は今後ますます増える。そのとき、労使ともに望ましい関係を続けるためにも、リモートワークが社内で当たり前に行われる環境にしておくことは意味があると思われる。
 
また、現在は出生数が減っているが、郷里や地方で子育てができるなら今の会社で働きながら子どもを持ちたいと考えている人も少なくないはずだ。そのあたりが、導入目的の第5位に「人材の雇用確保・流出防止」が入っている理由だと思われる。他の目的は年によって上下するのにこの2つは一貫して伸びているところを見ても、社員の介護および育児ニーズに積極的に応えたほうが、この先企業にとっても良いことが多いのではないか。
 
 

第二波は来年4月

 
とはいえ、営利事業である以上は利益につながらないと導入に踏み切れまい。新型ウイルスを受けた今回の泥縄式の導入でも生産性維持の効果についてはある程度理解が共有されそうだが、生産性向上の効果についてはどうか。
 
金額で定量評価した公式資料がなかなかない中で、「通信利用動向調査」平成28年度版では、リモートワーク導入企業は未導入企業に比べ、「労働生産性=(営業利益+人件費+減価償却費)÷従業者数」が1.6倍高いことが示されている。リモートワーク化できる業務はすることでオフィスが小型化でき、事務所家賃が抑えられる効果も無視できない。
 
最もわかりやすいのは通勤手当を削減できることによる効果である。厚労省「就労条件総合調査の概況」平成27年版21ページによると、通勤手当の月一人当たり平均支給額は1万1957円だ。
 
そして、実はこの手当の扱いがリモートワーク導入の第二波になりそうだ。来年4月から「パートタイム・有期雇用労働法」が中小企業にも施行されるからである(大企業は来月施行)。通勤その他の諸手当も含めて「実態に即した同一労働同一賃金」にすることを義務付ける同法に対応するためにも、業務の切り出しに再挑戦し、就労形態を見直し、リモートワーク導入のロードマップを描いておいたほうがいいだろう。
 
第一波は受け身で迎えてしまったが、第二波は労使ともむしろ積極的に受け止められるよう、今から準備を進めたいものである。
 
(ライター 筒井秀礼)
 
(2020.3.4)
 
 
 

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