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自律学習でついにAIが人を超える

 
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2016年3月、Google社の関連会社が開発したAI「AlphaGo(アルファ碁)」が韓国のトッププロ棋士イ・セドル氏に4勝1敗で圧勝した。チェス、将棋に次いで、AIが人を負かすのはさらに困難と考えられてきた囲碁で人が負けたことの意味は大きい。到来していると言われる第三次AIブームの凄みをひしひしと感じさせる一大事件だ。
 
AIが正式な学問分野と認定されたのは1956年のことである。その直後および1980年代に大きなブームがあったが、世間の期待に応える成果をあげられなかったため、いずれも尻すぼみに終わった。
 
そんな過去2度に反して、3度目のブームとなる今回はついに、AIが人の期待を大幅に超える雰囲気が強い。機械学習と深層学習と呼ばれる能力により、人に教えてもらうことなく自律的に能力を高められるようになったためだ。インターネットが普及したことで学習の教材を大量に“摂取”できるようになったことも相まって、自律学習の効率は飛躍的に高まっている。
 
人工知能の世界的権威、レイ・カーツワイル氏は2045年にはAIが人を超える技術的特異点「シンギュラリティ」が発生すると予想しており、「人ならぬ知性が人を超える」事態がどのような結果を生むのか予断を許さない。
 
 

AIはライバルかサポーターか?

 
進化の方向としてAIが指向するのは人の仕事を代替できる能力の獲得だ。2015年12月に発表された英オックスフォード大学と野村総合研究所の共同研究では「10~20年のうちに日本では働いている人の49%が人工知能により代替可能になる」と予測されている。同研究はAIの可能性を高く評価しており、代替が難しいのは抽象的な概念を創出するクリエイティブな仕事や人に寄り添うことが求められる仕事のみだという。
 
AIとの関係性に基づいて職業を分類するなら、次のような3つのカテゴリに分けることができそうだ。
 
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HM(Human Must):人でなければできない仕事
 
HB(Human Better):AIでも代替できるが人のほうが優れている、あるいは望ましい仕事
 
AIB(AI Better):AIのほうが優れている仕事
具体的な職業を例に挙げると、HMに該当するのは弁護士や小説家、音楽家、カウンセラーなど、HBはホテルマンやウェイターなどの接客業、看護師、営業マン、美容師など、AIBは工場労働やデータ分析、一般的な事務作業ということになる。ただしこの分類は近未来の予想であり、AIが進化するにつれてHBに分類されていた職業がAIBに、HMだった職業がHBにと順次カテゴリ分けの改訂が進むはずだ。
 
たとえば弁護士はHMの代表格と考えられているが、弁護士ドットコムが現役弁護士を対象に行ったアンケートでは、「AIによる代替が可能」と考える弁護士が多数派を占めている。AIに浸食されない「聖域」はないと考えるのがよさそうだ。
 
 

3つの段階を経て進む社会、経済への影響

 
AIが社会に及ぼす影響は短期、中期、長期という3段階に分けるとわかりやすい。まず2035年までを目処とする短期に目を向けると、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少をAIが補う」というバラ色のシナリオが成り立つ。
 
これに対して、2050年までを目処とする中期的な予想はあまり芳しくない。人に迫り超越したAIがAIB、HBの職業を制覇し、HMにまで進出し始めるためだ。人は働くことが難しくなり、労働と幸福について新たな価値観を構築する必要性に迫られるだろう。
 
さらに2050年以降の長期的展望となると、専門家でも考えは極端に分かれる。人類は歴史上一度も、人類以上の知性と遭遇したことがない。そのためAIが脅威となるか幸福をもたらす存在になるのかはまったく未知数と言える。世界的な物理学者のホーキング博士やマイクロソフト社の創業者であるビル・ゲイツ氏は「AIは人にとって脅威になる」と予測し警鐘を鳴らしているが、杞憂であることを願うしかない。
 
 

求められるのは人と社会のビッグジャンプ

 
望むと望まざるとに関わらず、自ら進化する力を得たAIは今後加速度的に能力を高め、社会に普及していく。現状の延長線上にある社会は進化したAIに適合できないため、失業の急増や格差の極大化などが生まれ、社会不安が広がる恐れが大きい。その不安を圧縮しAIと共存するためには、人の側も近代以降基本的に変わっていない人間観を見直し、社会・経済の構造を抜本的に改革することが一つの答えとなりそうだ。
 
AIの進化がもたらす不安をクリアするカギとなりそうなのはもう一つ、「進化したAIを誰が保有するのか?」という命題だ。「国家」「企業」「個人」のいずれがAIの持ち主になるかによって、社会の安定性は大きく異なってくる。
 
現況の延長線上にある社会では、購入できるだけの資本力を持つ「企業」がAIの所有者となるが、資本主義経済下でそれをすれば原理的に大量の失業者が発生し、格差が極大化する。消費者が激減するため、企業活動は結局のところ成り立たなくなってしまうだろう。
 
かといって個人には資力がないため、「一般庶民が所有して自分のかわりに働かせる」というSF小説的な未来は想像しにくい。消去法で考えると「国家が所有して企業に貸し出す」という方式がもっとも現実的な選択肢と言えそうだ。「共産主義的」と揶揄されるかもしれないが、AIのレンタル料を元手に、国民に対して等しく所得を分配する「ベーシックインカム」を実現すれば、カール・マルクスも想像できなかった理想の社会が到来する可能性はある。
 
これまで社会に線形的な進化をもたらしてきた内燃機関やITといったイノベーションと異なり、AIのもたらす進化は非線形的であり、爆発的なものになると予想される。AI所有についての極端な提言は1つの試論だが、急速で巨大な変化を前に「人間とは何か」というテーマについてパラダイム・シフトが求められることは間違いない。社会も個人も自前の幸福観を確立することはその前提条件になってくる。憲法をめぐる言葉一つをとってもどこかまだ借り物的に感じられる社会で、「AI前夜」の今からそれらを準備しておくことは、想像以上に重要であるかもしれない。
 
 
 
(ライター 谷垣吉彦)

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