◆こんなにも多くの物に囲まれていたとは!
「いやはや、たかが学生1人の生活にこんなにかかるとは」
知人の子息が東京の大学に入学が決まり、おめでとうを言ったら、こんな愚痴が返ってきた。聞くと、ワンルームの賃貸マンションを契約したのはいいが、生活道具一式をそろえるのが大変なのだという。
冷蔵庫、洗濯機、掃除機、オーブンレンジ、炊飯器は家電5点セットと呼ばれ必需品。エアコン、暖房などの季節家電。テレビ、ブルーレイレコーダーなどのAV家電。アイロン、ドライヤー、シェーバー、さらに机、ベッド、寝具、本棚などの諸々の生活品・・・・。言われてみて、いまさらながら、われわれを囲んでいる物の多さに驚かされた。
全て新品でそろえなくてもいいのではないかと聞くと、「せっかくの、新しい生活ですからね」。なるほど、親心か。しかし待てよ・・・・。
◆社会は〈所有〉から〈シェア〉へ
戦後の物のない時代から高度経済成長期を生きてきた筆者には、日本人が物を買い込むことで豊かな生活を実感しようとしてきた気持ちはよくわかる。しかし、バブル崩壊後の低成長期に入ったこれからは、〈豊かさ〉の定義や、物に対する価値観を変えていかなければならない時代になっているのではないかという気がする。
「新しい生活」はわかるが、成熟時代の昨今、たいていの商品は新品でなくても、またブランド――例えば百貨店――の保証がなくても信頼できる(製造業の小売進出が進み、「実際つくっているのは表に出ないメーカー」という認識が常識になったことを思い出してもいいだろう)。リサイクルショップやフリーマーケットに行けば高品質な型落ち品が並んでいるし、また、一般の人々が高機能なITインフラを廉価で使えるようになった結果、オークションやネットフリマなどの「個人間取り引きを促進するサービス」もすっかり普及した。
これらの動きを総合すると、消費者の意識は物を〈所有〉することから〈シェア〉するほうへ、着実に変化していることがわかる。
◆個人間取り引きは消費税がかからない
進学や就職で人が動くこの季節、ネット上では個人間取り引きが活況になる。個人間取り引き(CtoC)の利点は何といっても消費税がかからないことだ。事業者から消費税付きで購入するよりも得という心理が働くし、高額商品になればなるほど免税メリットも大きい。
CtoCなどというと目新しいイメージに映るが、個人が物やサービスを売り、個人が買うというスタイルは古くからあった。地方の個人農家と契約して米や野菜、果物などを取り寄せる個人間取り引きはすでにかなりお馴染みのものだ。つくっている農家の顔が見えるのがいいし、自分がおいしいと思う米や野菜を、納得した価格で購入できるから根強い人気がある。すでに、日本で消費される米の4割以上が農家直販になっているというデータもある。
現代のCtoCといえば、「ヤフオク!」などのネットオークションが代表例である。人と人が直接会ってやりとりをしてきたフリマも、スマートフォンが普及するにつれフリマアプリが次々に登場し、ネット上で行えるようになった。ただ、ネットオークションやネットフリマで扱われる商品は宅配便で送れる程度のものに限られる。大型の家電製品は消費税の代わりに送料がかかるので買い手がつきにくく、オークションは値付けや落札などに伴う駆け引きを嫌う人にはとっつきにくいイメージもある。大小を選ばず、しかもシンプルに物を売りたい・買いたいユーザーには、オークションやネットフリマはハードルが高いかもしれない。