◆日本郵政、ニッセイからアフラックに乗り換え
かんぽ生命を傘下に抱える日本郵政と米国の大手保険アメリカンファミリー生命保険(アフラック)が、日本国内で業務提携することを7月27日に発表した。2日前の25日に、日本が初めて参加したTPP交渉の第18回会合がマレーシアのコタキナバルで閉幕したばかりというタイミングでの発表だった。
提携発表の中で、アフラックはかんぽ生命と共同で、新たながん保険を開発していくことや、同社保険を取り扱う郵便局をこれまでの国内約1000局から、約2万局に一気に拡大する方針などが示された。
かんぽ生命については、今年4月に 「民間の保険会社と適正な競争関係にない」 との理由で、麻生太郎副総理兼経産相が 「当分の間、新しい保険商品は認可しない」 とする考えを明らかにしたばかりだった。さらにかんぽ生命はこれまで、アフラックと競争関係にある日本生命(ニッセイ) と協力関係を続けていたことから、今回の提携については 「袖にされた」 日本生命側からも、強い不快感が示されている。
アフラックは日本国内において、がん保険で大きなシェアを持つ。ただ、日本では自社営業網を設けておらず、代理店による販売を行っているため、日本郵政との提携により代理店が2万局に増えるメリットは巨大である。
一方的な利益供与に近いとも言える提携について、「TPP交渉に後から入れてもらう」 形になった日本が 「参加料」 として米国にかんぽ生命を差し出した、とする報道も多い。ただ、元通産省官僚の古賀茂明氏は、「現行のかんぽとアフラックを結びつけることで民営化を止めたいという郵政族議員や官僚の悪知恵が背景にある」 と指摘する。国内でも官民様々な思惑が入り乱れており、保険分野におけるTPP交渉は不透明感が強い。
◆米国が狙う日本の医療保険市場
外資系保険会社にとって、日本はうまみの大きな市場である。経済的に豊かなだけでなく、世界の2%に過ぎない人口で、世界の18%にあたる保険を購入しているなど、保険に対する意識も高いためだ。
TPP以前にも、この市場を狙う米国に配慮した政治的な動きは多く、1994年には国内生保が医療保険などの 「第三分野保険」 に参入することを禁じる日米保険協定が結ばれた。国内生保に対するこの規制は2001年まで継続され、いっぽうで外資系保険会社に対しては規制緩和が進んだ。恩恵を受けたアフラックが、がん保険の分野で一時85%という異常なシェアを獲得したほどだ。
2001年にようやく国内生保・損保にも市場が開放されたことから、寡占状況が変化し、2012年にマイボイスコムが行った調査によると、「どの保険会社の医療保険に加入しているか?」 との問いに対して、アフラック(12.9%)が最多ではあったものの、2位の都道府県民共済(10.3%)、3位の日本生命(8.0%)などとの差はそれほど大きくなくなっている。今回の提携では、このアフラックと、同アンケートで4位に食い込んだかんぽ生命が力を合わせることになるため、再度の寡占を懸念する声が上がり始めている。
医療保険の加入者数では他社の後塵を拝するかんぽ生命だが、総資産では、生命保険会社では世界最大とされる。国がバックアップしていることによる信頼性の高さから 「民業を圧迫している」 との批判があり、小泉政権下では完全民営化が決定された。その後、国民新党の亀井静香代表(当時) などがこの流れに待ったをかけたため、民営化への動きは鈍化。以降は目立った動きがなく、市場を徘徊する“モラトリアムな巨人”と化していた。
こういった日本の医療保険市場の動きに乗じてさらなる利益を上げていきたい、とする外資系保険会社の熱望が伝えられる中、TPP会議では、日本の国民皆保険制度が 「非関税障壁」 として問題視されるのでは、との懸念がある。ただ、この点については、米国政府も現状、否定的な見解を示している。むしろささやかれているのは、日本の皆保険制度を “つぶす” ために米国がとる手法は、もっと間接的かつ巧妙なものになるのではないかということだ。