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第9回 移民ビジネスのススメ(中編)
~オーストラリアの移民ビジネス、その功罪~

 
 
 先月から引き続き移民ビジネスについて書き進めます。「移民ビジネスは無限の可能性を持ったビジネスだ」 と述べました。日本は古来より周囲を海に囲まれ、単一民族として過ごしてきました(アイヌ民族などの例外はあります)。しかし私は、そう遠くない未来に、単一民族の考えが消えると予想しています。
 一昔前なら外国人とのハーフはめったにお目にかかれませんでしたが、今ではテレビをつければハーフの方が出演していない日を見つけるほうが難しい状態。またスポーツ界でも、ハンマー投げの室伏選手や、サッカー日本代表のハーフナー選手なども、日の丸をまとって活躍されています。徐々にではありますが、日本人の白人へのコンプレックスは消えつつあるのではないでしょうか。
 しかしまだまだ、「移民」 という聞き慣れない言葉を耳にすると、アレルギーを起こす人は多いと思います。オーストラリアには移民ビジネスのモデルが確立され、長年の実績と歴史がありますが、そのオーストラリアでも問題が浮上しています。
 
 


不鮮明な判定基準

 
 莫大な利益を上げて国の財政を支えるオーストラリアの移民ビジネス。しかし、移民の受け入れには不鮮明な判定基準が存在します。永住権申請には、IELTS(アイエルツ) と呼ばれる英語のテストで一定以上の点数を取ることが義務付けられています。この点数は年々引き上げられており、現在では9点満点中、8点以上取得しないと、事実上永住権申請が困難な状態です。この 「8点以上」 というのがどれだけ高い壁か・・・。もし現在の私がIELTSを受験しても、この点数を取ることは、恐らく無理でしょう。
 また、このIELTSは問題の構成上、はっきりと〇か×かの正誤判定をするのが難しく、採点は担当の審査官の裁量にゆだねられます。そのため、受験後に受け取る結果がかなり上下していることも珍しくありません。多少の上下は受験者も人間なのでありえる話ですが、採点が不自然なケースも多く、もしかしたら何回も受験させ受験料をより多く得るために、誰かが点数を操作しているのでは。そんな噂が飛び交うほどです。
 
 


実際に起こった不可解な例

 
 私の友人に、国籍は日本人ですが幼少の頃からオーストラリアに居住していて、日本語よりも英語が得意な人間がいます。英語で四苦八苦している私からは羨ましい限りです。英語が堪能なだけではなく、頭脳も明晰で、オーストラリアの名門大学を難なく卒業した逸材でもあります。ただどういうわけか、在住資格としては長期間学生ビザのままで、その後もビジネスビザに移行しただけで永住権とは縁のない生活を送っていました。
 その彼が、そろそろ永住権でも申請しようかと書類を集め、同時にIELTSを受験しました。
 このテストは 「聞く・読む・書く・話す」 の4項目から構成されています。英語が堪能なので当初はなんら障害にならないと考えていたこのテストで、彼は意外と苦戦をする羽目になりました。数回受験をしましたが、必ず1項目が0.5ポイント足りなかったようです。点数に納得が行かない、もしくは不満がある人には、レビュー(見直し)の制度があります(もちろん有料)。腹が立った友人は、今まで自分が会社で作成してきたリサーチレポートや、勤務先の代表者からのレターなどを束にして郵送したところ、あっさり1.5ポイントも点数が上がったそうです。
 
 IELTSの採点方法を巡っては一時期社会問題になり、大々的にニュースに取り上げられたケースがありました。
 地元オーストラリアのある企業が英語圏ではないヨーロッパ出身者の社員に対して、自社がスポンサーになり永住権を申請しました。ただ、この方は私の友人と同様に、IELTSを何回受けても、どうしても1項目点数が足りませんでした。受験者はかなり優秀な人間で、その企業にとってコアになる人材。ビザ申請がスムーズに運ばないおかげで、会社全体の業務に支障を来たしてしまいました。業を煮やした社長が従業員全員に対して、会社負担でIELTSを受けさせたところ(もちろん全員ネイティブ)、約半数が、移民局の求める点数に届きませんでした。社長は憤慨し、彼らの試験結果を証拠として、
 「ネイティブスピーカーでも取れない点数を移民に要求するとはどういうことだ!」
 「受験料を巻き上げて金儲けしたいだけなのか!」
 と移民局に詰め寄りました。
 
 私は内心、「いけ~、もっと言ってやれ!! 」――この社長を心の底から応援しました。移民局は移民の声には耳を貸したがりませんが、生粋のオーストラリア人(白人) の声には弱く、意見を取り入れる傾向にあります。すったもんだの挙句、そのヨーロッパ出身者にビザが発給されました。
 この社長の英断と行動のおかげで初めて、私の友人も活用した採点のレビュー(しつこいようですが有料です) が行われるようになりました。それまでは受験者は泣き寝入りするしかなかったのです。
 
 


ルールを頻繁に変更する移民局

 
 移民を希望する側よりも、受け入れ判断をする側が圧倒的に優位な立場にいるのは当たり前です。これは公平とか倫理とかを言う前に各国共通の現実です。
 ただ、近年のオーストラリアの移民局の対応を見ていると、行き過ぎた感が否めません。当初、永住権の審査は 「12ヶ月以内に何らかの回答を申請者に対して行う」 と明文化されていましたが、その期間が延びに延び、ここ2~3年は最終的にいつになるか全くわからない状態が続いていました。ビザの審査がどうなるのかわからないために将来に不安を感じ、母国に帰国した人も少なくありません。また移民局は、日本円で数十万円にもなるビザ申請料も懐に入れたままで、回答できていない申請者に対して返還を検討する動きすらありませんでした。つい最近になって、やっと少しずつ審査を再開し始めましたが、累積した審査対象者の膨大な数に追いつくはずもなく、いつになったら申請者全員に回答を渡せるのか、神のみぞ知る。依然として申請者にはストレスと忍耐を要求する現状が続いています。
 
 
 
 なぜ移民大国オーストラリアが、移民の受け入れを渋りだしたのか。日本版の移民ビジネスはどうあるべきか。次回はその真相に迫っていきます。
 
 
 
  南半球でビジネスを考える ~オーストラリア在住・日本人経営コンサルタント奮闘記~
第9回 移民ビジネスのススメ (中編) ~オーストラリアの移民ビジネス、その功罪~

 執筆者プロフィール  

永井政光 Masamitsu Nagai

NM AUSTRALIA PTY TLD代表 / 経営コンサルタント

 経 歴 

高校卒業と同時に渡米、その後オランダに滞在し、現在はオーストラリア在住。永住権を取得し、2002年にNM AUSTRALIA PTY TLDとして独立。海外進出企業への支援、経営及び人材コンサルティングを中心に活動中。定期的に日本にも訪れ、各地で中小企業向けの海外進出セミナーなどを行っている。

 オフィシャルホームページ  

http://www.nmaust.com/

 ブログ  

http://ameblo.jp/nm-australia/

 
 
 
 

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