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自分の成長を実感

 
前回に引き続き、日本代表の通訳時代のお話をします。
 
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通訳を務めた4年間は、予想通り内容の濃いものになりました。ザッケローニ監督や選手、スタッフの方々と一緒に仕事ができたおかげで、僕は通訳としてだけではなく人間的にも、一回りも二回りも成長できたと思います。
 
特にザッケローニ監督からは多くのことを学びました。もう何度もご紹介してきましたが、本当に素晴らしい人格者です。監督の仕事は様々な困難に見舞われるもの。僕は通訳として、時には監督に悪い情報も伝えなければならない立場でした。ですから、「この言葉をそのまま訳して伝えたら、監督は怒るんじゃないか」と不安になったこともあります。でも、監督は誰と話し合う時も常に冷静で、感情的になることはありませんでした。きちんと相手の話を聞いて、そのうえで自分の考え述べる。だから、行われる議論はいつも建設的で、意味のあるものになっていました。
 
「感情的になってはいけない」と頭でわかっていても、理性を100%コントロールし切るのはとても難しいことです。心に余裕がある時ならば誰でも、人に対してある程度は寛容になれると思います。でも想像してみてください。一国の代表チームの監督という、とてつもないプレッシャーにさらされる仕事をする中で、常に冷静さを保つことは生半可な精神力ではできないはず。冷静沈着でありながら、決して人としての温かみも失わないザッケローニ監督の対応を間近で見ながら僕は、「いつかこの人のようになりたい」といつも思わされました。
 
そんなふうに僕は、ザッケローニさんからチームのマネジメント術だけでなく、一人の人間としてどうあるべきか、どのように他人と関わっていけば円滑なコミュニケーションが取れるのか――ということも教わったと思います。
 
 

サッカー観もガラリと変わった

 
あともう一つ、サッカーを見る目がこの4年間でガラリと変わりました。ザッケローニさんと仕事をするまでの僕のサッカーに対する知識は、今を100とするのなら、1くらいなものでした。ザッケローニさんとたくさんの試合を視察し、どのような視点でゲームの流れや選手の動きなどをチェックしているのかを知ることで、僕自身のサッカー観にも奥行きができたと思います。今では試合を観戦しながらリアルタイムに、選手らがどういう意図を持ってプレーしているのかについて詳細な説明ができるようになりました。
 
この数ヶ月で何度かザッケローニさんと仕事をする機会があったのですが、2月にお会いした時はCSの番組で放映されるセリエAの試合でザッケローニさんが解説をし、僕が通訳をする仕事でした。僕もセリエAはずっとチェックしているので、ザッケローニさんに僕がいいプレーをしていると思った選手の印象などをお話しすると、ザッケローニさんもその選手に対して同じような意見を持っていました。僕のサッカー観の全てが「ザック流」に染まっていたから起きたことかもしれないですが、嬉しかったです。
 
この仕事でザッケローニさんや日本のトップレベルの選手たちと深く関わってきて、心底実感したことがあります。それは、仕事の業種や分野がなんであれ、向上心を忘れずに物事を追求し続ける人だけが、夢を実現できるのだということです。本田圭佑選手や長友佑都選手ら、代表に選ばれる選手は皆、向上心の塊です。常に満足することなく上のレベルを目指している。ああいう姿を見ていると、彼らがどうしてビッグクラブに移籍できたのかがよくわかります。
 
 

あの刺激的な体験を別の形で!

 
通訳という形ではありますが、そうした人たちと仕事ができて、夢にまで見たワールドカップの舞台にも立てたことを考えると、本当に感慨深いです。終わってみると、「あと2回は参加したいな」と思えるほど刺激に満ち溢れた大会。それがワールドカップでした。
 
今後の人生の中でも、あの時と同じような刺激やプレッシャー、そして緊張感が味わえる場所に身を置ける環境をつくらなくてはいけないと思います。それをサッカーの世界で、あるいは他のビジネスで実現させるのか、今はわかりません。でも、刺激を得られる仕事の舞台をつくりあげることを目指していくのが、これからの僕の目標の一つです。
 
このお話もいよいよ大詰めを迎えました。次回は最終回です。どうぞお楽しみに!
 
 
 
 
矢野大輔の 夢と情熱!~ il sogno e la passione! ~
vol.5 刺激的な体験が、新たな目標を生む 

  著者プロフィール  

矢野 大輔 Daisuke Yano

元サッカー日本代表通訳/compact 所属(イタリアのスポーツマネジメント会社)

  経 歴  

1980年7月19日東京都生まれ。イタリアのサッカーリーグ、セリエAでプロサッカー選手になるという夢を抱き、15歳でイタリ アに渡る。異国の地で様々な苦難を乗り越えながら、サッカー漬けの青春を送った。22歳でプロサッカー選手の夢は断念したが、知人の勧めで トリノのスポーツマネジメント会社compactに就職。日本とイタリアの企業を仲介する商談通訳などに従事する。2006年にトリノに移籍してきた 大黒将志選手の専属通訳に。そして2010年、イタリア人のアルベルト・ザッケローニ氏が日本代表監督に就任したことに伴い、チームの通訳に 抜擢される。ブラジルワールドカップまでの4年間、監督と選手が意思疎通を円滑に進めるための重要な役割を担い、監督のみならず選手からも 信頼を得る。2014年、ザッケローニ監督の退任と同時にチームを離れ、現在は執筆、講演、メディア出演などを通じて、日本代表時代の経験や 自身の思いを伝える活動に取り組んでいる。著書に『通訳日記』(文芸春秋)、『部下にはレアルに行けると説け!!』(双葉社)がある。

 オフィシ ャルホームページ 

http://daisukeyano.com

 ブログ 

http://ameblo.jp/daisuke-yanoblog

 
(2015.5.13)
 
 
 
 

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