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副題は「偽ニュースはなぜ生まれたか」ですが、本書はWELQから始まった一連の問題を特に取り上げてその経緯を検証する本ではありません。●●●●。Yahoo!ニュースやLINEニュースといった主なネットニュース媒体のうち5つについて、開始時から現在までの変遷を追い、メディア志向かプラットフォーム志向か、コンテンツをどう確保しているか、ビジネスモデルはどうなっているか、トップはどんなビジョンを持っているか、等を整理し、課題も一緒に描きつつ、ネットニュース業界への正しい理解を広めようとする本です。その意味で、DeNAの周辺を露悪的に暴いて溜飲を下げさせる類の本とはまったく違います。
 
実は当初、書き出しの「●●●●」の箇所は「でも、ツマラナイと思うなかれ」としていました。読者は「なーんだ、つまんねえの」と思うだろうと想像したからです。もちろん出版元は意識的にこの副題にしたと思います。あるいは最初からこの副題に決まっていたとしても、DeNAの件が世間の話題に上っている間は強力な“引き”になることを見込んでいると思います。
 
ただ、どうなんでしょう。評者が当初書き出しで想像した読者の受け取り方も、出版元がこの副題でマーケティング的に想定したであろう市場の読者の反応も、本書に出てくる言葉を借りて言えばあまりに“脊髄反射”的ではないか。しかも悪いことに、既存のエコシステムはこれを責めません。きっと許容します。書籍の他にも、サイトやアプリやSNSや紙雑誌などの各媒体、そこにある情報を消費するユーザー、媒体に広告を出す代理店、代理店に発注する広告主も含め、脊髄反射的な快楽で回すこのエコシステムは、“誰かが仕掛けた祭りだから”と自分の責任が回避できるうちは誰にとっても好都合だからです。
 
でも、はたしてそれでいいのか? ●●●●の箇所を削ったのはそう思ったからです。読者のイメージを根底から変えたので原稿も一から書き直しました。評者の場合は書評を書く作業と向き合う中で脊髄反射の罠にとらわれていた自分に気付きましたが、バズらせて利益を上げたいだけのバイラルメディアの存在も暴かれた今、このエコシステムを“なんかイヤだな”と直感的に回避するようになったユーザーがかなり増えているのではないか。この直感を、単に見透かされて嫌われただけなのに「メディアリテラシー」などと呼んでみたり、あるいは現象面を指して「本が読まれなくなった」とか「以前ほどPVが伸びない」とか、「広告が難しい時代」などと言ったりして済ませている部分は、あるのではないか。LINEが運営する「BLOGOS」の田野幸伸編集長のような発言はこの反省から逆説的に出てくるのでしょう。本書107ページから引用。
 
「2016年2月、田野が「Yahoo!にPV(ページビュー)で勝ちたいならPV(パイビュー)で勝負せよ」というタイトルで執筆した記事がメディア関係者の話題となった。‥略‥「調査報道がどうだとかデータなんたらとか、理屈をこね回した討論会をやって自己満足してる「メディアの未来とは」「ネットジャーナリズムとは」みたいなイベントはもう充分なんです!結論はわかってるでしょ。PVを取るのは猫とおっぱいなんですよ!」「汚いマスコミ出身者が聖人君子ぶりやがって。お前らイベント終わったら会社の金でキャバクラ行くくせに。死ねよほんと」」
 
論点は「PVをいかに取るか」で、その意味で田野氏は逆説的どころか、真正面過ぎるぐらい真正面なわけですが、「PVを取らないと広告が取れずビジネスにならないから」という文脈を広げて「なぜネットニュースを続けるのか。ネットニュースを事業にしてどうしたいのか」と問われた時の各社の違いが垣間見えたのが、本書の一番の収穫でした。
 
初期のニュース流通の絶対君主だったYahoo!。鈴木健共同CEOの思想性が際立つスマートニュース。「良質なコンテンツはタダではない」と喜多恒雄社長が言い切る日経新聞電子版。アカウントを地方紙やテレビ局、雑誌社に開放してプラットフォームに徹し、島村武志上級執行役員が「機関紙のレベルがやりたくてやりたくて仕方がない」と興奮するLINEニュース。ビジネスの中心にはニュースがあると気付いた元証券マンの梅田優祐氏が経済系サイトの若手編集長だった佐々木紀彦氏を迎えて始めたNews Picks。トップが「こうだからだ」と答えなくても、本書を丁寧に読めば自ずとそれぞれの違いが見えてきます。皆さん必ずどれかは利用しているはずのネットニュースの業界で、過去何が起きてきたか、今何が起きているか、一気に知ることができる一冊。お勧めです。
 
(ライター 筒井秀礼)
 
『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』
著者 藤代裕之
株式会社光文社
2017/1/20発行
ISBN 9784334039660
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価格 本体800円

(2017.2.8)
 
 
 
 
 

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