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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
華々しいデビューから、今日まで何不自由なく作品を生み出し続けてきたように見える綿矢さん。しかし実際には、16年間の作家生活の中で作品が思うように書けず、悩んだ時期があったそうだ。2004年に芥川賞を受賞して以降、『勝手にふるえてろ』を書き上げるまでの約6年間、苦しい思いをした時のことについて、振り返ってくれた。
 
 

苦悩の時期を経て執筆を楽しめるように

 
一時期スランプに陥ってしまったのは、早くから芥川賞をいただいたことも影響していると思います。受賞後、生活がそれまでと一変したことで、作品を書く感覚を忘れてしまったというか、つかめなくなったんです。たくさん書いていたらまたすぐに書けるようになっていたんでしょうけれど、私の場合はそれまでにまだ2作品しか書いていなかったので、どうすれば書けるようになるのか、わからなくなっていました。
 
それから、当時は書きたいものを書くというよりは、「こういうものを書いたほうが“文学的”だ」と考えてしまっていて。でも途中で、大作や大長編じゃなくてもおもしろい作品はたくさんあることに改めて気付いたんです。それ以来、等身大で作品を書くように心がけたら、気負いや気恥ずかしさが自然となくなって、書けるようになりました。
 
結局、たくさんの人が読むんだと意識し過ぎてしまうと、どこかキレイ事のようになってしまうんですよね。だからそういうことはあまり意識せず、主人公を自由にさせてみたら、私も一緒に自由になれました。それからは、1年に1冊くらいのペースで本を出すことができています。
 
そうやってコンスタントにこの仕事を続けてこられたのは、変に「これは仕事だ!」と思わず、むしろ楽しんで書いている、くらいの気持ちでやってきたからだと思います。仕事という意識がない時のほうがスイスイ書けるし、単純に自分が読みたいものを書くほうが、原稿を見直す時も楽しいんですよ(笑)。 例えば推理小説を書こうと思っても、知識がなければ書く時ばかりか読み返す時も大変です。でも自分の興味のあることなら、調べたり書いたりしているだけで楽しいし、それが仕事でも苦には感じません。そう考えるともしかしたら、私はけっこうわがままに自分の読みたいものを書いているのかもしれないですね(笑)。