中田さんは現役時代、鹿島アントラーズの一員として、多くのタイトルを獲得している。そんな中田さんに、結果を出せる組織にはどんな秘密が隠されているのか、聞いてみた。
常勝軍団の強さの秘密
鹿島の場合、大事な試合を勝ちきるための、勝負どころを知っているチームだったのが大きいと思います。僕が新人として加入した当時から、鹿島にはそういった勝者のメンタリティーが組織に植えつけられていました。これは、日本サッカーがプロ化される以前、アントラーズの前進となる住友金属工業蹴球団時代から所属していた、元ブラジル代表のジーコがいた影響が大きいと思います。
世界的な名選手であるジーコのスピリットを注入された選手が育ち、そうした先輩たちが活躍していた頃に僕らはチームに加入しました。普段の練習から一切手を抜きませんから、僕らも全力で取り組まないと、いつまで経っても試合に出るチャンスが巡ってきません。
勝つことに貪欲な先輩たちと一緒に練習をして、ポジション争いをしながら少しずつ試合に出られるようになって、その試合に勝ち続けることで自然と先輩のやり方を引き継いでいく。そういう世代交代の伝統が鹿島にはあるんですね。そんな環境でトレーニングをして試合に勝ち続けていれば、試合をしている最中に勝負の分かれ目となるような局面がわかってくるんです。選手として自信がついているからなんでしょうね。その各選手の自信を持ったプレーが組織の中でうまく噛み合って、きわどい試合でも結果を生み出すことができていた。
あと、ジーコはよく、「クラブチームはみんながファミリーだ」と言っていました。そんな雰囲気があるのも組織としての強さでしょうね。鹿島はフロントのスタッフも選手もみんな仲がいい。今だって、僕がデスクワークをしているフロアに顔を出して、「本当に働いてるんだ」なんて、からかっていく選手もいます(笑)。スタッフも選手もフラットな付き合いができるのは、チームとしての信頼関係があるからだと思います。
ユース世代から日本代表に選ばれ、数々の世界大会に出場してきた中田さん。プレッシャーのかかる大事な試合に、どのような気持ちで臨んでいたのだろうか。
日ごろの節制が結果を左右する
僕はとにかく、試合前から深く考えないようにして、「日々の練習で繰り返しやってきたことを試合で出せばいい」というスタンスでどの試合にも臨んでいました。やっぱり、大事な試合で新しいことを試みるのはなかなか難しいし、上手くはいかないと思うんです。
だから、本番で納得のいくプレーをするには、日頃の練習がものを言います。僕は選手として足が速いわけでも技術があるわけでも、無尽蔵の運動量があったわけでもない。全てにおいて平均レベルの選手と自己評価していたので、とにかく勝利にこだわり、「持てる力を試合でいかに出し切るかが勝負だ」といつも思っていました。つまり、どんな試合においても力を発揮して結果を出すには、選手として当たり前にやるべきことを、当たり前にやり続けることが大切なんです。
人は誰でもそうだと思いますが、メンタルもコンディションも常にベストの状態で、毎日の仕事に臨むのってすごく大変じゃないですか。予期しないことも起こるし、世間には様々な誘惑もありますからね。サッカー選手の場合、試合がない日は3時間くらいの練習が終わったら、あとは全てプライベート。だから、その時間をいかに過ごすかが非常に重要になってくる。
息抜きに遊ぶことも大事ですけど、たとえ遊んだとしても僕は、どこかで区切りをつけて節制することを意識していました。今振り返っても、当時は本当に暇がたくさんあったと思う。今は皆さんと同じように会社員として働いていてほとんど休みがないので、そのことを強く実感しています(笑)。いずれにしても、サッカー、つまり仕事のことを考えて余暇をどう活用するのか。そこがプロとして活躍できるかどうかの分かれ目だと思います。
僕自身は、その当たり前の、最低限はやっておくべきことができていたから代表にも呼んでもらっていたと思う。逆に、当たり前のことができずに、引退せざるを得なくなった選手もたくさん見てきました。才能に恵まれていても、やるべきことをきちんとやり続ける大切さに気付けないと、長く現役で活躍することはできません。三浦知良選手、カズさんのように、あの年齢になってもサッカーのために欠かさず身体をケアし、日々トレーニングを続けられるのは、本当に驚異的なことですよね。