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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

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野村さん自身が最も理想的な柔道ができたのは2回目の出場となったシドニーオリンピックだという。当時25歳。前大会のアトランタの後、さらに経験を積んで技術を磨き、得意の背負い投げだけでなく多彩な攻めで一本勝ちを続けたその強さは、無敵とも言えるものだった。
 
 

一度決めたことは途中で投げ出さない

 
 あの大会では、心技体がバランスよく噛み合ってイメージ通りの戦いができ、連覇を成し遂げることができました。実は大会以前から、前回のチャンピオンということでライバルたちに警戒されて臨む、厳しい大会になることはわかっていたので、「シドニーで金メダルを取れたら格好よく引退しよう」と思っていたんです。でも、思い望んだ結果が得られたのに、「俺はもう充分にやり切った」という気持ちにはなりませんでした。とは言え、すぐに次のアテネ大会を目指す気持ちも湧いてこない――。結局、所属先のミキハウスにわがままを言ってアメリカ留学をさせてもらうなど2年間考え抜いた末に、アテネを目指して復帰することにしました。
 
 ところが、ブランクを経て実際に試合に出場してみると、想像以上に勝てない日々が続いたんです。周囲からは「野村はもうダメだ。引退したほうがいいのでは?」と失望の声も聞こえてきました。あの時は本当にきつかったですね。今までどういう気持ちで相手に向き合ってきたのか、そしてどうやって勝ってきたのか、これまでの経験が足枷になってしまうくらい、試合に臨む姿勢や勝ち方がわからずにスランプに陥ってしまっていた。あの時は生まれて初めて柔道が嫌いになったし、ものすごく惨めな気持ちでいっぱいでした。
 
 でも、アテネを目指すと決めたのは他ならぬ自分自身です。僕は優柔不断な人間なので、決断するのに時間がかかる。だからこそ、アテネを目指すかどうか2年も迷い続けた。その結果として復帰を決めたからには、やり通さなくてはならない。会社や応援してくれている人たちに対して、責任を果たす必要もありました。そして何より、自ら望んでチャレンジを決断したのに途中で投げ出したら、一生後悔し続けるだろうと思ったんです。
 
 
スランプに陥ったとは言え、アテネオリンピックまでは1年近い時間があり、巻き返すチャンスは充分にあった。野村さんは打開する術を見出そうともがき、ある結論に至った。
 
 

プライドを捨ててやり直す

 
 状況を打破するためには何かを変えなければならない。それで冷静になってみると、「オリンピックを連覇した野村」というプライドを捨てられずにいたことに気付きました。周囲の評価を気にして、格好いい柔道をすることばかり考えていたんです。「これぞ野村の柔道」という、つくられたイメージを体現することに意識を奪われているから、自分の柔道を窮屈なものにしていた。そのことにやっと気付いたんです。
 
 それで、格好悪くてもいい、泥臭くてもいい。どんな試合をするかよりもまず、ブランクを経て復帰した自分がアテネに向けて行っている努力を、畳の上で出し切れるかどうかの戦いなんだと気持ちを切り替えました。
 
 
開き直った野村さんは、以前の強さを取り戻す。結果としてアテネの代表選手に選ばれ、大会では前人未踏の3連覇という快挙を成し遂げて見せた。
 
 

真剣に取り組めば、時間は無駄にならない

 
 3連覇を果たした時に僕は初めて、諦めずにチャレンジし続けることの意味を心の底から実感しました。そしてそれ以降は、周囲の評価を気にすることなく、自分の柔道を貫けばいいと思えるようになったんです。もちろん、全く気にしないでいられるわけではないですけど、あの当時のようにスランプに陥ってしまうほど神経質になることはなくなりました。それよりも、自分の決断した道を、自分を信じて迷わず歩めるようになった。だからこそ、今でもこうして現役を続けていられるのだと思います。そういう意味で、ブランクからの挑戦を経てアテネで金メダルを取れたことは、僕の人生の中でも非常に大きな体験でした。
 
 真剣に、妥協することなく努力を続けていたら、その過程において無駄になる時間なんて一切ありません。僕は“柔の道”を究めようと挑戦を続けている中で、たくさんの壁や困難に向き合ってきました。そしてそれを乗り越えるための戦いを続けてきたことで、自分の経験や物事の考え方に奥行きが出てきたし、支えてくれるたくさんの方々と出会い、輪を広げることができた。それらの財産は間違いなく今後の人生に生きてくるはずです。だから今は、スランプに陥っていた頃のように、結果が出せないからと言って自分を惨めに思うことはありません。
 
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