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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW


 
プロフィール 1960年、長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、アメリカのコーネル大学ホテル経営大学院修士課程へ。その後、日本航空開発、シティバンク等を経て1991年に (株) 星野リゾート代表取締役に就任し、先代より会社を引き継いだ。その後、星野温泉ホテル、ホテルブレストンコートなど宿泊施設の運営、軽井沢高原教会や石の教会 内村鑑三記念堂をはじめとするブライダル事業など、既存のビジネスの枠組みを守りながらも新規拡大を続け、観光リゾート業界の風雲児として頭角を現す。2001年からは山梨県リゾナーレの経営権を取得して再生させ、2003年からはアルツ磐梯の経営に参加して業績を立て直すなど、その運営力を活かした経営再建事例が注目された。国土交通省の観光カリスマ百選選定委員会から 「第2回観光カリスマ」 としても認定され、日本の観光産業振興のカギを握る経営者として注目されている。星野リゾートは現在、全国で21のリゾート、旅館を運営している。
 
 
 
外国企業が日本に拠点を構えることが珍しくない今の時代。もはや中小規模の企業であっても国際競争の波にさらされている。資本、人材、サービス・・・・・・ あらゆる面で熾烈な争いを余儀なくされているのだ。日本のホテル業界、リゾート業界にも大きな変革期が訪れる中、日本の観光リゾートを牽引する異端児が口を開いた。星野リゾートグループの代表、星野佳路氏である。
星野リゾートは、日本の観光業界では勝ち組と言われる企業だ。だが星野氏は、「世界的に見るとまったく勝ち切れていない」 と痛切に己を省みる。不況下でレジャーに対する消費者の動きが鈍く、ただでさえ苦境に立たされている観光リゾート業界で気を吐く星野氏。日本の観光リゾートの課題や、いま星野リゾートが何をどう考えてビジネスを育てているのか。その本心に迫った。
 
 
 

日本の観光リゾートに求められる「運営の達人」

 
 日本の観光産業の弱点は、ずばり海外との競争力の低さです。国内各地でいろいろな企業が競争を繰り広げていますが、今や海外資本がどんどん流入しているわけで、ライバルは国内だけにとどまらなくなっています。
 しかし、商品力という面で、海外の観光産業や企業とまともに競争できているところと、できていないところがあります。
 星野リゾートは、今までの施策や実績に対して、ある程度の評価をいただいておりますが、私はまだまだだと考えております。世界レベルで見たときの商品力はまだ弱い。ですから、今の時代と照らし合わせて私たちが目指さなければいけないのは、リゾート産業を、世界規模で見直したときに勝てる商品のある市場にすることです。 
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東京事務所のエントランスにある、 「達人の3条件」 を定めたプレート。
星野リゾートでは、CS(顧客満足度) と経常利益率とエコロジカルポイント
を “同時に” 達成できてこそ運営の達人であると考える。

 私は、これから先の経営はいろいろな分野で 「運営」 と 「所有」 に大きく分かれていくと考えているんです。資本を注入しても、それを 「運営」 するスペシャリストがいなければ、今度は資本すら入ってこなくなります。そうなると、日本のリゾート産業は発展のための基本的な要素を失うことになりかねません。資本が所有だけで入ってこられる状態を作るために、あとの運営を任せられるスペシャリストを育てないといけないんです。
 
 星野リゾートはその大きな一翼を担うべきだという自負が私にはある。だからグループとしても 「リゾート運営の達人になる」 と宣言しています。
 
 


人材を育てるための 「究極のフラットさ」

 
 それには、優秀な人材を業界に呼び込まないといけない。そのための努力や工夫もしていかなくてはいけない。
「人材を育てる」というテーマは、過去にいろいろな企業が多くの試みをしてきたでしょう。星野リゾートでは、まず職場環境の面から、「人材が育ちやすい企業文化・風土はどんなものか」 と考えて取り組んできました。
 その中で私が大事にしてきたのは、「言いたいことを言える環境をキープする」 ということです。星野リゾートでは、施設運営に関わる権限を各ホテルや旅館の総支配人に集中させる手法はとっていません。かといって、末端のスタッフからのボトムアップに頼るわけでもない。私からのトップダウンで決めてしまうわけではなおさらない。
 言わば 「究極のフラットさ」 ですね。役職に関わらず同じテーブルで議論できる文化。グループの代表である私も、現場の運営を総支配人に任せていますが、任せきっているわけではなく、問題があればトップダウンもありえるだろうし、現場は現場で総支配以下スタッフ全員での議論がある。収益の責任は総支配人にあっても、総支配人のやろうとしていることがおかしいと思えば誰でもおかしいと言えるし、良い意見があれば職位に関係なく通る。そんな企業文化を育ててきたわけです。
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 もちろん、議論が喧々諤々として進まないことだってあります。それを私が鶴の一声で 「こちらが正しい」 と収めれば話は早いのでしょうが、私は、それはしてはいけないと考えています。「こちら」 と言うことはできますが、ずっと彼らの様子を見ているわけではないし、現場に付きっ切りで見ているわけではない人間が氷山の一角だけ見て皆を誘導してもあまり意味はない。それよりも、現場で起こっていることをより多く知っている彼らが自分で議論を導いたほうが、正しい判断にいたる蓋然性は高いはずです。議論のされ方を聞いていれば、高い確率で正しい判断が導かれる議論になっているかどうかは、分かります。
 私が介入するのは議論の精度を高めさせるところまで。トップが誘導しないから、議論は時に、大いに混乱します。でも、だからといって簡単に手を差し伸べてはいけません。混乱は社員が成長するチャンスですからね。それに、イジワルなことを言えば、外から混乱を見ているのは少しだけ楽しいし(笑)。
 私は、社員の働く環境には 「楽しさ」 があってほしいと思っています。軋轢、混乱・・・ 私の言う “コンフリクト” が生じているときの仕事は楽しいですよ。カオス状態にあるときに人間の脳は最も活性化しますからね。毎日何もなく、お客様がチェックイン・チェックアウトしているだけで、誰もが平穏につつがなくやっている日常というのは、面白くないでしょう?
 仕事を楽しくするためにはいろんなことがあっていいと思う。働くうえで、そういう 「楽しさ」 と 「コンフリクト」 の同居をたくさん経験することが重要ですね。その中から、社員同士の、今までになかったコミュニケーションが生まれます。
 
 
 

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