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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW


 
プロフィール 初代・菅野春吉、二代目・菅野良彦から会社を受け継いでいる三代目。昭和32年の 「渓水」 設立以前、まだ前身の 「菅野製作所」 と名乗っていたころからの精密鈑金加工技術を守り続けている。当代まもなくバブル崩壊の影響で菅野製作所が倒産したものの、古い取引先など周囲の協力を得て復活、現在に至っている。初代は全国を渡り歩く、いわゆる “渡り職人” であり、昭和5年の大坂城大修復工事にも参加。屋根の銅瓦棟梁として活躍した。現在は、板金加工のほかに多種少量生産製品製造、試作品手造り鈑金、精密機械加工、旋盤、フライス加工などを行う他、自社完全オリジナルの AERO CONCEPT を展開している。
 
 
 
ルイ・ヴィトンやトヨタなど、世界中でその名が轟いているメーカーとの提携話があるとする。一般の企業の価値観で言えば、まず大概が 「YES」 と答えるだろう。彼らとの提携はそれだけ大きなビジネスチャンスの匂いがするからだ。だが、株式会社渓水の当代、菅野敬一の考え方は違った。自分たちのスタイルを崩してまでする “提携” に意味があるだろうか ――。そこには、ビジネスピープルとしてではなく、一徹にアルミの板金加工職人としての誇りを最優先する不器用な男のこだわりがあった。だが、その不器用さとこだわりが、「エアロコンセプト」 という完全ハンドメイドの逸品を支え、そして支持されているのもまた確かなこと。アルベール二世現モナコ国王やアブダビ王族、スーパーモデルのクリスティー・ターリントン、ハリウッドからはジョージ・クルーニー、ロバート・デ・ニーロ、ユマ・サーマンといった各界の一流がほれ込むジャパン・ブランドの、素顔をのぞく。
 
 
 

作りたいものを作るというシンプルな考え

 
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 「どうしてそんなおいしい提携話を断ったのですか? ルイ・ヴィトンとトヨタですよね?」
 記者が尋ねる言葉に株式会社渓水の菅野敬一社長が返した答えは、あくまでシンプルだった。
 「やっぱり、提携となるとどうしてもスタイルを崩さなくちゃいけなくなるから」
 別に大手資本との提携話を無碍にしたいわけではないと前置きをして、菅野は話を続ける。「自分たちの良さを殺してしまってまで提携することに、意味を見つけられないんですよ」と。そして、やりたいことができなくなるのが一番良くないと。
 
 菅野がエアロコンセプトでやりたいこと――。
 
「自分の欲しいものを、自分の手で作りたかっただけなんですよ。作るときには、こんなシチュエーションで使いたいっていうイメージがすごくある。僕はそこから発想する」
 
 自分が欲しいものを作る―― モノづくりに取り組む動機として、これほどシンプルなものはないだろう。そして、目指すイメージの実現に向けて職人が一切の妥協を許さないとき、モノづくりの作業は、数え切れないほどの失敗と挑戦をくりかえす。しかもそれは、机上の理論をいくら振りかざしても答えが出ない作業なのだ。
 エアロコンセプトも、ブランディング理論やマーケティング理論から生まれたものではなかった。そうではなく、アルミの板金加工について高い技術力を持っていた同社が、まさに菅野の言葉通り、「作りたいものを作ってみた。そうしたら支持してくれる人が大勢いた」という、まさに流通の原点と言えるべき構図で誕生した。
 
 良品は良人を呼ぶ。ジョージ・クルーニー、ロバート・デ・ニーロといったハリウッドの最重要人物から、フェンダー社副社長のジェフ・ムーア、シルバーアクセサリーの第一人者ビル・ウォールといった多くの各界著名人までもが極東の小さなブランドに惚れ込んだ。世界的なブランドであるルイ・ヴィトンやトヨタが着目するのも無理はない話だ。
 しかし、提携話はおおよそ対等のパワーバランスのもとでは行われない。ダブルネームを拒否されたり、コンセプト変更を求められたり・・・・・・。提携と名がつく “利用” が多くなるのが実情だ。もちろんビジネスであれば、互いに利用し利用されることにも意味がある。一種のアピールと考えればいいからだ。だが、ビジネスではなくモノ作りの職人という立場であれば、我が子のように大事なモノたちをおいそれと扱えるはずがない。
 「自分たちがやりたいことを殺してまで、提携することに意味があるとは思えない」
 菅野が大手との提携話を断ったのは、こうした理由からだった。
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フェンダーのギターを収めたエアロコンセプトのギターケース。内部は完璧に磨き上げられ、単なる入れ物ではない、ギターをもしのぐ存在感を漂わせている。

 
 
 

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