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映画は喧嘩や。ビジネスもそうやないんかい ―― 映画監督・井筒和幸が私的映画論にからめて、毎回一つのキーワードを投げかける。第21回はフランスの古典『悪魔のような女』(1955年・フランス)から、男も女も欲と二人連れ”
 
 
 のけ反ってしまいそうなほど、とても古い映画がある。中味ものけ反ってしまう。これは、とても昔の映画。しかし、昔の映画には勝てない。教訓も多い。『GIジョー』 で忍者合戦を見ても、それでどうしたって感じ。先日、別の原稿を書くためにわざわざ映画館まで行って、福山雅治主演の殺人事件の謎解きモノを見たが、真犯人は貴方でした! って言われても所詮、小説のありもしないホラ話、そのまま映画にするな! って呆れて帰ってきたところ。今、1800円で満足できる映画など皆目ない。1800円払うのなら昔の二本立て興行に戻せと言いたい。70年代まではしっかり二本見られた。小麦粉、天ぷら油やマヨネーズまで円安に耐えられず値上がりしてるが、映画はデフレ脱却どころか、逆にもっと安くなっていい。映画は人生の深淵に気付かされるものだが、800円ぐらいでいい。人の人生にそんな高級なモノはないのだから。
 
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『悪魔のような女 』 1955年・フランス
DVD発売中 ¥5,040(税込)
販売元: 紀伊國屋書店
 気味が悪いが、考えさせられる。妻の豊かな財産で運営されるパリ郊外の全寮制の小学校の校長の座に収まっているミシェルは、妻以外にもう一人、女教師ニコルとも不倫をしていたが、やがて、横暴でわがままなその彼に、妻もニコルも二人とも我慢ができなくなって、ニコルの企みでミシェルの殺人計画を思いつき、次の休暇の間にニコルの家へ行き、電話でミシェルを呼び出すことにする。いざとなると妻は怖気づくが、気の強いニコルは、彼女を説得し、ミシェルに睡眠薬入りの酒を飲ませ、ひっくり返ったところで浴槽に沈めて窒息死させてしまう。女どうしはいざとなれば平気で行動に移すから恐ろしい。翌朝、二人は、その死体を、用意したデカいカバンに詰めてトラックで学校まで運んで戻り、夜に死体を学校の濁ったプールに投げこみ隠してしまう。
 たちまち、校長が消えたことは学校の子供たちの話題になるが、ニコルは平然を装う。やがて、生徒がプールで校長のライターを発見したというので、不安になった妻は、プールの水を流して干すことにするが、ミシェルの死体はなかった。おまけに、ミシェルが殺された時に着ていた洋服がクリーニング屋から届けられる。妻は洗濯屋から依頼者を聞き出しそのアパートヘ行ってみるが、誰もいないのだ。ますます不安になる妻は、校長に似た死体がセーヌ河に浮かんだという新聞記事も見て、警察の安置所に行ってみるがそれも人違い。いよいよ薄気味悪くなる。不審がる刑事も学校に来て調査を始める始末。生徒がガラスを割って校長に叱られたと言ったり、学校で記念撮影をしたら、校長が写真に写っていたりして、妻はもう恐怖に耐えられなくなり、持病だった心臓病がひどくなって寝こんでしまう。もう後戻りできない、底の知れないことばかり、サスペンスが重なる。こんなことは日常、なかなか体験できないものだが、人間、何か一つ悪いことをしてしまったと後悔し始めると、次から次に疑心が暗鬼を生じて、それこそ、いない鬼まで見えるようになるもの。追いかけるようにニコルまでが学校を辞めて去って行く。
 
 そして、夜がやってくる、妻が一人で寝られずにいると、不気味な足音が聞こえる。動揺した彼女は部屋におれなくなって廊下に出て足音を追っていく。風呂場まで来てしまうと、浴槽にはなんと殺した時そのままのミシェルが沈んでいて、そして次の瞬間、その死体がむっくりと起き出し・・・、彼女は恐怖のあまり心臓発作を起してしまって・・・。実は、ミシェルこそ生き永らえていたのだった。
 
 
 このクライマックスから結末まで、見事に気味悪い。男も女もどっちも欲どしい。これを見て、男は、女のほうが男を騙すのは上手だし、女は何をやってもズル賢い生き物だから、ほどほどに付き合っておけば得だしと思い知る。そして、女は、男のすることなど初めから見え透いていて、男は何をしても愚かな動物だし女に勝てるわけもないし、ほどほどに付き合っといて損はないとこっそり思い知る。このフランスの古典は、男と女の付き合いについての考察でその辺のホラーの比ではないと最近、思い直した。雄と雌は絶えず、欲と相談、欲と二人連れで生存競争している気がする。君のためならボクは死んでもいい、なんて誰が言ったのかだ。そんなことまで思うほど、この映画は深い。(実は原題には、女も男もない。「悪魔のような」 とだけ。それにしても、人間はエゲツなく、オモロい霊長類だわ) 
 
 
 

 執筆者プロフィール  

井筒和幸 (Kazuyuki Izutsu)

映画監督

 経 歴  

1952年、奈良県生まれ。高校在学中から映画制作を始め、1975年、高校時代の仲間とピンク映画で監督デビュー。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞。以降、『晴れ、ときどき殺人』(84年)、『二代目はクリスチャン』(85年)、『犬死にせしもの』(86年)『岸和田少年愚連隊』(96年)など、社会派エンターテインメント作品を発表。『パッチギ!』(04年)では05年度ブルーリボン最優秀作品賞をはじめ、多数の映画賞を総なめに。舌鋒鋭い「井筒とマツコの禁断のラジオ」(文化放送)など、コメンテーターとしても活躍。『黄金を抱いて翔べ』のDVDが絶賛レンタル中。

 
 
 
 
 

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