不安や恐怖があるからこそ
その先に楽しみを見出せる
生きている人のためになる芝居を
その舞台を観て、衝撃を受けました。もちろんおもしろいと感じましたし、僕が好きな世界観にぴったり当てはまっていたんです。10年が経った今でも、その世界観に惹かれていることに変わりはありません。今回出演させてもらう『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』を含めた「奇ッ怪」シリーズにも同じ魅力があると思っています。
その魅力について具体的に言うとするなら、少し現実離れしている不思議な設定、例えば死後の世界の話をしている。でもその話の核には、今この時間を生きている人にとって大事なことをもってきている、ということ。特に、前回の「現代能楽集Ⅵ『奇ッ怪 其ノ弐』」ではそれを強く感じましたね。この舞台は、死者が生者に語りかけるという内容でしたが、前川君が戯曲を執筆中に東日本大震災が起きてしまったんです。
そういった状況の中、死者の登場する舞台を上演することに前川君も葛藤があったと思います。でも、死者についての話が、いつの間にか生きている人のためになる話になっている。そんな、前川作品の魅力が詰まった舞台にできたんじゃないかな。それは、7月現在、前川君が執筆中の『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』にも期待するところ。ここではない、遠くの地で起こった奇怪な出来事を演じながらも、その日劇場に観に来てくださった方の心に、何か重要なものを残せる舞台にしていきたいと思っています。