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テクノロジーの進歩が新たな仕事を生む

 
 
2019年12月、国土交通省はドローンの機体情報の登録を義務化するとの方針を明らかにした。さらに、空港などにドローンを検知するシステムを導入し、機体登録制度の構築と併せ、2020年度予算案に経費を計上するという。
 
今やドローンは、上空からの撮影、測量、農薬散布など、さまざまな分野で利用されている。しかし、ラジコンヘリコプターのように、無線で遠隔操縦する無人飛行機自体は以前から存在していた。技術的な観点から見ても、ドローンはラジコンヘリの一種だと言っても過言ではない。では、なぜ昔からあったものが最近になって“ドローン”として爆発的に普及したのかと言えば、それは操縦系を含む運用システムの進化に起因するのではないか。
 
具体的には、Wi-FiやBluetoothといった無線通信規格の確立や、コンピューターの小型化・高性能化によって自律的な機体制御や自動操縦も可能になり、スマートフォンなどの端末からでも簡単にコントロールできるようになった。こうした技術革新の結果が、ドローンが普及した大きな理由の一つだろう。
 
その一方、トラブルも多発している。2019年11月には関西空港の敷地内でドローンが飛んでいるとの通報があり、一時的に滑走路が閉鎖。行き先変更や欠航を余儀なくされた便もあった。この度の登録義務化や制度の見直しは、こうした事情が背景にあるのは想像に難くない。新しい技術の普及に伴い、それを運用するための新しいルールが決められるのは当然の帰結と言える。
 
そんな中、一般社団法人ドローン操縦士協会によってドローン操縦士の資格が発行され、ドローンオペレーターという今までにない職業も生まれている。このようにテクノロジーの進歩は、新たな仕事を生み、既存の働き方にも影響をおよぼす。それでは、実際に人間の仕事はどのように変わっていくのだろうか。今回はそんな「働き方の変化」ついてスポットを当ててみたい。
 
 

業務の時間短縮・効率化で余力も生まれる

 
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音声認識AIによる文字起こしサービス「easy writer」
近年、AIなどと同様に進化や普及が目覚ましいテクノロジーとして、VR(バーチャルリアリティ)がある。映画やゲームなど、エンターテイメントの分野で利用されているのは多くの人が知るところだろう。ただ、その視覚効果や、現実と同じような感覚を得られる没入感は、ほかの分野でも積極的に活用されている。
 
例えば、アメリカの小売り最大手であるウォルマートでは、このVRを企業研修に取り入れている。現実では行えないような、さまざまなシチュエーションをVRで体感することで、高度な接客トレーニングを行えるそうだ。VR研修は従来の研修よりも学習効果が高く、それまで8時間もかかっていた研修項目を僅か20分ほどまで短縮できたという。
 
さらにアメリカの事例を挙げると、2018年5月にNASDAQ(ナスダック)への上場を果たし、急成長で注目を集めている不動産仲介会社eXp Realty(イーエックスピー・リアルティ)は、自社開発したVRオフィスを導入している。これによって、社員は出社することなく仮想空間上で離れた場所からでも仕事をしたり、会議をしたりできるという。この取り組みによって業務効率を向上したことが、同社が大きな飛躍を遂げた理由の一つであると、投資家などから見られているようである。
 
業務の時間短縮・効率化を図る事例としては、日本でもAIを活用したサービスが展開されている。株式会社Books & Company(ブックス・アンド・カンパニー)が提供する「easy writer(イージーライター)」は、音声認識AIを利用し、音声データをテキストデータに変換する自動音声文字起こしサービスだ。
 
このeasy writerは、大手出版社の編集者として2000人以上をインタビューし、数多くの原稿を執筆してきた同社の代表取締役である野村衛氏が、自らの体験をもとに開発したもの。インタビュー、議事・打ち合わせ記録、セミナーや講演内容など、これまで手作業で文章化せざるを得なかったさまざまな録音内容を、かなり高い精度で自動的に書き起こすことが可能だという。
 
同サービスを利用する企業・団体は、大手出版社や編集プロダクションなどのメディア関係者をはじめ、コンサルティング会社やリサーチ会社、学校法人など多岐にわたっている。また、有料ユーザーやモニターへの調査では、従来の作業時間の40~50%の時短・省力化が図られているとのこと。
 
このような技術の進歩が、人々の働き方にどのような影響をおよぼすと考えているかをBooks & Companyにうかがったところ、「機能的価値が低価格で提供され、最適化も図られるようになった結果、将来予測が立てやすくなる」との見解を得た。また、それによって「機能的価値が平準化すると、情緒的価値の持つ意味がより重視されるようになり、クリエイティブな表現力や、芸術、文学、デザイン、リベラル・アーツといった分野での差異化が図られる」ようになる。さらに、「個人レベルでは人間的な魅力や個性、オリジナリティの比重がより大きな意味を持つようになる」という。
 
 

創造的な働き方で生まれる新たな価値

 
前回の記事でも書いたように、AIは“人がしなくても良い仕事を代替する”ためのツールである。それまで人の手で行っていた作業を機械が代替することで大量生産に結びついた、かつての産業革命のように、AIをはじめとするテクノロジーの進化によって、さらなる省力化・効率化が図られていくに違いない。
 
業務の過度な効率化は、ともすれば人間性の排除や機械的な作業につながるというイメージを持つ人も多いだろう。しかし、先述のBooks & Companyが示したように、ムダをそぎ落とすことで生まれた余力をうまく活かせば、人の働き方はより創造的なものに変わっていくのではないか。
 
もちろん、新しい技術の導入による業務や環境の変化に順応するには個人差があるし、大企業ともなれば会社全体の体制を整えるにも、多大な時間と労力を要するかもしれない。しかし、社会の土壌が徐々に整備され、AIなどのテクノロジーが現在よりも身近に、普遍的に利用されるようになれば、きっと人々の仕事にもこれまでにない新たな価値が生まれていくだろう。
 
 
■株式会社Books & Company
http://www.books-company.com
 
■easy writer
https://www.easy-writer.jp/service/index.html
 
 
良いも悪いも活用次第? AIで“変える”日本の仕事
vol.2 AIの進化で変わるこれからの働き方
(2019.12.25)

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