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◆沈みゆく地方をつなぎ止めろ

 
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画像提供:Peach Aviation株式会社
 帰省に、あるいは観光に。8月は人の移動が多い月だ。羽田空港からたった2時間半のフライトで着くエリアの一つに沖縄がある。2010年の統計によると、東京都の県民一人あたり平均所得は430万円あまりだが、沖縄県は200万円あまりと、実に半分にとどまる。日本は小さな島国だが、経済における都市部と地方の距離感はとてつもなく大きく、さらなる拡大を止められないでいる。
 
 置き去りにされてきた地方では、経済の沈下が確実に進んできた。そんな沈みゆく地方をつなぎ止め、さらに引きずりあげるチェーンとして注目したいのが、LCC(Low Cost Carrier) と高速バスによる交通網の充実だ。国内の都市間移動をより安価でスムーズなものに進化させることで、日本全体をコンパクトな経済圏とする発想があれば、地方経済だけが沈みゆくことはなくなる。
 
 

◆日本は都市間移動の後進国

 
 日本における都市間移動の手段は、新幹線、在来線、従来の航空便、LCC、高速バス(ツアーバス・乗り合いバス)、自家用車(高速道路網) が混在し、互いに競合している状態である。それぞれ、コストや速度、快適性などの違いがあり、年齢や経済的なステータスによって、棲み分けられてきた。時間と体力はあるがお金があまりない若年層は、安価なぶん時間がかかり快適性にもやや欠ける高速バスを選択。いっぽう、多忙だったり体力的な余裕が小さかったりする中高年層は、比較的経済的に豊かな人が多いので、新幹線や航空便の利用頻度が高い、といった具合だ。
 
 そんな交通手段の中で近年、高速バスやLCCに注目が集まっている。だが、それぞれ紆余曲折があり、なかなかすんなり花開く状況にはいたっていない。高速バスでは昨年関越自動車道で発生した死傷事故を契機に、この8月から新たな規制が施行されるため、コスト増を嫌って撤退する業者が増えている。普及が進んできた感のあるLCCも、先進諸国に比べれば、まだまだ路線が少なく利用しにくい。
 
 日本同様の島国である英国を見ると、LCCでは欧州を代表するライアンエアーやイージージェットがある他、モナーク・エアラインズ、ベイビー、ファースト・チョイス、トムソン・エアウェイズなど、多数の格安航空会社が覇を競い、さらに欧州各国からの乗り入れ便も多い。高速バス網も充実しており、最大手のCOACHは南はブライトンから北はスコットランドまで、国内主要都市を網羅している。新幹線という高速鉄道が充実しているものの、都市間移動において、日本はまだまだ発展の余地を多く残す 「途上国」 と認識すべきだ。
 
 

◆高速ツアーバスから高速乗り合いバスへ

 
 東京-大阪を3000円以下で結ぶ便もあるなど、現在、高速バスは我が国における都市間移動の最も安価な手段である。一部にはLCCが競り合う路線もあるが、安定的な安さでいえば、やはり群を抜く。
 
 実はこの高速バスにはこれまで 「高速ツアーバス」 と 「高速乗り合いバス」 という2種類の系統が存在した。高速ツアーバスは主に旅行社などが運営元として企画・集客などを行い、貸し切りバス会社が車体やドライバーを提供して運行するものであり、運営元である旅行会社が安全確保の責任を負わない点が、問題視されていた。いっぽう、高速乗り合いバスは路線バス会社が一括して運営・運行し、安全確保の責任を負う。
 
 関越道で発生した死傷事故で両者の違いが注目されたのを受け、国土交通省では昨年から、高速ツアーバスを廃止して高速乗り合いバスに一本化する方針を打ち出していた。そしてこの8月から実施された新しい制度では、乗車時の受付や停留所に専任のスタッフを配置することが求められ、車両も6台以上を自社で保有し、運行計画を事前に提出することが義務付けられた。利用者にとって新しい制度は、より安全が確保されることに加え、予約なしで乗車できるようになることや、乗り場がわかりやすくなることなどメリットが大きい。
 
 しかし、業者はコスト増が必至だ。その結果、高速乗り合いバスへの移行を行わない業者が多発。昨年9月時点では、バスツアーを企画・発注する旅行社が58社、高速ツアーバスの運行を請け負う貸し切りバス会社が228社、計286社が事業を展開していたが、このうち今年5月までに移行申請を行ったのはわずか57社。発展どころか、国土交通省の施策により、一気に縮小したのが現状である。
 
 
 
 

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