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◆アベノミクス、3つのポイント

 
 円安・株高の流れが続いている。安倍政権が掲げる経済政策 「アベノミクス」 の影響である。アベノミクスが日本経済を復活させるかもしれない――そんな動きや期待が高まっている。
 すでに報道されているように、アベノミクスの基本発想は、デフレ・円高から脱却すべくインフレ目標を設定し、物価上昇と円安へ誘導することで日本経済を復活させるというものだ。具体的には、
 
(1) インフレ目標を2%に設定し、日銀法の改正も視野に、政府・日銀の連携強化の仕組みを作り、大胆な金融緩和を行う
(2) 名目3%以上の経済成長を達成する
(3) 財務省、日本銀行、および民間が参加する外債ファンドを創設し、外債購入の方策を検討する
(4) 緊急経済対策を断行し、補正予算と新年度予算を合わせて切れ目なく経済政策を断行する
 
などである。
 アベノミクスのポイントは3つ。金融緩和・公共投資・経済成長率である。つまり、「大胆な金融緩和がインフレ、円安を誘導できるか」 「公共投資が景気を下支えできるか」 そして 「経済成長率が高まるかどうか」 だ。有権者としてこれからどんな点をチェックしていればよいかを、現時点で整理してみよう。
 
 

◆日銀の金融緩和・インフレターゲット政策は功を奏すか?

 
 日本銀行は2012年12月、安倍政権誕生に応えるかのように、追加金融緩和を実施した。そして先月22日の金融政策決定会合において、2%の物価上昇率目標の導入を柱とする政府との共同声明を決定。会合では昨年12月から2回連続となる追加金融緩和も可決され、2014年からは期限を定めずに毎月13兆円の国債などを買い入れる無期限緩和を導入することも決定した。2012年2月の会合で 「金融政策の目安となる物価上昇率のめどは1%」 とした数値を2%へ引き上げ、しかも早期実現を目指すとしたわけだが、果たして可能だろうか?
 
 過去において消費者物価が2%上昇した年を見てみると、食料・住居価格が上昇する傾向にある。その他、原油や穀物など国際商品市況の高騰も物価押し上げに影響が大きいが、足元の消費者物価動向では、エネルギー価格の上昇は始まっているものの、食料や住居などの価格が上昇する気配はまだない。今後、これらがどう動くかが、インフレターゲット政策の是非を占うひとつのポイントになってくる。
 
 そのうえで、市場に流れ出たマネーをもとに経済活性化が進むかどうか。医療・福祉など将来性が見込める市場で雇用が創出され、法人税減税等に伴い正規雇用者が増加するかどうか。円安・株価上昇等に伴い消費が拡大し、大企業だけでなく中小企業の経済状況も好転していくかどうか。チェックすべきポイントは多い。
 
 

◆成長・防災のための公共投資は景気をサポートできるか?

 
 補正予算や新年度予算において公共投資の拡大が断行され、景気をサポートする見込みとなっている。2014年4月から消費税の引き上げが始まるが、実は消費税増税法案の中には 「景気条項」 があり、経済状況が好転しなければ引き上げには 「待った」 がかかる。そうした状況になるのを回避すべく、即効性のある景気刺激策として、震災復興や防災・減災などの公共投資を増やす方向で進んでいるのだ。日本経済は景気動向指数等の判断から、昨年景気後退局面に入っており、思惑どおり公共投資でこの後退に歯止めがかけられるかどうかも、ポイントのひとつである。
 
 そのうえで注意すべきは、「公共投資がそもそも長期的に見て効果のある手段かどうか」 という点だ。過去の例はどうか。バブル崩壊後の1992~2000年まで、自民党政権は総額122.9兆円の経済対策を実行したが、それが一時的な効果に終わったことは、日経平均株価や実際の経済状況を見ても明らかだ。あまつさえ財政悪化を招いている。これらをどうとらえるか。
 アベノミクスの効果により、一時的には財政赤字が膨らむものの、その後黒字化へと向かうのか。具体的にいえば、自民党の政権公約にもあるように、まずはプライマリーバランス(基礎的財政収支) の赤字の名目GDP比を2015年度に半減、2020年度には黒字化できるかどうかについて、長期的に検証していく必要がある。
 
 

◆名目3%以上の経済成長を遂げられるか?

 
 三つ目が経済成長だ。上述の消費増税法案の 「景気条項」 では、名目経済成長率3%、実質経済成長率2%の水準を達成することが、長期的に消費税を引き上げるうえでの具体的な前提となっている。その意味で、〔金融緩和→円安→物価上昇→商品販売価格の上昇→企業利益の上昇→労働者賃金の上昇→消費活性化→経済の更なる活性化〕 というサイクルの実現が極めて重要である。米国のレーガノミクスでは、スクラップ&ビルドと規制緩和、構造改革が骨子だった。アベノミクスにおいても、国際競争力を高める業種を選別し、施策を護送船団方式のようなばらまきに終わらせないことが、成長率を高める手段となる。
 
 ちなみに、実質経済成長率2%という数値は1990年度以降7回達成しており、3年に1度のペースである。近年においては、デフレによる物価の下落が実質経済成長率を押し上げた (名目経済成長率÷物価=実質経済成長率。物価が下落すると実質経済成長率は名目経済成長率よりも高くなる) 側面は否めないものの、実質経済成長率2%だけとってみれば、実現不可能な数字ではない。いっぽうで名目経済成長率3%を達成していたのは今から20年以上前の1991年度まで。こちらはかなり高いハードルである。
 もっとも、海外に目を向けると、OECD加盟国34ヶ国平均の名目経済成長率はリーマン・ショック後の2008、2009年を除けば毎年3%超となっており、2000年から2011年に至っては平均でプラス4.3%である。実はドイツと日本を除くと、米国をはじめ先進国においても、人口増加や政府支出の増加などに伴って名目経済成長率が3%を超えるのはごくありふれた話なのだが、このことは意外に知られていない。
 また、自国通貨安に伴い経済成長率が高まっている点も指摘できる。日本においては、今後人口増加が見込めないこともあり、円安への誘導で経済成長を高める戦略は一理あると想定できよう。
 
 

◆円安・株高・・・期待感は大きい

 
 円安・株高の流れは終わりそうにない。これまでにない大胆な金融緩和の実行と、それによる日本経済復活のシナリオを世界中が期待して注視していることは、ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンが1月14日のニューヨーク・タイムズのコラムで 「通説打破、良い兆候に注目」 と題して書いているとおりだ。
 期待が元の木阿弥で終わらないように、今が正念場。まずは消費税引き上げの判断がなされる2013年秋頃までに経済がどうなっているのか、公約に掲げる内容がどこまで実行されるかを、今回紹介した指標や視点からチェックしてほしい。そして、特にインフレターゲットと経済成長率については、数年のタイムスパンで四半期おきにチェックしていくと、日本経済の歩み・進展をより身近に感じられるだろう。
  
 「アベノミクス」 という通称には、まだ揶揄の響きが残っている。しかし、だからこそ、この先は否定から入るのではなく、中立的に政策の中身、実効性、結果をとらえていくようにしよう。OECDによれば、2060年のGDP上位国第5位に日本が予想されている。人口が減少するからといって悲観するほどの見通しにはなっていない。もしかすると、安倍政権の政策次第ではさらなる明るい将来が描ける可能性も残されている。悲観より、劇的な変化を遂げるかもしれない日本に同時代で立ち会えることの楽しみのほうを思ってみるのも、悪くない。
 
 
 
(ファイナンシャル・プランナー/ライター 伊藤亮太)
 
 
 
 

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