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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
 
米村さんおなじみの空気砲の実験や、子どもたちが参加できるクイズや実験も多く構成されているサイエンスショー。どのように人気のショーがつくり上げられていったのか、詳しくお聞きした。
 

必要に応じて規模を大きくしていった

 
講演会も最初のうちは勝手がわかりませんから、素人丸出しでしたね(笑)。自前のマイクなんてものはもちろん持っていないので、会場で用意していただいたハンドマイクを使用します。でも、実験では両手を使うんです。だから紐にくくりつけて首から下げたり、胸ポケットに無理やり入れたり。衣装も持っていなかったので、私服の上に自前の白衣を着ていました。今みたいにロゴを入れてつくったものではなく、そこら辺で買った白衣です。
 
そうして講演会を繰り返していくうちに、だんだんと集客人数も増えていきまして。5、600人になると大きなホールなどを利用するようになります。そうすると、ホールの責任者の方に事前に講演内容を確認してもらう必要があるんですよ。舞台の台本のようなものですね。
 
ホールを利用するようになって驚いたのが、舞台監督さんや音響さん、照明さんに手伝ってもらう必要があるということ。もともとは、学生のバイトの子に手伝ってもらって二人でやっていたので、とにかく人手が足りなくなりました。人手を増やすとなると税制上の問題で法人化する必要も出てきました。そうして立ち上げたのが、米村でんじろうサイエンスプロダクションです。必要に応じて規模を大きくしていった結果、現在のサイエンスショーにたどり着きました。
 
 
サイエンスショーにおいて大事なことをお聞きすると「お客さんの“おもしろい”を理解すること」だと話してくれた米村さん。ショーを始めた当初と現在では、内容がかなり変わったのだという。
 

求められているものを理解する

 
僕はもともと教師だったこともあり、ショーで行う実験についてしっかりと丁寧に説明していました。どんな原理があってこんな現象が起こるのか、お客さんに理解してもらいたかったんです。丁寧に説明することが良いことだと思っていましたね。でも、何度も繰り返してお客さんの反応を見ていると、「あ、全然ウケてない」と気付きました。そして丁寧に説明していたつもりでも、全然理解してもらえていないとわかったんですよ。
 
その反応を見て、お客さんは科学について理解するためにサイエンスショーに来ているわけじゃないんだなと気付きました。では、どんなものを求めているんだろう。どういったものだったら楽しんでもらえるんだろうと考えるようになり、オープニングのトークから実験の順番までとにかく試行錯誤しましたね。なるべく科学の原理の説明は省いて、実験に、より多くの驚きを詰めるようにしてみたんです。
 
それでも最初のうちは僕もなかなか頭でっかちで、「こういうことをやりたい」「こういう実験がおもしろいから伝えたい」という自分の気持ちが先行してしまうことが多々ありました。でも、僕がおもしろいと思う実験と、みなさんがおもしろいと思うものはかなり違うんですよね(笑)。そういったもどかしさもありましたが、だんだんと楽しんでもらえるものが掴めてきました。
 
例えば、空気砲はみなさん期待してくれているおなじみの実験です。空気砲一つとっても、実験としてできることはたくさんあります。以前はさまざまなパターンを日によって変えることもあったんです。いろんなことができるのに、それをやらないのはどうなんだろうと考えていたんですよ。でも、みなさんの反応を見ていてわかったのは、やっぱり代表的な実験を楽しみにしてきてくれているということ。できるからと言ってパターンを変えるよりも、見たいと思ってくれているものを提供したほうが楽しんでもらえるんですよね。
 
それに気付いてからは、あまり構成を大きく変えることはしていません。いろんなことをやるよりも、同じものをブラッシュアップさせていく。同じ実験でも、見せ方を変えるなどの工夫を入れることで、より良いものにしていくことにしたんです。