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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
今後、新たに本格ミステリを担っていく後輩たちに期待することを聞くと、「流行に囚われないでほしい」と語ってくれた綾辻さん。その真意を詳しく聞いた。
 
 

「自分が好きなもの」を突き詰める

 
本格ミステリに限らず、作家を目指して小説を書こうという人は、世間の流行や前例などにあまり惑わされないほうがいいですね。この業界にいても近年、「マーケティング」という言葉をよく耳にします。編集者から「今はこういう話が流行っていて売れるから、同じタイプの作品を書いてほしい」と言われる作家も多いようです。でも、そうやって流行を後追いしていたら長く残る作品にはならない、というのが僕の意見であり、実感なんです。
 
『十角館の殺人』はありがたいことに、発表から30年が経った今でも多くの人に読まれ続けているようです。その要因の一つはたぶん、あの作品が当時の流行を狙って書いたものではなかった、というところにあるんだろうと思うんですね。「自分は今、こういうミステリが読みたいんだ」という想いを最優先させて書いた結果、それが同じ想いを持っていた人々に伝わったんだろうと思うし、だからこそ年月が経ってもあまり色褪せない作品になったのかな、とも思います。
 
ミステリが好きで自分でも書きたいという人は、自分はミステリというジャンルのどこが好きなのか、どんなところに最大の魅力を感じるのか、ということをじっくりと突き詰めて考えてみてください。そうして、とにかく自分が一番好きなのは「これ」だから、自分でも「これ」を書くんだ、という創作の「芯」を持ってほしい。それがしっかりしていれば結果はおのずとついてくるものだ、というのが僕の経験則です。芽が出るまでに時間がかかることもあるかもしれませんが、若い人たちは時代に迎合するのではなく、「時代をオレに引き寄せるんだ」という気概で取り組んでほしいですね。
 
 
 
(インタビュー・文 中野夢菜/写真 Nori)
 
 
綾辻行人(あやつじ ゆきと)
1960年生まれ 京都府出身
 
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幼い頃から推理小説に親しみ、小学校6年生のときにオリジナルの推理小説を書き始める。1987年、26歳のとき『十角館の殺人』で推理小説作家としてデビュー。当時は京都大学の大学院に在学中であり、1992年に単位取得退学して専業作家となった。同年、『時計館の殺人』で第45回日本推理作家協会賞を受賞。近年は横溝正史ミステリ大賞や日本ホラー小説大賞、日本ミステリー文学大賞新人賞など、数多くの文学賞の選考委員を務めている。
 
 
Twitter
https://twitter.com/ayatsujiyukito
 
 
 
(取材:2017年9月)