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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
 
1700年代後半が舞台の「鬼平犯科帳」。普段の口調や所作も違ってくるだろう。大変なことはなかったか中村さんにお聞きすると、笑いながら「本当に難しかった」と語ってくれた。
 

時代劇を気軽に楽しんでほしい

 
着物を着慣れている方は、普段着物を着ない方がすぐにわかるそうです。着ている際の所作がまったく違うのでしょうね。おまさ役のオファーをいただいてからは、なるべく着慣れておくように準備はしましたし、日本舞踊にも通うことにしました。舞を練習するのはもちろん、先生に「この身分の人なら、どのような所作なのか」とご相談したんです。扉を開けるときの動きや、どのように歩くのかなど細かい部分も一緒に考えていただきました。
 
セリフも苦労しましたね。当時の口調は、現代を生きる私たちにとっては、ある種ファンタジックな響きがあると感じています。どういう風に言うのが正解なのか、なかなかわからないんです。現代劇においては、役に入り込んでいくと、役柄と自分の感情がリンクして、より自然な気持ちでセリフを言えることがあります。
 
時代劇の場合は、どうしても自分の中で非日常に感じる部分があるので難しかったですね。どれだけ力を込めて喋るのか、塩梅がわからず不安になっていました。そんな私を見て、山下智彦監督が「大丈夫だから!」と、ずっと励ましてくださっていましたね(笑)。
 
演じるにあたっては難しいことも多かったですが、観てくださる方は時代劇だからといって敷居を高く感じないでいただきたいです。「鬼平犯科帳」は、良い意味でとてもわかりやすい作品で、その根本にあるのは人間ドラマなんです。時代劇は難しいと感じる方もおられるかもしれませんが、気軽に楽しめる作品になっています。ぜひ、これまで時代劇に触れていない方にも観ていただきたいと思っています。
 
どれだけ時代が違えど、そこには人の生活があり、何か大事な選択をする際にはその人の生きざまが表れます。それが時代劇の楽しさなんじゃないかと感じているんです。そういった一人ひとりの生きざまが、劇場版『鬼平犯科帳 血闘』では表現されています。悪役として登場する、北村有起哉さん演じる網切の甚五郎も、ただ悪いだけの男ではなく、彼の抱える切なさがしっかりと描かれているんです。そういった部分も、注目して楽しんでいただけたら嬉しいですね。
 
 
「鬼平犯科帳」に参加するにあたり、日本舞踊に通うなどさまざまな準備をしてきた中村さん。準備することの大切さについてお聞きすると、「準備不足はすべて自分に返ってくる」と語ってくれた。その考え方は、どのような経験をもとに培われたものなのだろうか。
 

合格ラインを引き上げていく

 
20代の頃は、とにかく数多くの仕事をしようという方針でした。常に3個くらいの作品を縫うようにやっていましたね。それだけお仕事をいただけたのはありがたいことだと思います。ただ、今ふり返ってみると「こなすだけになってしまっていたな」と感じる部分もあるんです。そういった後悔はずっと心に残りますね。
 
仕事の責任についてより深く考えるようになったのは、30代に入り、それまでよりも仕事のペースを落として取り組めるようになった頃でしょうか。自分の中にある“合格ライン”に必ず達しなければいけないと考えるようになりました。それは誰も助けてくれないので、自分で準備をしなければいけないんです。今でも「準備が足りていなかったな」と思うことはありますが、できる限りのことをして仕事に臨もうと心がけています。
 
もちろん、20代の頃の経験はまったく無駄にはなっていません。この仕事をしていると、仕事に忙殺される時期というのは多くの方が経験することでしょう。そういった経験も顧みて、今は一つひとつの役柄とより丁寧に向き合いたいと思っています。
 
昨年は、一つの作品に多くの時間を費やして取り組むことができました。時間の使い方が今までより豊かになりましたし、役柄を深くまで掘り下げられましたね。若い頃とは違ったアプローチができて、とてもありがたい経験でした。これまでの合格ラインよりも、もっと高いクオリティを出さないといけないと思えたんです。今後、より良い仕事をしていくためには、自身の合格ラインを引き上げていかなければいけませんね。