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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

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名波氏の左足から出されるパスは、単に正確なだけでなく、受け手が次のプレーに移りやすいように意図されたものだった。そうしたパスを成功させるには、テクニックはもちろんだが、それ以上に味方選手のことを詳細に把握している必要があったのではないか。
 
 

プレースタイルだけでなく性格も知る

 
 この話も「嘘だろ」って言われるかもしれないけど(笑)、小学生の頃から他の選手のプレースタイルや特徴は、3試合も一緒にプレーすれば把握できました。それくらいの時間があれば、試合の中で情報共有がたくさんできるものです。難しいのは、それぞれの性格を知ること。ぼくは各選手の性格も知ったうえで、パスを渡すボールの質とかを変えていたから、性格を知ることも大事だった。
 
 それぞれの選手とどうコミュニケーションを取るべきかっていう試行錯誤は小学生の頃からしていました。でも、他人の性格を知ることって簡単ではないですよね。だから、漫然と接するのではなく、意識的にチームメイトのことを知ろうと努めていた。それはチームが勝つためでもあるし、自分のためでもあるんです。ぼくは自分で局面を打開するタイプのプレースタイルではないから、絶えず味方選手と連携しながら動く必要があった。自分自身の長所を活かすためには、他の選手の性格や特徴を知ることが不可欠だったんです。自分が味方を知れば知るほど、自分のことも活かしてもらえるのだと思いながらプレーしていました。
 
 

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世代を越えて伝統が受け継がれる組織が理想

 
 
名波氏が入団して間もない頃のジュビロ磐田にはスキラッチやファネンブルグといったワールドクラスの選手が所属していた。「一流選手とプレーできたことは非常にいい経験になった」という。特に、当時ブラジル代表だったドゥンガは「ジュビロが強くなるために必要な、土台を築いた選手」だったそうだ。
 
 ドゥンガはプロとして持つべき心構えについてこう言っていました。「サッカー選手は勝たないと何も始まらない。勝ち続ければ試合を見に来るお客さんが増える。お客さんが増えると俺たちのサラリーが増えて車や家が買える。こうした流れをイメージしながら日々の練習や試合に取り組め。それ以外は考えなくていい」とね。彼の言うことは全て、チームが勝つためにするべきことでした。そして、それに従っているとその通りにチームが強くなっていった。
 
 ドゥンガが退団してからも、先輩の中山さん(中山雅史氏)やトシヤ(藤田俊哉氏)らが、日々の練習や試合のプレーの中で、常に若手の手本になってくれていた。勝つために必要なチームとしての伝統みたいなものが引き継がれていく、非常にいい流れができていましたね。勝ち続けているともう一段階上の目標ができて、魅力のあるエンターテイメント性の高いサッカーを見せたいと思うようになる。そうやってチーム力を上げていく過程を選手、フロント、サポーターみんなで共有し、目前の目標をクリアしていく。するとまた大きな目標ができる。
 
 これはどの仕事でもそうだと思うけど、そういう流れの中にある組織はすごく強いですよね。お手本になる人がいて、それについていく若手がいる。若手もその伝統を受け継ぎながら成長し、次の世代に伝えていく。そんな流れが続くのが、優れた組織なんだと思います。現役引退後に「あの頃のジュビロのサッカーは観ていて本当に楽しかった。強かった」っていう評価をいただくと、自分が現役時代に追求してきた道は間違ってなかったって思えます。
 
 大きな挫折を味わうこともなかったし、やり残したと思うこともない。もちろん、もっとレベルの高いサッカーをしたいという気持ちを無くしたことはなかったけど、プロになる前に自分が想定していたサッカー人生を超える経験ができた。今振り返っても、本当に素晴らしい現役生活だったなと感じますね。
 
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