生販直結のビジネスモデルで
“食のあるべき姿”を創造する
外食産業は参入障壁が低いため将来的に独立を目指す人材が多いが、事業拡大を目指す経営者にとっては、育てた人材が競合になってしまうのは困りもの。自社が発展するためには従事する社員たちが企業理念に共感し、働いていることに喜びを感じられる企業でいる必要がある。エー・ピーカンパニーは、2006年に 「みやざき地頭鶏」 の養鶏場と加工センターを立ち上げて以降、まさにそのような企業へと成長していく。
明確な目的を構築し、スタッフの意識を改革
現在の当社は、第1次産業の活性化や地域貢献という動機に賛同した人材が集まる企業です。でも、立ち上げ当初はそうでもありませんでした。当時は 「みんなで頑張ろうぜ!」 というような体育会系のノリがあって、そういう雰囲気に合った人材のほうが多かったと思います。しかし、第1次産業に乗り出し店舗数も増え、売り上げ規模も大きくなっていくうちに私自身、「このマネジメントではいずれ限界がくる」 と感じるようになりました。そんな時、先ほど申し上げたように、当社の事業は、単に売り上げを拡大するのとは別の価値を創出できることに気付いたわけです。
それ以降は、社内に向けて当社の業務が 「第1次産業の活性化や地域貢献」 につながっていること、そして、そのために 「どんな会社になるべきか」 を社内に発信し続けることを心がけました。全国各地の埋もれた食材を発掘して生産体制を構築し、その地域の雇用を増やすには、当社の店舗数を伸ばす必要があります。だから、売り上げのために事業を拡大するのではなく、「当社にとっての社会的使命を果たすために事業を拡大する。この目的に向かって一緒に働いていこう」 というメッセージを浸透させていったんです。
そうすることで、社内全員の意識が変わっていきました。それと同時に人材の質も変わってきたのです。たとえば新卒採用をしてみても、「農業の業界に入るよりも、エー・ピーカンパニーで働くほうが農業の未来に何かがプラスできそうだから」 という動機で農業大学の学生などが募集に応じてくるようになりました。そういう学生さんは、当社を外食業界の一企業とは見ずに、食品業界に何らかの変革をもたらす可能性のある企業と見てくれたということです。そんな人材が集まるようになったのはやはり、きちんとした目的を持って、自分たちの仕事が世の中の役に立つことを実感できるビジネスモデルを構築したからだと自負しています。使命感を持って働くにはやはり、明確なビジネスモデルを持つことが重要ですからね。
「ブランドは立ち上げて終わりではない。磨き続けてこそ価値が出るもの」 と米山社長は主張する。同社の 「塚田農場」 もブランドの品質を飽くことなく高めてきたからこそ、高品質なメニューを提供できているのだ。
人材採用と育成が事業拡大の基礎
こうしたことを実現できているのも、当社が外食産業という括りの中でだけビジネスをしているわけではないからだと思います。当社の店舗で働くスタッフは、接客をするだけの人材ではない。そうではなく、「生産・製造業の営業マンが、たまたま販売チャネルの店舗にスタッフとして存在している」という理解のほうが正しい。そうであるから、来店いただいたお客様のためだけに尽くすのではなく、生産者のこだわり、食材の製造過程にあるこだわりを、お客様に提供するメニュー一つひとつに落とし込んで、プレゼンテーションをする力がある。問屋から仕入れた食材を扱うだけの店舗との大きな違いはそこにあります。食材の背景にあるストーリーを熟知しているからこそ、自信と情熱を持ってお客様をお迎えできるし、そうしたおもてなしができるから、チェーン展開している店舗としては、高いリピート率を維持できているんだと思います。
組織を拡大させつつも、人材の質を落とすことなく、むしろ向上させていく。そこは事業全てを左右するほどの重要事項と捉えています。ですから、そのための戦略を常に準備している。たとえば2013年中は40店舗の出店を予定しています。これを達成するための準備は2年前に行っていました。具体的に言うと、新たに40店舗を追加して質を落とさずに運営するためには、それらの店舗全てに、当社の理念に共感する店長、料理長といったスタッフが必要です。では、それを実現するためにはどうすればいいかという戦略を立てるわけですね。だから2年前に、採用する新卒者の数を決定していました。
当社ではスタッフ研修を大事にしていて、本社では毎日のように、何らかの研修が行われています。店長の教育、アルバイトの教育、目的は様々ですが、この研修により当社の目指す理念を現場レベルに落とし込み、ブレがないように徹底しています。人材の充実なくして当社の事業は成り立ちません。ですから、新入社員やアルバイト、そして店長ら、企業を縦割りにした時にそれぞれの階層に見合った人材研修のメニューがあって、それを教育する立場の人間がいる。今後、品質や組織力を落とさずに年間の店舗拡大数を増やすのであれば、この、それぞれのカテゴリーの教育を担当する人材も今以上に増やす必要がある。そのくらい、採用と人材教育は当社の核をなすものなのです。