日本の観光産業に変化をもたらす
星野リゾートのマネジメント戦略
スタッフたちが苦心して生み出したコンセプト。しかし、それを表現するキーワードが市場に受け止められるかどうかの最終判断はトップにゆだねられる。星野氏は、判断に際し 「エッジ」 感を重視する。それも、「エッジ」 感が好きだからという個人の好みや感覚的な理由以上に、したたかな戦略的思考から 「エッジ」 感を採用する点が、いかにも 「達人」 を標榜する星野氏らしいと言えようか。
若者の感性でエッジを利かせていく
情報の受信感度が高いのは、やはり若い世代の人たちです。うちでも、私なんかより20代から30代のスタッフのほうが感度は高いです。Webマガジンを普通に読んでいたり、新しいものを吸収しようとする動きが違います。会社のミッションも商品コンセプトも、情報として発信していく際の受け手は誰なのかを考えれば、言葉自体は若い人向けでやっていくべきだと思っていますね。
「観光をヤバくする」 に戻ると、これは、賛成の人もいれば、「こんな悪い言葉を使うのは反対!」 という人もいました。でも、リクルーティングに一番よく使うことを考えれば、セミナーだってそう何回もできるわけではないし、経営者としては自社の言葉を印象にとめてくれる人の数を稼がなきゃいけないんです。これだけの情報の氾濫の中で私たちの言葉を伝えていくには、表現にエッジを利かせないと、評価が始まりません。
タラソテラピーで 「休んでください、リラックスしてください」 というのは、悪いわけではまったくないですが、使っている人が多すぎる。そうすると、やっぱりマーケットの中で埋もれてしまいます。今の時代は、端的に目立ったり、人の記憶に残るということは、重要な要素だと思います。
サービスの進化が観光産業を育てていく
星野リゾートの顧客サービスで私がこだわっていることが一つあります。「常にサービスを進化させる」 こと。具体的には、毎シーズン新しいサービスを加えられているかどうか、新しい企画が出せているかどうかということですね。
リゾナーレの秋魅力として提案しているハロウィン。昨年のハロウィンに対して今年のハロウィンのイベントはどう違うのか。トマムには雲海テラスという大ヒット商品がありますが、今年の雲海テラスは去年の雲海テラスとどう変わっているのか。
成功すると現状を変えたがらないのが人間です。でも、リゾートや旅館のサービスは進化を続けないとダメ。それにね、どんどんリスクをとって変化を続けたほうが、チャレンジ精神のある人間を引き寄せられるんですよ。いい人材を業界に呼び入れるための呼び水にもなります。
最初に話したように、運営と所有はこれからどんどん分離していくはずです。安心して運営を任せられるプロ=達人がいる産業が発展します。その中で星野リゾートは、「運営の達人」 として、もっと 「日本の観光をヤバく」 していきます。つまり、進化させていきます。そうすることで海外の観光客と資本をどんどん呼び込み、業界を潤わせていきたい。これが、今の日本の観光産業の課題に対する、私なりの答えです。
(インタビュー・文 新田哲嗣 / 写真 スズキ シンノスケ)
会社概要
株式会社 星野リゾート
オフィシャルサイト
運営施設
星のや 軽井沢/京都 軽井沢ホテルブレストンコート 蓬莱 ヴィラ・デル・ソル
アルファリゾート・トマム 磐梯山温泉ホテル 裏磐梯猫魔ホテル リゾナーレ
伊東温泉アンジン 山代温泉白銀屋 松本浅間温泉貴祥庵 古牧温泉青森屋 信州大町温泉松延
奥入瀬渓流ホテル 玉造温泉華仙亭有楽 伊東温泉いづみ荘 皆生温泉東光園 タラサ志摩ホテル&リゾート
舘山寺温泉花乃井