幼稚園で始めた書写で一番になろうと決意
松井 東京都台東区で生まれた私は、その後2歳半で東京都昭島市に転居し、4歳のときから書道のお稽古を始めました。はじめは近所の先生に書道を習っていたのですが、特に書道が好きというわけではなくて。週に一度、教室で1時間程度書いたら先生に朱で丸をいただいて帰るというよくある書道教室に通っていました。そして、小学2年生のときに母が新聞の広告に載っていた美しい文字に心奪われたことから、その教室をたずね、私の道を決めることとなる師匠との出会いがあったんです。師匠のもとで学ぶ小学生の先輩たちは、とても見事な字を書いていました。その輝くような存在に大きな刺激を受けた私は、毎日、放課後になると師匠の教室で書写を習うようになり、「絶対に全国大会で一番になる」と決意し、毎日夜遅くまで練習して、いつも終電車に乗って帰り、学校が休みの日は教室に合宿までするほど書写にのめり込みました。
山田 子どもの頃から打ち込めるものを見つけたとは、とても幸せなことですね。
松井 おっしゃる通りです。師匠は、書写の普及活動で全国を飛び回っていました。私も小学4年生で指導者のライセンスを取得し、師匠について席書といってみなさんの前で書を披露したり、指導をしたりと全国に毎週のように連れて行っていただくのが楽しかったことが思い出されます。
山田 小学4年生にして指導者のライセンスを取るとは驚愕ですね! その後の歩みが気になります。
松井 大学は、縁もゆかりもない関西に進学しました。それまでは書道一筋だったものの、新たな環境で自分にできることを探そうと思ったんです。調理師や宅地建物取引主任者の資格を取り、能、華道、茶道、着付け、お菓子づくりを学び、さらにランドスケープデザイン(造園)の大学にも通いました。しかし、書写を越えるものは、なかなかみつけられなかったんです。
山田 その閉塞感を打ち破ったのは、やはり書写だったのでしょうね。
松井 そうなんです。2001年に、今もお世話になっている幼稚園から「書き方を教えてほしい」とご連絡をいただきました。園児に正しく美しい文字の書き方を教えるのは至難の業。保育士さんの苦労は並大抵ではありません。私は子どもたちに楽しみながら書くことの実力をつけてもらうため、多くの方の導きで書写の世界に引き戻されたんです。