新たなリスクとなった新型インフルエンザ
昨年まではほとんどなじみがなかった「新型インフルエンザ」が、ついにこの4月メキシコで発生。アメリカ、カナダなどでも感染者が発見され、地球規模に拡大した。日本ではまず、ウイルスの侵入を防ぐ水際作戦が展開され、空港での過剰なまでの機内検疫が連日テレビのトップニュースを飾った。6月には感染者が世界70ヶ国で2万人を突破したため、WHO(世界保健機構)は警戒フェーズを「6」に引き上げ、新型インフルエンザの「「パンデミック」(爆発的な流行)であると宣言した。
日本では夏を前にひと休みの状況に入り、秋から冬にかけての第二波が心配されていたが、意外にも9月の新学期とともに小中学生を中心に感染者が拡大してきた。厚生労働省の最近の発表によると、10月12~18日までの1週間で新たに83万人が発症。7月からの累計で、感染者の推計は317万人に上っているという。これからの季節性インフルエンザの流行期をひかえ、新型インフルエンザの感染拡大も予断を許さない状況である。
では、新型インフルエンザとは何か、季節性のインフルエンザとどう違うのだろうか。厚生労働省の「新型インフルエンザ対策報告書」(2004年8月)によると、「過去数十年間にヒトが経験したことがないHAまたはNA亜型のウイルスがヒトの間で伝播し、流行を起こした時、これを新型インフルエンザウイルスとよぶ」と定義されている。具体的には、動物、とくに鳥類のインフルエンザウイルスがヒトの世界に侵入し、遺伝子に変異を起こしたり、ヒトのインフルエンザウイルスとの間で遺伝子の組み換えを起こしたりして、ヒトの体内で増え、ヒトからヒトへ感染するようになったものである。
90年前に起きたスペインインフルエンザ(いわゆるスペイン風邪)では、世界中で4000万人以上、日本国内でも45万人が死亡したといわれている。スペイン風邪のような強毒性のインフルエンザパンデミックが再び流行った場合を想定して厚生労働省が立てた被害予測では、最悪の場合、日本国民の25%にあたる3200万人が感染し、死者は17万人から64万人にのぼるとされていた。
国民の大半が「抗体なし」・・・・感染研の調査結果
これまで、新型インフルエンザといえば「鳥」に由来し、「アジア」が発生源で、数十万人が死亡する「強毒性」のものと考えられていた。しかし、今回の新型インフルエンザは「豚」インフルエンザで、「メキシコ」で発生。そして、「弱毒性」だった。政府や自治体、企業の対策が強毒性を前提としたものだったので、いささか過剰気味だったが、今回はそれが幸いして本格的な流行に対するいいトレーニングになったといえるかもしれない。
今回の新型インフルエンザが弱毒性だからといって、季節性のインフルエンザと同程度と考えるのは誤りである。季節性のインフルエンザでも、毎年1~3万人の死亡者が出ていると推定されているが、死亡率は、季節性インフルエンザが0.05~0.1%であるのに対し、新型インフルエンザは0.5~0.8%と、明らかに違うのである。
国立感染症研究所の発表によると、1930年代以降に生まれた80歳未満の国民のほとんどが、新型インフルエンザに対する抗体を持っていないという。これからさらに感染しやすい季節を迎え、感染者が会社の従業員や家族に広がった場合、これまでに見られなかった深刻な事態に陥らないとも限らない。会社がダウンしないように、企業は事業継続のありかたを検討しておく必要がある。
事業継続計画 BCP 古俣愼吾 企業が取り組むべき新型インフルエンザ対策とは