まさかの男泣き
息子は今30歳。お嫁さんは25歳だ。二人は今、私が25年前、30歳のとき建てた家に住んでいる。3階建ての、屋根が屋上になっている家だ。雨漏りするから屋上はやめろ、普通の屋根にしとけ、って言われたけど、当時5歳だった勇士が電車が好きで、屋上から宇都宮駅の電車を見せてやりたかった。その後、勇士が成長して中学に上がるときには今の家を建てて、私たち夫婦と娘は今はそっちに住んでいるが、まさか25年前30歳で建てた家に、息子が30歳になって25年前生まれたお嫁さんと一緒に住むようになるとは・・・。
披露宴はそんな感慨にふけっていた翌週にあった。披露宴に関して私はノータッチにしていたから息子夫婦が誰を呼んだかも、誰に主賓の挨拶を頼んだのかも何も知らなかった。そして披露宴当日。司会の人が「では主賓のお二方は前のマイクのところまでどうぞ」と呼んだとき、「えっ?」と思った。主賓二人が少林寺拳法宇都宮東道院の束花一郎先生と経営コンサルタントの宮内亨先生だったからだ。
私は新郎席の勇士を見ながら「なんで? ニ人は、お前の何なの?」と思っていたが、先生たちのお話を聞いて合点がいった。息子にとってお二人は“師匠”だったんだ。
私にとっては“親父”
私は束花先生と20歳の時に出会った。大人たちの世界を軽蔑しきって信用しないただの不良少年のままだった私は、何かのきっかけで誘われて束花先生の道場の第一期生として入門し、少林寺拳法を習い始めた。
束花先生は「こんな人間になりたい」と初めて思えた大人だった。学歴からはとっくにドロップアウトして、人生からもドロップアウトしていたような私に、先生は「人に影響を与える人間になる」という目標を持たせてくれた。人間としてのあり方、仕事を持つことの大切さ、人を指導するスタイル。全部束花先生から教わった。私は先生と出会って人生を生き直すことができ、家業のサトーカメラを兄弟でスタートすることになった。“親父”というのはそういう意味だ。
主賓のもう一人の宮内先生も私の“親父”だ。宮内先生と出会った当時、私は30代前半。サトーカメラをスタートして10年足らずで栃木一番のカメラ専門店に成り上がって、飛ぶ鳥を落とす勢いだった。そんなある日、講演で栃木に来ていた宮内先生が私の評判を聞いて私に興味を持ってくれた。それで人づてで会ったのが最初だった。
当時の宮内先生は船井総合研究所の取締役本部長で、あの船井幸雄の懐刀と目されている方だったが、こっちは経営コンサルタントなんて知らないし船井総研も知らない。先生の本も読んだことがない。第一、本なんて読んだことなかった。座学で学んだことは一度もない、現場叩き上げだからとにかく実践から構築した戦略論だ。それで気付いてみたらプライドが高くなり、「自分よりデキる奴はいない、俺の戦略思考は誰も理解できるはずがない」といきがっていた。
でも、宮内先生は私と会うなり、たった1枚のチラシを見ただけで私の戦略も独自のロジックも考え方も一瞬で見抜いてくれた。その時のホッとした安堵感を今でも覚えている。今回20年ぶりに思い出したけど、当時私は周りに、このときの感触を「生まれて初めて達人を超えた仙人みたいな人間に会った」と話していた。それくらい、自分とはレベルが隔絶している人という印象だった。
そして私は、確かにあのとき、自分の考えを理解されて、嬉しかった。当時私は「誰も理解できない戦略論を持った孤高の男」としか思われていなかったので、「むしろよく独学でそこまで突き詰めた」と努力を評価されたことで救われたんだ。
宮内先生は私にとって二人目の「自分のことをわかってくれた大人」だった。先生がいなければ私は経営コンサルタントになることも本を書くことも絶対にありえなかった。引いてはサトーカメラの外の世界での「佐藤勝人」は生まれなかったはずだ。宮内先生も “親父”だというのはそういう意味だ。
いつのまにか息子を育ててくれていた
勇士は出版会議に来てどうするかと思ったら、真剣に話を聞いている。ノートまでとっている。どうせつまらなくて寝るだろうと予想していたが意外だった。「俺がおもしろいものは息子もおもしろいんだなぁ、親子だなぁ」と思ってその日はバイト代1万円を渡して帰したけど、「宮内先生の経営塾が毎月大阪であるから、お前も通ったらどうだ」と言っておいた。実際どうするかは本人任せでね。
で、後から先生に聞いたら、大学の4年間、毎月参加してたんだって。学生で4年間も通っていたのは後にも先にも勇士だけだったそうだ。勇士いわく「大学の講義よりおもしろいから」という理由だったが、要は私の知らないうちに、宮内先生も息子の“師匠”になってくれていたんだよ。
ちなみに、お嫁さんは披露宴準備で束花先生の家にご挨拶に行ったとき、「あ、勇士さんはこの人の影響を受けたんだな」とすぐわかったらしい。話し方とか人と接するときの雰囲気がまるっきり同じ、そっくりね、という意味のことを、私に教えてくれた。考えてみれば当然だよね。5歳のときから先生にくっついてるんだから。
私は20歳で束花先生に出会って「こんな大人になりたい」と思って先生をリスペクトした。そして言動を真似することで自分を変えていった。でも勇士は人間として真っさらなうちから影響を受けたから、“真似”じゃなくそのまま“似た”んだよ。自分の父親(私)が「ああなりたい」と願ってやまなかった当の相手に!
そして次の真実の課題に向き合う
そうやってほとばしるまま話していたら1時間ぐらいとっちゃうから勇士にマイクを押し付けて無理やり挨拶を終えたけど、最後に一つだけ、こういうことを話した。
「私は息子を通して自分の人生をやり直していたのかもしれません。14歳でドロップアウトしたのをずっと後悔していたのかもしれません。だから自分の生まれ育ったところに家を建て、同じ小学校、同じ中学校に息子を入れました。高校は進学校に行けるのに担任の反対を押し切り無理矢理、母校の宇都宮商業高校に入れました。そういう負い目も息子に対してずっとあったのかもしれません。でもその勇士が、こうやって友だちをたくさんつくって自分の人生を謳歌し、しまいには俺より優秀なお嫁さんをもらってくれました(笑)」
私にとっては長年の懺悔の告白だ。そしたら・・・不思議だねぇ。それから3日後に、出張先でいつもお世話になっている整体のゴッドハンド先生が私の体を触りながら、「佐藤さんこのへんにわだかまりがあるね。20代前半かその頃に何か経験しなかった?」って、聞いてくるんだよ。
今まで何十回もそのゴッドハンド先生に施術してもらっていてそんなことを言われたのは初めてだった。これは何の暗示なんだろう。もしかして、「もう言ってもいい。この人は1つ抜けた。自分のわだかまりに向き合う準備ができた」という情報が手から伝わって、考えるよりも先に無意識に私に伝え返してくれた、というようなことだろうか。
だとしたら、本気で立ち向かう価値のある課題が、私にはまだ残っているということだ。まだまだって言うことですね! ありがたい! ますます燃えていくから、応援ヨロシク!
■7月1日・2日
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個別支援等々佐藤勝人への問合せは
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vol.32 自分を生まれ変わらせてくれた人たちへの感謝に泣いた日
著者プロフィール
佐藤 勝人 Katsuhito Sato
サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長
経 歴
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。
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