ご当地レトルトカレーマニアのお仕事
カレーを通じてご当地の知識を得ることにハマった
「例えばみそ汁のシジミって、身をすべて食べることってあまりないですよね。それがカレーの具の主役になっていることに興味を惹かれて、ちょっと商品のことを調べてみたんです」。
当時、島根県の宍道湖のシジミが有名ということを知らなかった猪俣さんは、商品を通じてご当地の知識を得られることに面白味を感じた。以来、旅行先での購入や、アンテナショップ、ECサイトでの購入を通じて、全国各地のご当地レトルトカレーを食する日々が続く。
魅力を発信するためにショップをオープン
当初、足立区で営業していた店舗では、店内で商品を食べられるスペースも設けていたが、約2年半後に台東区に移転してからは、物販に専念。リピーターが徐々に増えていく中で人脈も広がっていき、商品開発の相談を持ちかけられるようにもなっていく。
さらなる普及を目指して協会を設立
そこで、2017年2月にレトルトカレー協会を創設。同年12月には一般社団法人格を取得し、一般社団法人ご当地レトルトカレー協会へと名称を変更した。同協会の目指すのは、「ご当地レトルトカレーを通じて、カレーの素材となる生産者や地域とのつながりを生みだし、里山・里海の保全、自然との共生を目指す」こと。
カレーランドと協会の活動を通じて、「もっと知らない日本を知るとおもしろいよ! ということを伝えていきたい」と猪俣さんは強調する。そのために、ショップでの物販に留まらず、百貨店の催事コーナーや、各地域で催される食のイベントに参加してPRに精を出している。
1割の人を満足させる商品を開発したい
助成金などを利用して、ご当地をPRするための商品開発を考えている人は各地にいる。しかし、「単にご当地の食材をレトルトカレーに使ってみました――という商品が多いのも確かで、地域の思いというか、メッセージを伝えきれていないケースもある」。
猪俣さんは新たな商品を開発するに際して、商品購入者の全員に満足してもらうものをつくる必要はないと考えている。むしろ、1割の人にインパクトを残すカレーのほうが、それをきっかけに食材そのものを取り寄せるなど、「後の行動につながること」に期待を寄せる。
「究極的には、おいしさを目指さなくてもいいんです。以前、『印象に残る幕の内弁当はない』という言葉を聞いたことがあります。同じように、ご当地レトルトカレーも幕の内弁当を目指すよりは、何か尖ったところのある商品にしたほうがいいというのが私の持論です」。
そうした尖った商品の例として猪俣さんは、北海道の「さらべつ和牛ビーフカレー」を挙げる。松坂牛は年間で5000頭ほど出荷されているのに対し、さらべつ和牛はわずか50頭。「こうした巷にあまり知られていない情報をクローズアップして発信するのが私の仕事。付加価値が生み出せる商品にこそ、ご当地レトルトカレーの本当の魅力がある」という。
地域の人間と野生動物の暮らしを守る
もともとカレー好きではなかったことで、ご当地レトルトカレーに「新たな価値を見出すことができた」という猪俣さんが本当に好きなのは動物で、それが高じて鳥獣管理士の資格も保有しているほどだ。
猪俣さんが危惧するのは、最近ニュースでも頻繁に耳にするようになった、鳥獣被害の問題だ。地方において、人間と野生動物の生息する境界があいまいになっているのは、地域の人口減少が一因になっていると言われている。
その問題を解消するには、地方にしっかり人が定着し、お金が回っている状況に戻ることが重要になる。「ご当地レトルトカレーをツールに地域の方々や野生動物の暮らしを守る。私のやっていることは草の根活動ですが、それが何らかの形で地域に役立っていけば嬉しいですね。そのためのツールとしてご当地レトルトカレーって最強の商品だと思うんです」。
レトルトカレーをきっかけに、その素材を定期的に取り寄せるようになる人もいれば、ふるさと納税を始める人もいる。中にはその地域に興味を持って移住を考える人が出てくる可能性も皆無ではない。猪俣さんは自身の活動を草の根と評するが、レトルトカレーは地域活性化につながる大きな可能性を秘めている。
公式サイト
https://curryassociation.wixsite.com/lrca (一般社団法人ご当地レトルトカレー協会)
https://curryland.theshop.jp/ (カレーランド)
https://twitter.com/sanaeinomata
https://www.instagram.com/inomata_sanae/
https://www.facebook.com/retortcurry/
店舗情報
〒111-0035 東京都台東区西浅草2-24-7
アクセス: つくばエクスプレス 浅草駅から徒歩5分
銀座線 田原町駅から徒歩10分
TEL: 03-5246-4950
営業時間: 11:00~19:00
vol.4 地域の魅力をカレーで伝えるご当地レトルトカレーマニア! ご当地レトルトカレー協会 理事長 猪俣早苗さん
(2022.8.19)