災害による被害を受けた際に求められる対応
そんな中で気になるのは、こうした緊急事態に際し、業務を停止せざるを得ない状況に置かれた事業者が、できる限り早く営業を再開するためにはどうすれば良いかである。
災害はいつ、どのように起こるかはわからない。どれだけ緊急事態に備えていたとしても、現実に災害に直面してしまえば、まったく被害を受けないとも限らない。そこで、前回取り上げたBCP(事業継続計画)では、被害を最小限に食い止めるための予防策だけでなく、復旧に関するケースも想定して策定することが求められている。
今回はそうしたBCPを構成する要素の一つである、「災害復旧=Disaster Recovery(ディザスタリカバリ)」、DRという考え方をクローズアップしてみたい。
早期の復旧で損失を最小限に留める
そこで、データのバックアップを海外などの遠隔地に複数に分けて保存しておくといったリスク管理や、そのバックアップしていたデータを用いて早期に事業が再開できるようにする手順をあらかじめ制定しておくのがDRの考え方である。
ただ、災害からの復旧という大きな意味でとらえた場合、システムやデータなどのソフト面だけでなく、崩れてしまったがれきの撤去や水没してしまった設備の復旧といった、ハード面についても考える必要がある。その中には、この度のコロナ禍のような、感染症を引き起こす有害なウイルスや細菌に汚染されてしまった施設の消毒・防疫といった作業も含まれるだろう。
店舗や商業施設などの清掃・消毒・除菌を行う事業者による団体である、一般社団法人全国施設店舗衛生管理協会は、この度のコロナ禍を受けて業界の健全化を目的とした「新型コロナウイルス消毒作業のガイドライン」を制定した。
同協会の理事長である田島太郎氏によれば、従来から消毒作業を行っていた事業者や清掃業者をはじめ、異業種も続々と消毒事業に参入しており、中には正しいエビデンスや知識のないまま消毒作業と謳っている業者が散見されるという。
そこで同協会が定めたのが、このガイドラインに沿った作業方法だ。手順としては、まず除菌効果のあるアルカリ性の洗剤を使用し、消毒箇所の下清掃を行う。次に厚生労働省が推奨している薬剤である次亜塩素酸ナトリウムによる消毒作業を行い、最後にEPA(アメリカ合衆国環境保護庁)が新型コロナウイルス不活化対策として認証している薬剤を使用し、抗菌コーティングを施工する。この抗菌コーティングは、ウイルスを不活化させることにより、感染リスクを大幅に下げることができるという。
ただ、このような作業を現場で実際に行う作業員は、常に二次被害のリスクにさらされている。そのため同協会では、作業にあたるスタッフには事前に検温・問診等の体調管理を行うほか、作業で使用する防護服やウエス、その他消耗品はすべて使い捨てとし、機器具類は作業終了後にはすべて消毒するといった万全な対策を施している。危険を伴う作業を行う人員への配慮も、災害復旧において決して欠かすことができない要素だろう。
復旧、そして次の事態を想定した予防対策へ
また、同協会では、実際に感染症被害が確認された際の対処だけでなく、再発の防止や、新たな感染症被害を食い止めるための予防にも力を入れている。その内容としては、月額制の定額パックによる消毒サービスで、毎月1回アルコール消毒液の配達や、3ヶ月に1度の除菌清掃・消毒・抗菌コーティング作業の施工を行うという。
前回の記事でも述べたように、一度困難を乗り切ってしまえばそれで終わりというわけではなく、その次の事態も想定して対策を万全にしておくことは重要であろう。
さらに、この度のコロナ禍のような緊急事態に直面した際の事業者に対して、田島理事長はこう述べている。
「誰もが未体験の中で、実際に身の回りで被害が起きると慌ててしまうことでしょう。その際は、慌てずに正しい手順で対応する事が大切です。アフターコロナの時代において施設・店舗を運営するうえで、衛生管理は欠かせないものとなっています。当協会としては店舗様が安心して、かつ負担の少ない運営を行う為の総括的なサポートに力を入れております」
災害や有事がいつ、どのように起こるかは予測がつかない。その中で企業経営者や事業者に求められるのは、何よりも慌てず冷静に行動することだろう。非常にシンプルなことではあるものの、それが会社や従業員を守る、ひいては自分自身の身を守ることにもつながるのではないだろうか。
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vol.3 被害を受けてしまった時の復旧と対策
(2020.06.24)