進化し続ける技術の普及により、ますます便利になっていく世の中。本連載は、そんなテクノロジーを研究・開発している企業や団体の事例を紹介するとともに、将来的にAIを業務に利用したいと考えている企業へのサジェスチョンのほか、社会全体が抱える人手不足問題の解決や、より良い働き方のためのヒントを探っていく。
AIの話題となると、やはり世間の多くの人が抱いているのは“AIによって人間の仕事が奪われるのでは?”という懸念だろう。この点について考察するべく、農業分野での普及を目指し自動野菜収穫ロボットを開発しているinaho(イナホ)株式会社と、コミュニケーションロボット向けアプリやAIサービスの開発を手がける株式会社ヘッドウォータースに取材。AIの活用事例を聞くとともに、率直な質問を投げかけてみた。
いかにしてAIが仕事に活用されるか
では、AIは実際にどのように活かされているのだろうか。取材した2社の事例として、高齢化や労働人口の減少が著しいと言われる農業、長時間労働や人手不足といった課題を抱えるコンビニ・飲食店などの接客業での展開を紹介する。
inaho株式会社では、AIによる画像認識機能で適切な収穫時期を見極め、自動で野菜を収穫するロボットを開発。従量課金型のビジネスモデル“RaaS(Robot as a Service)”でサービスを開始している。同社は今後、量産化や機能拡張などを順次進める予定で、2020年にはロボットの運用台数を数百台とし、オランダに拠点を開設して海外へも進出するとのこと。さらに、2022年には運用台数1万台以上、全国40拠点の開設を目指しているという。
株式会社ヘッドウォータースでは、AIとIoTでロボットの業務利用を促進するクラウドロボティクスサービスを展開。これによりロボットが人間の顔や言葉を認識し、そのうえで接客内容を変えるという。すでに一部のラーメン店やホームセンターなどで利用が始まっている。また、同社では、求人サイトでのマッチング業務をAIが代替するレコメンドエンジンを開発。会員の特徴と求人の特徴、過去の応募統計情報からレコメンドを行うほか、AIがヒアリングを行うことで学習データを追加し自動再学習することも可能だそうである。
人がしなくても良いことをAIが代替する理由
現時点で、“AIに奪われやすい”とされている職業はいくつかある。例えば、警備業や清掃業、タクシーや貨物トラックのドライバーなどだ。警備業であれば建物内を巡回する警備ロボットや、高度な顔認証システムを用いた防犯カメラなどが考えられる。運輸業であれば自動運転による配送や、無人バス・タクシーが研究されており、これらの技術によって「仕事が奪われる」と危惧されているようである。
それでは、本題である「AIが仕事を奪う」は本当だろうか。先述の「人がしなくても良いことを代替する」という点について検証してみよう。
最初に着目したのは、厚生労働省による2019年9月分の「職業別一般職業紹介状況[実数](常用(含パート))」である。このうち「職業別の有効求人倍率」の項目をランキングで表した場合の上位5種を見てみると、まず、「建設躯体工事の職業」が11.20で最も高く、「保安の職業」8.02、「建築・土木・測量技術者」6.10、「土木の職業」5.62、「介護サービスの職業」4.46という結果になった。建設・土木業の職人や技術者などは専門性が高く、体力を要する職業のため、少子高齢化の影響を最も受けやすいと考えられる。ただし、その専門性の高さゆえ、すぐさまAIに代替される職業とは言えないだろう。
では、上記に挙げた、奪われやすいとされる他の職業はどうか。飲食店などの「接客・給仕の職業」は3.77、タクシーなどの「自動車運転の職業」は3.10と、いずれも高い数値となっている。また、「清掃の職業」も2.26と、全職業を合わせた有効求人倍率が1.45であることを考えると高めだと言える。
続いて、総務省統計局による「日本の統計2019」内の「主要職種別平均年齢(平成29年度)」のデータを見てみよう。この中では、「タクシー運転者」が59.4歳と最も高く、「警備員」51.5歳、「営業用バス運転者」49.9歳、「建設機械運転工」47.9歳、「営業用大型貨物自動車運転者」47.8歳、「自家用貨物自動車運転者」47.5歳となっている。
以上の結果から、一般的に“AIに奪われやすい”とされている職業ほど人手不足であり、特に若い世代の就労が少ないことがわかった。
使い方次第で良くも悪くもなる
そこで、inaho社とヘッドウォータース社が示したように、人がしなくても良い仕事をAIがすることで、その分の人的リソースを別の業種に割ける。例えば、人手不足で、かつ専門性の高い建設業や農業などに、人材を集中させられるわけだ。つまり、AIによって人の仕事が奪われるというよりも、AIが代わりに仕事をしてくれると考える向きがあることがわかった。
もちろん、AIがより高度になれば、ほかの職業も影響を受ける可能性は十分にある。しかし、AIはあくまで“道具”に過ぎない。どんな道具でも、それ自体に良し悪しがあるのではなく、使い方次第で良くも悪くもなるのである。「仕事を奪われる」と悲観せず、AIをいかにうまく利用していくかを考えるのが、これからの仕事にとって重要ではないだろうか。
https://inaho.co
■株式会社ヘッドウォータース
https://www.headwaters.co.jp
vol.1 AIが人間の業務を代替する日
(2019.11.27)