B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

「レジャー白書」のおもしろい符合

 
glay-s1top.jpg
tabiphoto / PIXTA
先々月の末、日本生産性本部が今年の「レジャー白書」を発行しました*1。「レジャー白書」は1977(昭和52)年の創刊で、全国調査をもとに、日本における余暇の実態を需要と供給両方の視点から、総合的・時系列的にまとめています。
 
白書は毎年、余暇関連のさまざまな業界で、今後のマーケティング戦略の参考にされているようです。試しに「レジャー白書 **」で「**」の箇所に自分の愛好するレジャーを、スポーツならゴルフ、テニス、スキー、サーフィンなど、娯楽ならカラオケ、パチンコ、ゲーム、麻雀など、趣味ならダンス、模型、日曜大工、楽器演奏など、を入れて検索してみてください。各関連業界のメディアが、「うちは今回どうだったか」という切口で論評や解説記事を書いています*2。出てくる記事が多いほど、関連産業が賑わっている、もしくは反対に、業界が先行きに危機感を抱いてみんなで打開策を模索している産業と言えるでしょう。
 
上記の例には上げなかったレジャーで、これはやっている人が多いだろうと思うものには、例えばバーベキューがあります。エステティック・ホームエステや、温浴施設(健康ランド、クアハウス、スーパー銭湯等)も白書では種目に上がっています。いずれも「その他部門」に分類されるレジャーです。
 
エステがレジャー? と一瞬思いますが、要は仕事、勉強、家事以外の時間を何に振り向けているかの調査です。エステからウォーキング、登山、ドライブ、洋楽器演奏に文芸創作まで。種目は全部で108種目あります。狙って煩悩の数に合わせたのでしょうか? おもしろい符合です。
 
 

余暇活動にいくらかけてる?

 
筆者が見た限りでは、「関連産業が賑わっている」のほうの代表が旅行、「業界が先行きに危機感を抱いて~」のほうの代表がパチンコです。実際、白書の「余暇活動参加率」、つまり年に一回以上それをやった人の割合は、トップが48.7%で国内観光旅行(避暑・避寒・温泉など)。いっぽうパチンコは、6.8%で低い部類に入ります。
 
ただ、市場規模(額)となると話は別です。年間平均費用(年間活動費用の一人あたり平均)は国内観光旅行の13万3000円に対し、パチンコのそれは10万9000円です。二桁万円に乗せているレジャーは108種目の中でも7種目のみ。国内観光旅行とパチンコの他は、ゴルフ(コース)16万4000円、乗馬13万2000円、サーフィン・ウインドサーフィン12万3000円、洋舞・社交ダンス10万8900円、海外旅行35万8000円があるのみです。
 
海外旅行は別格として、どれもそれなりにハイソな――お金がかかりそうな――イメージのレジャーが並ぶ中で、道具もウェアも要らない、交通費も実質かからないパチンコが、これほどインパクトを持つことに驚きます。いかにコアなファン層に支えられているかですね。
 
 

登山好きと釣り好きの例

 
編集部の担当者氏は白書から登山の項を見て、「登山をスポーツとしてとらえて他の競技と比べると、平均回数の割には希望率(今後も続けたい、あるいは将来やってみたい人の割合)が高いなぁと思いました。ランニングや体操ほどではないにしても、気軽に始められるうえにレジャーとしての楽しみも多いということでしょうかね」と述べました。彼は登山が好きなのです。
 
登山はちょっと考えただけでも、靴、ウェア、活動レベルに応じたバックパック、野宿好きならテントや寝袋に調理用品など、初期投資がある程度かかるレジャーです。登山口までの交通費も馬鹿になりません。いっぽうでハイキングやキャンプのような隣接するレジャーが入り口として機能する、間口の広いレジャーでもあります*3。担当者氏が感じた意外な希望率の高さ(=潜在需要の多さ)に、関連業界は期待したいところでしょう。
 
筆者が興味のある種目は、やはり釣りです。詩人の鮎川信夫が吉本隆明に、「釣り人が魚を釣りあげたときの嬉しそうな顔ほど嘘がない笑顔はない」という意味のことを言っていて、釣りかぁ・・・と長年ぼんやり思っていたところ、2020年にコロナ禍が始まり、一年は鬱々と過ごしましたが、外でできて密を避けられて一日中遊べるレジャーというので、翌年春、勃然と釣竿を買い求めました。
 
1本目のシーバスロッドは飲んで帰った夜に部屋でしならせていて折ってしまい、釘を鏨で切って芯に入れて継いで直しましたが、ちょうど1ガイド間ぶん*4、約30㎝短くなっています。買ったときの長さは2.7m。PE1.5号の糸を巻いたリールとセットで6000円でした。
 
それから3年のうちに2本目3本目4本目を買い、リールも番手違いを二つ買い、クーラーボックスやウキなどの小物類も揃えましたが、初期投資はここまで。竿はPB商品なので投資額全部でもそんなに高価ではありません。4万円足らずです。後は都度の釣行の費用がかかるくらい。
 
白書では釣りはスポーツに分類されます。参加率(全国の15~79歳の男女のうち、年に一回以上その活動を行った人の割合)は5.2%。平均活動回数は10.2回。年間活動費用は平均4万4600円。希望率8.5%です。
 
この数字を自分に当てはめてみます。活動回数は12回。費用は12回中8回が宿代・餌代・交通費で8000円×8=6万4000円、4回が宿代なし餌代・交通費で2000円×4=8000円で、計7万2000円。おっと自分の餌代(弁当とビール)を忘れていた、1250円×12回=1万5000円を足して計8万7000円。筆者はお金をかけているほうの釣り人みたいです。意外。
 
 

余暇最優先が35%を超える

 
レジャー関連の総合白書には矢野経済研究所発行の「レジャー産業白書」もあります。今年で34年目。こちらも9月に2024年版が発行されました。買うには高すぎて手が出ませんが、Webで目次と、項目によっては一言概況が閲覧できます。
 
例えば第IV編第3章2節1の登山・トレッキングは、「アウトドアレジャー拡大も、登山の参加人口増加には至らず」となっており、期待率の高さを業界側が活かし切れていない様子がうかがえます。また、第IV編第4章2節の1、2は釣りについて、「参加人口は減少トレンドで推移」「用品市場は2021年をピークに縮小傾向で推移」としており、始めて4年間で周りに3人釣り人口が増えた筆者の感覚とは異なりますが、全体で見ればそうなのでしょう。
 
働き方改革が浸透し、「レジャー白書2024」は、仕事より余暇を優先する人が7割に迫ったと報告しています。特に、“どちらかといえば”ではなくハッキリと「仕事より余暇に生きがい」と答える割合の伸びが顕著です。今年の結果がまとまる来年の白書では35%を超えてくると思います。
 
白書によれば、2023年の余暇市場は前年比13.4%増の71兆2140億円。コロナ禍前の2019年の98.5%まで戻りました*5。皆さんが愛好する余暇活動は、来年はどれくらい賑わうでしょうか。
 
 
*1 「レジャー白書2024」(公益財団法人日本生産性本部余暇創研)
*2 一班社団法人日本オートキャンプ協会の「オートキャンプ白書」のように、自業界が関わるレジャーに絞って自分たちで白書を発行している例もあります。その場合はそちらの白書が元になりますが、いずれも「レジャー白書」に倣った動きです
*3 ただし、近年は富士山の弾丸登山のように、ハイキングと登山の違いをわきまえない無謀な山行きが増えており、正しい知識の啓蒙が求められます
*4 ガイドは糸を通す輪の部分
*5 ただし、値上げによる部分が大きいことには留意すべきでしょう
 
(ライター 横須賀次郎)
(2024.12.4)
 
 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事