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マイカーを日中から夜間へ誘導

 
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aki / PIXTA
昨7月19日、都内の首都高速で変動料金制(ロードプライシング)の適用が始まった。8月9日までのオリンピック期間中と8月24日から9月5日までのパラリンピック期間中、自家用普通自動車・軽自動車と二輪車の利用に関し6時~22時の料金を一律で1000円上げるいっぽう、深夜0時~4時の夜間は通常料金の半額にする(ただしETC車のみ)。運営主体である首都圏高速道路株式会社(旧首都高速道路公団)としては、「東京都及び大会組織員会からの協力依頼に基づき、大会関係車両が円滑に通行できるよう、協力」とのことで、料金を上げる(負のインセンティブを加える)ことで日中のマイカー利用を抑制する措置のようだ*1
 
同じく19日から、大会会場周辺を始めとする都内および千葉県内の一般道の一部で、オリンピック関係車両だけが通行できる「専用レーン」の運用が始まった。通常レーンと見分けが付くようレーン中央にピンクの線が引かれている他、白字で「TOKYO2020 専用 ONLY」と表記。関係車両以外が走ると道路交通法違反で違反点数1点と罰金6000円が科される。また、関係車両がいれば優先して道を譲らなければならない「優先レーン」も同時に運用が始まった。
 
これらを受け、世上では「どこまでオリンピック優先なのか」との批判が上がっている。市民の出費により市民の財産として運用整備されるものである公道を、公共交通(バス等)や消防車等緊急車両の円滑な走行を助けるといった社会厚生の増進以外の目的で利用制限するのだから無理もない。制限が許容されるとしたら市民の厚意に発出する場合のみであることを考えると、批判の声の多寡と程度はオリンピックへの賛意の声の多寡と程度と表裏だと言えるだろう(ただし、市民の付託を受けた行政主体および準行政主体による措置である以上、それを認めたのは最終的に自分たちだということは市民の側も自覚しなければならない。まさか批判している人たちの中に昨年の都知事選で現職知事に投票した人はいないだろうけれども)。
 
 

2022年4月からは料金体系が変わる

 
いっぽうで今回の変動料金はオリンピックとは別建てで進められている面もある。首都高速道路株式会社は3月12日、国土交通省による「首都圏の新たな高速道路料金に関する具体方針(案)」に基づき、新たな料金施策の具体案を発表した*2
 
一例で、ETC搭載車両に対し、走行距離に応じて料金が加算される「対距離料金制」を採用する点は同じでも、2022年4月からはその上限額が引き上げられる。現在は35.7kmでカウントが止まり、それより走行距離が長くても上限額の1300円(消費税込み1320円)しか徴収されないが、来年4月からは55kmまでカウントされ、1950円徴収される。
 
これを高いと見るか妥当と見るか。しかし、対距離料金制を採用するのであれば走ったぶん徴収するのが筋であり、利用の起点と終点が同じならどのルートをどう走っても(=走行距離が違っていても)料金が同額になる現行の制度のほうがそもそも特殊だった。
 
首都高ではETC車両に対し2016年に均一料金制を撤廃し、対距離料金制にした。もともと首都高は他の高速道路に比べて料金が安く、いきなり他の高速道路(≒NEXCO管理の高速道路)の料金水準に合わせると社会的影響が大きいため、激変緩和措置として現行の上限料金を定めた経緯がある。なので、首都高の最長距離である「さいたま見沼(埼玉線)-並木(神奈川線)間」の86.6kmが1950円に上がっても、例えば東名高速の同距離区間(東名川崎-御殿場間の83.7km)の料金が現在でも2620円なのと比べるとまだ安いという。さらに言えば、新料金体系では、これまで首都高になかった「深夜割引」の導入や「大口・多頻度割引」の割引率拡充も予定されている。
 
 

ドライバーごとのターゲティング価格?

 
さらにさらに言えば、高速道路料金の理想は、公道の本分である社会厚生の最大化に照らせば距離別料金の厳格化ではなく、道路の維持管理費最小化に貢献するドライバーと貢献しないドライバーとの間に変動料金を適用することだと言えなくもない。ドライバーの走行データをIoTで集め、前者をA群、後者をB群、C群、D群・・・として定性的定量的に定義し、群ごとに料金を定める(=ターゲティング価格)*3。自動車保険分野の技術と知見(Insure-Tech)を応用すればできないことではないだろう。
 
これを突き詰めるなら、もし首都高速道路株式会社が高速道路建設費の償還期間が終わる2065年をもっと早めたいと思ったときは、維持管理費の見地から首都高速を利用させるにふさわしいドライバーとそうでないドライバーを群どころか個人単位で評価し、時間帯別料金も組み合わせて利用料売上の最大化を狙えばいい。償還期間終了後に計画されている「首都高無料化」こそが公道の理想と考えるなら、それも筋は通る。
 
もちろん、世代間の不公平の問題は残る。――が、それを言うなら料金徴収の根拠を建設費の償還に求めた1956年施行の道路整備特別措置法からやり直さねばならない。欧米諸国のように税金で賄うのではなく、ある意味年金と同じ世代間賦課方式で日本の高速道路の歴史が始まった以上、世代間不公平は首都高においても宿命だったとも言えよう。
 
 

リアルタイムのターゲティング価格?

 
とは言え変動料金制の一番の問題はやはり、究極でターゲティング価格に行き着きかねないその方向性自体が、正しく扱わないと全体主義・監視主義の芽を孕んでしまうことだろう。文化論的に言えば「個性の尊重(個別性への志向)が一周回って全体主義を要請した」という皮肉をそこに見ることができる。要は問題の核心は、我々がそんな社会システムを良しとするかどうかだ。それこそリアルタイムで走行データが監視・評価され、ターゲティング価格が適用される――そんな社会を良しとするのかどうか。
 
なお、以上は一般利用に限った話で、公共交通や緊急車両、それに物流輸送の車両に関しては、それこそ社会厚生の最大化に直結させて本稿とはまったく違う視点から考えられるべきである。また、その際は、自衛隊が災害派遣以外では料金をとられるせいで高速道路が使えないという問題も、「米軍は無料なのになぜ?」という疑問と一緒に議論されるのを待っている。
 
――というわけで、「だから秋の衆院選は投票に行きましょうね!」と言いたいがための、長大な前振りの政治的記事(嘘)。
 
 
 
*1 東京2020大会における首都高速道路の交通対策
*2 「首都圏の新たな高速道路料金の具体案」について
*3 ターゲティング価格については2019年7月の小欄を参照されたい
 
(ライター 筒井秀礼)
(2021.8.4)
 
 

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