三の矢「女性活躍促進法」が放たれる日本社会
しかしながら同法の制定は、日本社会において女性がまだまだ活躍できていないことの証左でもある。これまでも一の矢、二の矢として「勤労婦人福祉法(1972年)」「男女雇用機会均等法(1986年)」などの施行があったが、女性活躍は進捗してこなかった。就業者に占める女性の割合は42.2%(2011年)にのぼるいっぽう、管理職における女性の割合は11.1%(2012年)。諸外国の女性管理職比率は米国43.1%(2011年)、フランス39.4%(2011年)、スウェーデン34.6%(2011年)などとなっており、我が国には大きな伸びしろが残されている。
「幹部にできる女性」の台頭を待つ企業も
企業の側も女性に期待を寄せている。業種によるが、例えば外食産業やサービス、小売、一部メーカーなどでは女性ならではの感性やきめ細やかな心配りが、今後の企業成長に欠かせないと評価されている。
しかしながらそういった企業でも、現場取材では「女性管理職が必要だが登用できる女性が見当たらない」と嘆く声を実際に筆者は何度か耳にしたことがある。大手外食企業の採用・育成の現場では「入社時には女性のほうが意識も高いが、その後1年の研修期間を経ると男性社員が上回る」とする声を聞いた。ちなみに嘆きの主は女性管理職だ。
逆に言えば、有能な女性社員を欲し、人材としての成長を待ち望む企業は非常に多い。女性の側がそのニーズを活かしきれない理由は様々だが、企業の求める長時間のハードワークが、出産や育児という仕事以外の人生も大切にしたい女性の事情と合致しないため、という面は大きそうだ。
ダイバーシティの提唱で働きやすい環境をつくる
社会や企業のニーズに反して、日本女性たちの多くは管理職への登用を望んでいない。インテリジェンスHITO総合研究所が行ったアンケート調査によると、25~44歳の女性1058人のうち、管理職になりたいと回答した人は24.4%、なりたくないは75.6%だった。
男性主導の企業では長時間のハードワークをこなさなければ、たとえ成果を上げても正当に評価されないため、ハードワークが必須の管理職になりたい女性が少数にとどまるのは自然なことだろう。
ただ、企業のニーズと自身のニーズが合わないのであれば、キャリアアップを目指す女性にとっての正解は辞めることややる気をなくすことではなく、男性主導の企業風土を変えることとも考えられる。その方法論として注目されるのが、ダイバーシティの導入である。
ダイバーシティは条件や能力の異なる人を受け入れ、違いに価値を見いだすという職場の新しい在り方だ。この考えに基づいて、多様な働き方を導入することができれば、男性も女性も、 出産や育児によりキャリアが途絶するケースが減り、特に女性がより能力を発揮しやすくなる。
たとえばテレワークや時短労働が可能なら、育児中はその制度を利用し、子どもが手を離れたら管理職に就くなどの自然なキャリアアップが期待できる。評価を巡ってフルタイム社員との間で摩擦が起きやすいという難点はあるが、経営陣、テレワーク・時短労働者がオープンに意見交換して、業種や部署ごとに公正な評価基準を作成するというテクニカルな対応でトラブルを回避できるはずだ。
ダイバーシティの導入は単に来るべき介護離職の大波への備えにもなる。2013年に「介護・看護」を理由に離職した人は9.3万人にのぼり、今後はさらに急増する。管理職クラスの大量離職の危険を前に、「介護離職対策」という大義を掲げれば、経営者も検討しやすくなる。
起業は女性であることがアドバンテージ
また、いっそ起業するという選択肢もある。起業する女性には特別な融資制度が用意されており、例えば日本政策金融公庫の「女性、若者/シニア起業家支援資金」なら、無担保でも2%以下という低利で、融資限度額7200万円(うち運転資金4800万円)とかなり大きな額の起業資金融資が使える。
地方自治体の中にも、東京都の「女性・若者・シニア創業サポート事業」や横浜市の「女性おうえん資金」など、女性の起業を支援する制度を設けているケースがいくつか見られる。
女性ならではの視点が新たなビジネスを生み出すことは、すでに知られている通りだ。米国で女性版スティーブ・ジョブズと呼ばれるセラノス社のCEO、エリザベス・ホームズ氏は弱冠31歳で個人資産45億ドル(約4725億円)という大成功を収めている。
同氏が提供するのは簡単で安価な血液検査だ。「注射が嫌いなので、血液検査の苦痛を改善したかった」という女性らしいニーズが発想の原点にある。現在、検査結果などに疑念が呈されたことから、やや苦境に陥ってはいるものの、ダイヤモンドの原石のような“女性ならではの、起業のタネ”はまだまだいくつも残されているものと思われる。現状はそれを拾おうとする女性が少ないため、女性には男性に比べても大きなチャンスがある。女性であることは起業するうえでは大きなアドバンテージなのだ。
日本はGDPでは世界第3位の経済大国とされる。労働力および購買力の増大という面から、その経済規模をより伸張する意味でも、女性がビジネスに積極参加することには大きな社会的意義がある。「Think Big」の視点から女性自身がもっと主張しビジネスの現場を開拓していくことが、今もっとも求められている「活躍」かもしれない。
(2016.7.1)