就任早々の独自の理論に
「さすが桑田だ!」と感心した
彼が言っていたことを私なりに簡単にまとめるとこうだ。
◎メジャーは160試合を先発4人で回す。だから中4日だし、一試合に投げさせるのは100球までだ。でも日本は、140試合を5人で、中6日で回す。だったら一試合に135球は投げられるようでないと。今のピッチャーはやわすぎる。
◎今のピッチャーは変化球が多いが、どれも平均以下。それだと勝てるピッチャーにはなれない。球種はむしろ減らして、一級品の変化球をつくれ。
◎人に見られていると集中して練習できない選手は1軍では使えない。プロは見られてなんぼだ。
◎体ができた20〜25歳の間はとことん体をいじめろ。体に叩き込んで体で覚えろ。
◎キャンプは1000球投げろ。キャンプで投げないでいつ投げる?
実はこれ、各チームのピッチングコーチは薄々思っていたことなんだよ。でも風潮的に言えなかったんだ。メジャーと日本野球は昔から、いわば大企業と中小企業の関係みたいなもの。大企業イコール一流企業のやり方が絶対で、中小企業はそれを真似ることで向上するとされていた。だから日本のプロ野球も、やれピッチャーの肩は消耗品だの、先発完投は古いだの、100球で交代させるのが正しいだのとされて、キャンプでも球数制限をかける有り様だった。「メジャーはなぜそうするのか」という背景をすっ飛ばして、形だけ真似ていたわけだ。
でも、桑田は違った。「なぜ一試合100球なのか」の背景を客観的論理的に整理して理解した。そして自分が選手時代に実践していたことの検証と、さらには引退後に東大で科学的にピッチングを研究した知見も加味して、「日本のプロ野球ではどうすることが正解か」を自ら導き出し、体系づけた。世間の風潮に迎合せず、自らの実践の理論的研究をもとに、メジャー(=大企業)の流儀に敢然と異を唱えた。私はそこに惚れ直したんだ。
球種についてもそうだ。今の投手は変化球を5、6種類ぐらい投げる。球種は多いほど良いとされている。桑田はそれを真っ向から否定した。球種は2つ3つで構わない、それをとことん磨け、他が真似できないレベルにしろ、と。これは私がいる商業の世界でいえば、売れなくなったらすぐ自分の怠慢を棚に上げて他の商品に手を出すんじゃなく、「これだ!」と思う単品を極めろ、ということだ。それでこそ地域一番店になれるんだぞ! と。
「人に見られていると~~」の話も「なるほど」と思った。この話は私が「練習なんかするな!」と言っている話に通じる。中小企業のビジネスは常に本番だ。純粋な練習にかまけている余裕は中小企業にはない。そんな暇があったら、失敗して恥をかこうが、段取りが下手で笑われようが、本番をたくさん経験したほうがよっぽどいい。他の指摘も思わず膝を打つことばかりで、私はあらためて、桑田は本物の一流だと感じた。
ただ、桑田コーチの教えを実践したからといって、ジャイアンツの投手陣がいきなり変わることはないと思う。メジャー流のラクな調整法に馴れきっているから。桑田理論が本当の意味でチームに浸透して投手力が底上げされるには2、3年はかかるだろう。むしろ今年の春先は調子を崩す選手が出るかもしれない。でも、仮にそこで叩かれたとしても、桑田自身は何とも思わないに違いない。自ら実践して検証済みの理論だからだ。そこがまた、カッコイイよね。
ステータスより実をとった二人
その判断に喝采を送りたい
菅野はそれに対して、「それって違うんじゃないですか?」と言ったわけだ。もちろん本人がそう言ったんじゃない。あくまで私の解釈だけど、彼が言いたかったのはこういうことだ。――「今年はメジャーだとどこまでまともに試合日程が組まれるかわからない。その点、日本は最低でも120試合は間違いなくある。一年一年が重要なプロの選手として、“憧れのメジャーリーガー”というステータスを得ることよりも、ブランクを挟まず真剣勝負を続けられることを優先したい。それが自分の野球人生のためだ」と。
「ありがたく頂戴しろ!」派の人たちは、「年俸が希望額に満たなかったんだろう」みたいなことを言うだろうけど、そうじゃないんだよね。私が思うに、本当のプロフェッショナルというのは自分で自分のことが見えているんだ。だから、ステータスみたいな単なるカッコつけじゃなく、ちゃんと中身を見た価値判断ができる。
そう思って感心していたら、田中マー君こと、田中将大投手が楽天イーグルスに復帰するという報道が続いて出た。マー君が日本復帰を決めたのも菅野と同じ理由だったらしい。ヤンキースをフリーエージェントになって、日本のプロ野球とは比にならない年俸額でいくらでも他のメジャー球団からオファーがあっただろうけど、60試合あるかどうかもわからないメジャーで過ごすより、ちゃんと試合が組まれる日本のプロ野球で一年間投げたほうがいいと判断したわけだ。
ニューヨーク・ヤンキースのエース級から日本の地方球団に戻るなんて、私の世代の感覚だと都落ちみたいで本人が一番抵抗があるだろうけど、マー君はそういう感覚はないと思う。彼に言わせればそんなのは「下らない」の一言だろう。自分が何をする人で、そのためには一年一年をどう過ごして先につなげるべきか、ちゃんと見えているんだ。その計画の前では他人にどう見られようが関係ない。中小企業だろうがどこだろうがプロとして最高のパフォーマンスを見せるだけ。――その彼の決意が伝わってきて、私はマー君にも感心した。
確か、マー君は今年33歳。菅野が32歳だ。30代前半でこんなブレない判断ができるなんて、この世代はすごいと思う。今回は野球を題材に「本物の一流とは」という話をしたけど、ビジネスの世界にも彼らのようにブレない価値観を持った世代が育っているだろうか。育っているといいね。特に我ら中小企業にね。
事務局 郡上商業開発
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vol.52 本物の一流は世間の風潮に左右されず我が道を行く、という話
著者プロフィール
佐藤 勝人 Katsuhito Sato
サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長
経 歴
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。
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