B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

 
 
映画は喧嘩や。ビジネスもそうやないんかい ―― 映画監督・井筒和幸が私的映画論にからめて、毎回一つのキーワードを投げかける。第2回は 『突破口』(73年・アメリカ) から、“とことんやる”。
 
 
 自分で云うのも何だが、新作 『黄金を抱いて翔べ』 の公開が待ち遠しい。大銀行の地下3階に眠っている (はず) の、金の延べ板500キロを強奪するならず者たちの話だ。どんな邪魔が入ろうが、何が待ち受けていようが、仲間らと共にとことん頑張る。なんとも物騒極まりない話だが、映画は娯楽だし、この世のうっぷん晴らしにはもってこいな気もする。
 本当に、金塊が地下にあるのかなんて彼らは誰一人も知らない。それでもやると云って決めたらやるしかないところが、人間らしい。一握りの富裕層しかいない今の格差社会の底で這いずり回る大多数の中に埋まる、彼らも同じ人間だ。地位や権威に浸かった人間が悪いことや変態ごとをするのはみっともないし、腹も立つだろうが、仲間たちの “大仕事” に罪はない (はず) だ。金塊なんて誰のモノだか分からないが、庶民のモノでないことは間違いない。
 
 だったら許されるのかって? 許されないと “映画” が死んでしまう。映画は表現の自由の砦。それが禁止されると恐ろしいファシズム社会になる。映画はその最後の自由のバロメーターかも知れない。最近はなぜか、安い道徳を力説したり、見せかけの勇気をバーゲンセールする、百均ショップみたいな映画ばかり出回っている。この夏に賑わった、海上保安庁の勇士を讃えるモノもそんな典型だ。どんな邦画だろうが残り1億2千万人が見ていないのに、“国民” 映画はないだろう。「愛や絆」 しか売れなくなったのか、「勇気や正義」 しか許されなくなったのか。まるで表現の自由を忘れたか、それとも恐れているかのように。
 
 昔、名画座で見たドン・シーゲル監督の逸品 『突破口』。これぞ、許されていい夢を見てるような愉快な犯罪物語だ。もう知る人も少なくなったウォルター・マッソー、どこか可哀相な顔をした名優オヤジが主演した、可哀相な銀行強盗の話だ。
 アメリカの田舎町の小さな銀行を白昼堂々、恋女房と若い仲間二人で襲うが、女房は警官の流れ弾に当たって死んでしまう。若い時から二人して、好きな曲乗り飛行ショーで暮らしてきた。その時代も終わると、農薬空中散布で糊口をしのぐが、農業の形態も新しく変わり、時代から取り残されてしまうと、遂には、銀行強盗を思いつく。「そんな哀れな」 と安い感情移入はオヤジには通じない。盗んだ大金が、実は地元マフィアのロンダリングマネーだったことから、それを返せと殺し屋から狙われる羽目になる。
 しかし、このオヤジ、ここで引き下がらない。音を上げない。仲間も殺されるのに、一人で高飛びもしない。逆に、殺し屋に罠をしかけて迎え撃ってやろうと計略を練り始める。町の雑貨屋でダイナマイトを買うのがアメリカらしい。一人でとことん戦ってやろうという気だ。勇気? 女房への義理? そんな安い言葉もこのオヤジには通用しない。やると決めて決行した強盗仕事だ。ここで降参して言いなりになって金を返して殺されてたまるか、とことん最後まで喧嘩して、自分らしく決着をつけてやろうと。
 
 どう? ちょっと見たくなったかな。こんなロマンチックな映画が消えて久しい。それが悪夢だろうと何だろうと、人間の意地と反骨を見せてくれるモノ、それが、娯楽映画の見本だった。とことん生きてみろ! と教えてくれる人生のテキストだった、映画という芸術。それらが劇場から、片っ端から消失し、代わりに、とことん拝金主義の商売になり果てた。つじつま合わせの正義、云うだけの絆、今、そんなモノなど必要ない。
 
 
今回は 「とことん映画」 を紹介しました。何でもとことんやってみたら、結果なんかどうでもいいはず。誰もが感服するまで “とことん”。
 
 
 

 執筆者プロフィール  

井筒和幸 (Kazuyuki Izutsu)

映画監督

 経 歴  

1952年、奈良県生まれ。県立奈良高校在学中から映画制作を始め、1975年、高校時代の仲間とピンク映画『行く行くマイトガイ・性春の悶々』を製作、監督デビュー。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降『みゆき』(83年)『晴れ、ときどき殺人』(84年)『二代目はクリスチャン』(85年) 『犬死にせしもの』(86年)『宇宙の法則』(90年)『突然炎のごとく』(94年)『岸和田少年愚連隊』(96年/ブルーリボン最優秀作品賞を受賞) 『のど自慢』(98年) 『ビッグ・ショー!ハワイに唄えば』(99年) 『ゲロッパ!』(03年) 『パッチギ!』(04年)では、05年度ブルーリボン最優秀作品賞他、多数の映画賞を総なめ獲得。『パッチギ!LOVE&PEACE』(07年) 『TO THE FUTURE』(08年) 『ヒーローショー』(10年)など、様々な社会派エンターテインメント作品を作り続けている。

 

☆・・・ 井筒監督の最新作 『黄金を抱いて翔べ』 が11月3日(土)から封切り。
公式サイトはこちら ⇒ http://www.ougon-movie.jp/

 
 
 
 

 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事