確かに、よくよく自分たちの感覚を尋ねてみれば、自国のものか他国のものかを問わず、現代の日本人の歴史概念に戦争はオプションでしか入っていません。が、例えば国連(United Nations)が設立経緯からして第二次大戦の“戦勝国連合”であるように、歴史をつくってきた、少なくとも決定づけてきた主な要素は戦争です。その認識の上に各国は「これからは戦争なんていう手段で歴史を決める愚は止めよう」という理想を共有しているわけですが、いかんせん日本は他の国々と違い、なくそうとする「戦争」なるもの自体が自分たちの歴史観からはオプショナル。「そうだ、なくそう!」と言いながら、「ていうか、ないじゃん?」と思っています。それは戦後の極東アジア情勢を踏まえたアメリカの国策――GHQによるメディアおよび教育の統制――がそうさせたわけですが、その負の遺産も含め、『そして、アメリカは消える』という本書のタイトルの状況は、戦後国際外交を一貫してアメリカにアウトソーシングしてきた日本こそ、当事者として切実に受け止めないとマズい。この問題意識において、評者も著者に賛成です。
本書は作家で国際ジャーナリストの落合信彦氏の最新刊。国際政治の権謀術数や背後に暗躍する諜報機関の実態を描いた著作などで知られる落合氏が「トランプvsヒラリー」という今回のアメリカ大統領選挙を受けて緊急で書きおろした書籍です。同氏は豊富な取材経験をもとに、米・中・ロシア(旧ソ連)の現代史を、各時代の大統領や首相の人物、素行、見識にからめて描き、「アメリカが凋落した。世界の警察を辞めて引きこもり国家になった。世界は野獣の跋扈するジャングルと化した。日本は生き残り戦略を定めよ!」という趣旨を展開します。以下、目次から見出しの一部を任意で抜粋。
プロローグ ジャングル化した世界
第一部 アメリカ崩壊、そして絶望の大統領選
第一章 輝いていた「夢と希望の大地」―――国敗れて難民残る/サッチャーの予測は当たった/プーティンは第三次世界大戦を望んでいる
第二章 トランプvsヒラリーという悪夢―――アメリカの中産階級は崩壊/トランプへのインタビューは8分で止めた
第三章 11人の大統領―――アメリカ崩壊の序曲/アイゼンハワーが恐れた「軍産複合体」/戦争を長引かせたいワシントンの政治家たち/ブッシュとチェイニーの“戦争談義”
第二部 世界を荒らすプーティン
第四章 権力に酔った為政者たち―――ぐでんぐでんの大統領/エリツィンを名指し批判したルツコイ副大統領/プーティンは中学生の頃からKGB志望
第五章 狂気の独裁者―――放射性物質ポロニウム-210/プーティンに奪われたダイヤの指輪/女性ジャーナリスト暗殺事件/核戦争危機が目前に迫る
第三部 中国は「大国」にあらず
第六章 国民を殺し、軍拡に走る国―――清王朝の時代から壊れ始めた/一人の馬鹿のために5000万人が死ぬ/罠にはまった田中角栄/日本のODAで軍拡した中国
第七章 低レベルの“大国” ―――「トイレ税」で農民を騙した小役人/売春、臓器売買、ドラッグ販売/小学校にも行けない子供たち/AIIBで得た金の使い途
エピローグ 人類の劣化
・・・いやもう、一瞥してお腹いっぱい。例外は著者が留学中にアメリカで大統領だったJ・F・ケネディや弟のボビー・ケネディ、レーガン大統領、イギリスのサッチャー首相、ソ連のゴルバチョフ書記長、エリツィン大統領に失脚させられたロシアのルツコイ副大統領とハズブラートフ最高会議議長ぐらいのもので、他は各国リーダーの非道の例のオンパレード。本当にここまでひどいなら、ちょっともう・・・。戦争は相変わらず歴史を決める主な要素であり続けそうです。
そして事実、昨年末にパリで同時多発テロが起きた際のローマ法王の英語のコメントには「a part of World- War III」という言葉がありました。バチカンの情報収集力と法王の発言の重さを考えれば――日本でいえば天皇陛下がものの譬えでもこんな表現をするでしょうか――第三次世界大戦は暗にもう始まっているのでは。本書もそこまで考えて読まれるべきでしょう。