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コラム BRT47 vol.6(最終回) 地方活性化は人の心の上に成る 外食の虎・安田久のBRT 47 飲食プロデューサー

コラム
 
 こんにちは、安田です。早いもので、このコラムも6回目。半年の期間限定連載の、今回が最終回です。まだまだ語りつくせていないところがありますが、それでも過去5回の連載を通して、私が考えてきた地方活性化ビジネスのエッセンスはお伝えできたのではないでしょうか。
 
 地方活性化を進めるためには、地方への導線づくりが不可欠です。その導線づくりのために、首都圏、私のケースでは東京・銀座を中心に飲食店を展開し、地方の良さへ目を向けさせるフックとしてきたことを話してきました。しかし、ただ仕組みを作るだけでは地方活性化にはつながりません。観光客の増大も大事ですが、もっと大事なこと・・・ 第1回目で書いたこと、覚えていますか?
 
 それは 「人」 を大事にすることです。私の持論ですが、日本を支えているのは経営者や一部の富裕層ではありません。郷里を離れて汗水たらして働き、懸命に家族を養い、必死の思いで人生を駆け抜けているサラリーマンやOLさんたちなのです。彼らが元気にならなくては、日本の元気はない。彼らに元気をもたらすのは、地方が持つエネルギーなのです。
 
 

再び、「阿波踊りの店」に挑戦

 
 今度、私は新たなプロジェクトを手がけます。新宿で再び、「阿波踊りの店」 にチャレンジするのです。経営母体こそ、かつての私の会社ではありませんが、「阿波踊りで日本を元気にしたい」――その思いは変わらずにありました。
 今度の店のコンセプトは、「徳島の郷土料理を食べながら実際に阿波踊りを踊れる」 です。東京で毎年100万人規模の集客を誇る 「東京高円寺阿波おどり」 で、実力・人気ともに知られている有名連が目の前で踊る姿を見て、私も感情が昂ぶりました。思わず自分も体を動かしたくなる、見よう見まねで手足を動かしていれば楽しい気分になるし、嫌なことを忘れて盛り上がれる――そんなパワーを持つ郷土踊りは、なかなかありません。
 
 食べて、踊って、元気になって。それで興味が出れば、徳島の現地や、高円寺の大会に行く。徳島や近隣の県出身のお客さんは、なつかしい味や踊りを感じることで、郷里に恥じない自分でありたいと願い、また毎日を過ごしていくようになる――「阿波踊りの店」 は、“故郷” というものがもたらす日本人としてのアイデンティティや精神性のありようと直結したビジネスです。もっとわかりやすく言うと、私たち日本人一人ひとりの 「心」 をつなげるビジネスなのかもしれません。
 
 だからこそ、仕組みに 「心」 が入っていることが一番大事だと思っています。黙っていても売れる仕組みで、店だけ儲かっていればそれでいいなんて話じゃあない。地方も、その地方の出身者も、出身者以外の人も、都会の人も田舎の人も、みんなが幸せになるビジネスをしなければ、地方活性化は絶対にありえない。
 
 

「心」と「イマジネーション」と普遍性

 
 実は、「仕組みに心が入っていること」 は、あらゆるビジネスの基本ではないかと私は考えています。地方活性化と関係なく見えるビジネスだって、その商品やサービスを使うお客さんが元気になり、毎日が充実するようなものでなければ。少なくともそこに向けたものでなければ。
 「心」 という大前提があったうえで、次に積み重ねられるのが 「イマジネーション」 です。基本的に商売はライバルがいないところに参入するほうがうまくいきます。誰もやったことがないものは目を引きやすい=イマジネーションを喚起しやすいのです。
 
 私がこれまで立ち上げてきたエンタメレストランや郷土料理の店も、当時はライバル店がありませんでした。珍しさを謳うことができ、注目も得やすかった。もしこれが、チェーン店のように目につきやすい業態であればどうだったでしょうか? たとえばファミレスのように普遍的で、すでによく知られた業態だとしたら? もし私が新規にファミレスのプロデュースを依頼されたら、とても困るでしょうね。競合が多いから比較や批判にさらされやすく、安さやオトク感など、結局はオペレーションで決まる部分の勝負になってしまい、「心」 や 「イマジネーション」 が埋もれてしまいますから。
 
 「普遍的なものほど難しい」。これは私が飲食プロデュースを行ってくる中で気付いたことです。しかし、確かにお客さんの目は厳しくなりますが、普遍的な商材・業態には 「ビジネスの規模や市場が大きくなりやすい」 というメリットもある。これは経営者として見逃せません。いかに比較にさらされず、かつ規模を大きくできるか。比較にさらされる中でもオリジナルなイマジネーションをいかに喚起し、オンリーワンの存在感を与えていけるか。もし、「心」 と 「イマジネーション」 を評価される状態にうまく持っていければ、すでに市場が広がっているのだから大きなチャンスです。この考え方は一般的なビジネスも同じでしょう。
 
 

地方活性化の新時代はどこにある?

 
 実は、地方活性化の延長で、私も最近、「普遍的なもの」 に挑戦する機会がありました。扱った商材はパンケーキです。以前の回でも触れましたので簡単な説明にとどめますが、神奈川県で 「湘南パンケーキ」 という洋菓子ブランドをプロデュースしたのです。オペレーションには参加していませんが、商品開発から店舗設営まで、仕掛けの面で関わってきました。
 
「安田さん、言っていることとやっていることが違うじゃないか。パンケーキなんて、誰もが食べたことのあるものでしょ?」
 
 確かに。おっしゃる通りです。パンケーキ、身近ですよね。特に女性は必ず口にしたことがあるはず。そんな商材だから、新商品は必然的に、それまで食べたパンケーキとの厳しい比較にさらされます。そこでつまらないと評価されれば、SNSあたりで悪い口コミが広がってしまって、もう手が付けられない。プロデューサーとして、こんなにリスクが高いものに関わってよかったのでしょうか?
 
 以前の私ならば 「NO」 でした。しかし、今は 「YES」 です。先に書いたリスクをわかったうえで、私があえて普遍的なものの一つであるパンケーキに挑戦したのには、大きな理由があるからです。
 
 それは、「今後の地方活性化のありようを踏まえて、挑戦しておきたかったから」。地方活性化の最大の目的は地方に人を流すことです。たとえ東京で郷土料理店を出店し、地方に目を向けさせることに成功しても、それだけでは足りません。新しい魅力商品を、それもご当地で開発しなければ。それができれば、旅行者が落とすお金も、地元の雇用も、もともとの郷土料理がもたらしてくれるぶんに加えて新たに見込めるようになります。帰省していた人が地元の新しいお土産として買って帰れば、都会の人たちにも新たな魅力が発信されるようになります。これはまさに、私が理想としてきた導線づくりの、よりリアルな形です。「地方活性化のネクスト・ステップに必要なものは何か?」――私はこれを自分で確かめたかったのです。
 
 
 コラムは今回でひとまず終了になりますが、読者の皆様には、この挑戦、ぜひ見届けていただきたいと思っています。半年間、ありがとうございました。
 
 
 
 
 外食の虎・安田久のBRT47 ~Business Revitalization Trend~
vol.6(最終回) 地方活性化は人の心の上に成る

 執筆者プロフィール  

安田久 (Hisashi Yasuda)

外食産業プロデューサー・元 『マネーの虎』 レギュラーメンバー

 経 歴  

1962年、秋田県男鹿市生まれ。アルバイト経験をきっかけに飲食業界へ。現場を15年間経験の後、35歳で「監獄レストラン アルカトラズ」をオープン。外食産業関係者を含め大きな支持を得た。2002年には人気テレビ番組『マネーの虎』にレギュラー出演し、知名度が全国区に拡大。その後、2004年に地方活性化郷土料理店第1弾として、秋田県モチーフの店「なまはげ」を銀座に出店。以後「47都道府県47ブランド47地方活性化店舗」を理念に、銀座を中心に郷土料理店を次々と展開。2012年からは飲食店経営者を徹底的に鍛えなおす“虎の穴”「外食虎塾」を主宰している。

 オフィシャルホームページ  

http://www.yasudahisashi.com
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