B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

コラム BRT47 vol.4 成功と失敗をわける分岐点 外食の虎・安田久のBRT 47 飲食プロデューサー

コラム
 
 こんにちは、安田です。地域活性化について考える中で、一つ思うことがあります。「日本の良さ」 とは何だろうか。日本の食には様々な個性がありますね。素材、味付け・・・etc。郷土料理の個性の百花繚乱ぶりは、まさにその最たる例です。が、それぞれの郷土料理の味をすぐにイメージできる人は決して多くないでしょう。考えてみてください。秋田県や近隣地域出身者以外の方で、「きりたんぽ」 の味をすぐに思い出せる人がどれだけいるでしょうか?
 
 飲食ビジネスから考える地方活性化のヒント、今回は 「素材」 の戦略的な扱い方について考えます。
 
 

広く認知された素材を取り込む

 
  きりたんぽの味を思い出せる人が少ないのは、これはつまり、郷土料理の知識として 「きりたんぽ」 を知っていても、それが味覚の記憶として刷りこまれている人は多く見込めないということです。しかも、個性的であるということは、比較対象になるものがないため、一つの記憶から別の記憶を連想することが難しい。
 お米を食べたことがない日本人はいないと思いますので、お米を例にしましょう。「魚沼産のコシヒカリは甘みがあってふっくらとしていて、すごくおいしいんだ」 と話すと、普段食べているお米を想像し、それとどう違うのかをイメージの中で比較しやすいですよね。
 
 ということは、特定の地域でだけ有名な料理は、素材自体は誰もが知っているものを使っているほうが優位なわけです。「地域」 を商圏に、「料理」 を商材に、ぜひ置き換えてみてください。いかがですか?
 
 

ブランド食材の宝庫・ニッポン

 
 日本各地の食材にはブランド性があるものが多いです。「高知=かつお」 「山梨=ぶどう」 「新潟=酒」など。もっと細分化すると県単位ではなく地域単位でブランド化されているものも多くあります。「桑名=ハマグリ」 「大間=マグロ」 「魚沼=コシヒカリ(米)」 などですね。
 こうしたブランド素材は、それ単体で力を持っているため、シンプルな組み合わせで売れていくことが多々あります。たとえば鮭で言えば、新潟県村上市の鮭は全国的に有名ですね。実際に私も新潟へはよく足を運びますが、村上市内でちょっとした定食屋に入っても、思わず顔がゆるむほどおいしい鮭に恵まれることがあります。
 
 では単純に、この鮭と魚沼産のコシヒカリを組み合わせて、シンプルな鮭おにぎりをつくったらどうだろう? 新潟は銘酒の産地でもあるし、ちょっと日本酒も楽しめるような日本酒バーを付随させてみては・・・等々。こうした組み合わせのアイデアは、実は私の方法論の基本であり、出店構想のひとつでもあります。おにぎりですから、郷土料理とは言えませんね。でも、古くから親しまれていたおにぎりの素材が地方のブランドで構成されているところが目新しい。また、日本酒バーを組み合わせることで売り上げの二毛作も狙えるし、「おにぎり」 というところからファーストフード店のような手軽さを連想して終わりにさせず、お客様の足を店にとどめておくこともできるようになるのです。
 
 

純血ブランドを組み合わせる

 
 ここで大事なのは 「地元のブランド素材×地元のブランド素材」 という地元産のものでコラボレーションをすること。「村上の鮭のおにぎりです、ただしお米は新潟産ではないけれど」 というと、途端に威力が半減してしまうような気がしませんか? 同じように 「水がおいしい場所ですからそばが有名です、ただしそば粉は北海道産ですけど」 「海が近いから魚がおいしいんですよ、ただしメイン以外の魚の仕入れは東京の築地ですけど」 となると、途端にがっかりしてしまうでしょう。大阪へ遊びに行って、東京でつくられたものを買うことに意味を感じる人はあまりいないはずです。
 
 実はこうした間違いは、大変よくあります。温泉街などに出向くと、「これ、この土地でつくられたお土産じゃないよね?」 と思える、全国どこでもありそうなものや、まったく土地と関係のないお土産を見かけることがありませんか?  業者さんと店の都合で貸し借りの関係があったりするなどして、やむを得ず仕入れなくてはいけないというケースもあるでしょう。「これを仕入れたいなら、バーターでこれを仕入れてください」 というような話ですね。言ってみれば大人の事情です。
 
 ただ、その大人の事情をお客様は敏感に見抜きますので、いかに業者さんに借りがあっても、意味のないバーターでラインナップを埋めてしまうのはいかがなものか。「そうは言っても、郷土の物産や料理だけでは心もとない」 と思うのであれば、先ほどのようなコラボレーションものをつくる手があるわけです。
 
 

人間心理を考えた購買プラン

 
 もちろん売り方にもポイントがあります。ブランド素材は仕入れの価格が高くなりがちです。そこで、売り方によってフォローを入れてあげる必要があるのです。
 
 私の経験した例で、秋田の比内地鶏の焼き鳥店を出店したことがありました。比内地鶏は素材としては日本全国に名がとどろいていますし、確かにおいしい。ただ、価格が1本350~500円ほどになってしまうため、比内地鶏専門にして単体で売るには多少の厳しさを感じていました。そこでブロイラーの焼き鳥を1本180円くらいでサブとして提供する。つまり、店としては焼き鳥の価格幅を180~500円と広くとったわけです。
 人間、おもしろいもので、その幅があると、「こっちを試してみようか」 と、高いほうも売れていきます。つまり大事なのは、松竹梅ではありませんが、幅をつけることなのですね。コース料理にしても、3000円、4000円、5000円と幅をとっていると、人間心理として4000円のものがよく売れると言われています。したがって、自分たちが狙いたい価格帯の前後に、高いものと安いものを用意しておくことも一つの手です。これは食以外のビジネスにおいても使える考え方ですよね。
 
 地方活性化にテコ入れをするならば、一度できあがったフォーマットを分解し、素材そのものを見つめてみる。そして組み合わせをし直し、再構築を検討していく。さらに狙った単価で売っていけるように、価格や売り方において購買心理を活用する。こうした戦略的な手順を踏めるかどうかは、今後の地域活性化の成否をうらなう大きな分岐点になるのではないでしょうか。 
 
 
 
 
 外食の虎・安田久のBRT47 ~Business Revitalization Trend~
vol.4 成功と失敗をわける分岐点

 執筆者プロフィール  

安田久 (Hisashi Yasuda)

外食産業プロデューサー・元 『マネーの虎』 レギュラーメンバー

 経 歴  

1962年、秋田県男鹿市生まれ。アルバイト経験をきっかけに飲食業界へ。現場を15年間経験の後、35歳で「監獄レストラン アルカトラズ」をオープン。外食産業関係者を含め大きな支持を得た。2002年には人気テレビ番組『マネーの虎』にレギュラー出演し、知名度が全国区に拡大。その後、2004年に地方活性化郷土料理店第1弾として、秋田県モチーフの店「なまはげ」を銀座に出店。以後「47都道府県47ブランド47地方活性化店舗」を理念に、銀座を中心に郷土料理店を次々と展開。2012年からは飲食店経営者を徹底的に鍛えなおす“虎の穴”「外食虎塾」を主宰している。

 オフィシャルホームページ  

http://www.yasudahisashi.com
「外食虎塾」 第2期はスポット参加を受付中! お申し込みは → コチラ
大好評!まぐまぐメルマガ 「安田久の天国と地獄」 購読お申し込みは → コチラ

 
 
 
 
 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事