この春、EC化が一気に加速?
国内宅配輸送最大手として自社配送を基本にしてきたヤマトがついに外部委託に踏み切った背景には、EC市場が販売額ベースで年平均12%の拡大を続けており(出典:CBRE株式会社レポート「TOKYO2030 人・テクノロジー・環境が変える不動産の未来」)、いわゆるラストワンマイル物流が膨大している現状がある。経産省資料によれば2018年の個人向けEC市場の規模は前年比8.96%増の17兆9845億円。物販系で見たEC化率(小売販売額全体に占めるEC販売額)は6.22%だ。個数ベースでも2018年の宅配取扱数は43億個。5年で18%伸びている(*1)。
ましてや今はウイルス禍で人々が外出を控え、「巣籠り消費」が広がっている。在宅勤務(=リモートワーク)で生産が屋内化したのに続き、消費も屋内化が進みつつある。CBRE社のレポートは2018年と同じ伸び率でEC市場が拡大すると2030年にEC販売額は50兆円に達し、小売販売総額が横ばいだったときのEC化率は17%になると予測する。――が、レポートはヤマトと同じ1月23日の発表でウイルス禍を考慮する前の内容だ。そう考えると、この春、日本のEC化が一気に加速したとしても不思議ではない。
自社配送に乗り出したAmazon
印象面でインパクトが大きかったのはAmazonの参入だろう。アマゾンジャパン合同会社は2019年4月、個人ドライバーがAmazonと直接業務委託契約を結んでAmazonの荷物を配達する「Amazon Flex(アマゾンフレックス)」を日本でも正式にローンチした。ECの巨人・Amazonは近年自社物流に力を入れており、倉庫領域から配送領域に進出してきている。
ジェフ・ハヤシダ社長はCNET Japanのインタビュー(*2)に応えて、記者が消費者の多くもそう考えたであろうとおり「Uber Eats(ウーバーイーツ)をイメージするが?」と問いかけたのに対し、「Amazon Flexで仕事をする人は来週働くシフトが決まっている。曜日や時間帯で稼動パターンが生まれてくるからノウハウがたまる」とし、ギグワーカーではないと強調した。
実際、登録できるドライバーが貨物軽自動車運送業を届け出済みの人に限られる点からも、全くの一般の個人が稼働できるUber Eatsとは区別されるだろう。そもそも日本では一般の個人が軽二輪車両以上(排気量125㏄以上)の車両で他者の荷物を有償で運ぶことは違法だ。なお、Amazon Flexは2020年現在、東京に続いて福岡でも展開している。
ギグワーク系2つと赤帽
ハコベルカーゴやPickGoといったギグワーク系は、Amazonが荷主であるAmazon Flexと違い、荷物を送りたい人がそのまま荷主となる。荷主がアプリ上で「いつ・どこから・どこまで・何を」といった情報を入力すると、稼働できるドライバーが手を挙げ、詳しい内容の相談、料金の交渉などを経て依頼が成立する。
最終の実配送を担当するドライバーに直で荷物を託せる業態としては昔から「赤帽」があるが、赤帽への依頼は各営業所に電話するか(組合員に直でも可)、メールフォームから問い合わせるしかない。いっぽう、ハコベルカーゴやPickGoはプラットフォーム型だ。アプリに入力してドライバーが名乗りを上げるまでの平均時間は1分から2分。PickGoにいたっては、詳しい内容を相談する相手のドライバーがドライバー側の先着順で自動的に決まるハコベルカーゴと違い、候補者の写真や評価を見て、相談・交渉に進むドライバーを荷主のほうで選ぶことができる。
赤帽の牧歌的な感じと昭和な世界観も捨てがたい――筆者自身ファンである――が、どちらが現代のユーザーの感覚により近いかといえば、ギグワーク系2つに軍配が上がるだろう。なお、ドライバー側からは、早い者勝ちで交渉に進める点で、PickGoよりハコベルカーゴのほうがありがたいという声もあるようである。
ラストワンマイル物流の近未来
冒頭に記した通り、宅配最大手のヤマトが事業本部を新設してECの顧客を分けるぐらい、ECの荷物が増えている。小口多頻度配送のニーズはこれからも膨らみ続けるだろう。今後サブスクリプション型のシェアレンタルビジネスが拡大すれば、ますますそれに拍車がかかる。そのとき、ラストワンマイル物流はどんな姿を見せるだろうか。
最後に。この状況下でも出勤・稼働してインフラを回してくださっているすべての物流関係者たちに、最大限の感謝とエールを。そして荷物を託す・受け取る際は、もはや自分も未発症キャリアになっているつもりで、絶対に彼らにうつさない工夫を。
*1 日経新聞電子版「ヤマト、宅配にギグワーカー EC向けに配送網整備」(2020年2月26日)
*2 CNET Japan「アマゾンの自社物流「Amazon Flex」は誤解されている--ジェフ・ハヤシダ社長インタビュー」(2019年12月6日)
(ライター 筒井秀礼)
(2020.4.1)