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スポーツ 建山義紀の「ココだけの話」 vol.6 メジャーの彼方へ 建山義紀の「ココだけの話」 テキサス・レンジャーズ投手

スポーツ
 
 こんにちは、テキサス・レンジャーズの建山義紀です。
 さて、シーズンもいよいよ開幕し、ぼくたち選手は毎日が戦いの連続という怒涛の日々に突入! 痛めていた腰ももう完治しましたし、一丁がんばっていかんといかんわけですな。
 
 それにしても、今年はシーズン出だしから波乱がありましたわ。報道でもご存じのとおり、マイナー契約の招待選手としてメジャーキャンプに参加したら、3月19日にマイナー行きになり、21日には自由契約、そして23日に再びマイナー契約になるという、山あり谷あり満載の状態。まあ、マイナーとはいえ、所属する球団があるということで、ああだこうだ言っていられないわけで。
 
 

春の嵐ならぬ春の大波乱

 
 それにしても、野球界も含めて日本のビジネス習慣の中では考えられへんことなんじゃないでしょうか。「もっぺんマイナー契約するつもりなら、最初から自由契約なんかにせんでええやん」 とも言えますからね。日本球界では、球団は獲得した選手とは1年は契約を結ばないといけないというルールがありますが、その根本の考えが違うんです。「いらんもんはいらん」 し、「やっぱりいる、と思ったらもう一回獲得しようや」 というのがアメリカ流。まあこうした話は、ビジネスモデルや常識の違いから生まれるもので、メジャーではよくある話なんです。
 ちなみに、ぼく自身にとって “いいチーム” とはどんなチームか? 
 ぼくが一番大事にしているのは、やはりメジャーで投げることですから、そのチャンスがありそうなのはどこかという視点でチームを探します。ここだけの話ですけど、レンジャーズ以外からもいくつかオファーをいただいてました。でも、リリーフ陣の層が厚いところばっかりやった。そういったチームに行かなかったというのは、決して競争を避けたいわけじゃなく、実戦で自分を必要としてもらえるところが、ぼくにとっての “いいチーム” だったからです。
 
 

夏前まではふるい落としの日々

 
 そもそもアメリカは厳しい世界です。放出されるか、メジャーに残るか、マイナーでプレーするかの選択肢しかない。少しでもいい条件でプレーできるところを探し続けることしか選手にはできないわけで、「いやだいやだ」 と言っても始まりません。
 シーズンが終わってから、すぐに選手間の競争が始まります。キャンプをやって開幕を迎える3月にはもう競争の結果が出ます。基本的に3月の段階でブルペンの陣容が決まっていないチームはありえません。大きなケガで戦列を離れる選手が出ない限りはどこも枠は埋まってしまっています。放出されて、もういっぺん獲得の話が出ても、大概はバックアップ要員としてです。だから、ぼくも再契約できたとはいえ、まだまだ過酷な状況なのに変わりはないんですよ。
 そして次の山場は6月。シーズンが始まって2ヶ月ほど経った頃ですね。この時期は開幕して実際に投げ、実践の中で選手が見極められる時期です。仮に開幕メジャーだったとしても、「この選手はダメだな」 と思われたらあっという間にクビになる。ぼくがレンジャーズに来た年も、6月までに2人がチームを去り、「これがアメリカの現実なんだな」 と痛感しましたから。もちろん、一年を通して使えないと思われたら、バックアップなんていくらでもいますから、お呼びはすぐにかからなくなります。気を抜ける瞬間がまったくない。しんどいですよ。けど、上にあがるチャンスやからね。まずは6月、ここでがんばらないかん。
 
 

レンジャーズへの愛着心

 
 それだけ厳しい環境であるからこそ、大事にされるとチームに愛着がわきます。シーズン中も周囲にすごく助けられましたし、躓きがあればそこでも助けてくれた。グラウンドでも、いつも一人にならないようにしてくれたのが、肌で感じられるんですよね。レンジャーズは、ぼくにとってはファミリー意識があるチームなんです。
 だからこそ、フォア・ザ・チームの精神というのは、強くあります。チームのために何ができるか? チームメンバーのために自分が何をできるか? その一つに後輩というか、キャリアが浅い若手へのアドバイスがあります。選手としてはあくまで競争関係にあっても、チームが勝利し、優勝を目指すためには、ベテラン選手はただ競争に参加しているだけではいけないと考えています。
 
 

片岡篤史のリーダー哲学

 
 ぼくにその考えを植え付けてくれたのは、日本ハム時代の先輩である内野手の片岡篤史さんでしたね。片岡さんが阪神に移籍される前、チームのベテランがリーダー役として集団を引っ張るときには何を大事にしなくてはいけないかを、しっかりと叩き込まれました。
 これはビジネスの世界でも言えることかもやと思いますが、上は下に 「言う」 のも仕事の一つですよね。野球でいえば監督やコーチ、ビジネス現場でいえば管理職の方が「言う」のはもちろんです。しかしそれ以外の人、特に役職でもない先輩からも指導が入るようでないと、その集団は強くなれないと思うんですよ。キャリアがある人が、ない人を教えていかないと、チームは成長しないわけですから。
 もちろん、これは甘やかすということではありません。そんなふうに考えない人も多いと思います。でも、きっと片岡さんは、「お前はそういう役回りになっていくから」 と、ぼくのことを見出してくださったのでしょうね。今でもぼくの中に根付いたアドバイスです。
 片岡さんに教えられたのは、人に何かを言う立場の者は、人よりも少し我慢をしなくちゃいけないということでした。大げさに言えば、そんな立場の人間は、少し自分が損をしていると思えるくらいの役割をすることになる。
 
 そういった部分でも、ぼくは、愛着あるレンジャーズに貢献したいと思っています。だからこそ、やっぱりメジャーの実戦で投げてチームを盛り上げていきたいし、一戦一戦を大事にしていきたいと思っています。こんなこと、チーム関係者には気恥ずかしゅうてよう言わんわ(笑)。ここだけの話やで。
 そやから、ぼくは6月には絶対に上にあがらなあかんねん。頑張りますので、皆さんも応援よろしくお願いしますね!
 
 
 
 

 執筆者プロフィール 

建山義紀 Yoshinori Tateyama

メジャーリーガー

 経 歴 

1975年、大阪府出身。中学時代からボーイズリーグにて野球を始め、現在のピッチングを支えるサイドスローを確立。東海大仰星高校ではエースとして君臨。1998年にドラフト2位で北海道日本ハムファイターズに入団すると、ルーキーイヤーの1999年にいきなり先発ローテーションへ定着。2002年から2004年にかけてセットアッパーとしての才覚を表すと、リーグ最多の13ホールドを記録し、最優秀中継ぎ投手を獲得。その後、先発・リリーフともに計算できる投手としてチームに貢献した。2010年に海外FA権を行使してのメジャー挑戦を表明、テキサス・レンジャーズとの契約を勝ち取った(2012年12月現在FA中)。サイドスローから繰り出す角度のある速球と、ダルビッシュ有選手をして 「球界最上」 と言わしめたスライダーが武器。

 ツイッター 

http://twitter.com/tatetatetateyan

 
 
 
 

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