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 税務調査では、会社契約借上げ社宅の個人負担額の算定方法がたびたび問題になります。
 特に社長さんが借上げ社宅に住む場合には、その社宅は豪華なものも多く、マスコミ等でもしばしば大きく取り上げられています。借上げ社宅ではなく自分の自宅に住んでいる場合でも、「全額会社負担で通っているはずだ」 との間違った認識をもとに関与税理士の助言に耳を貸さない社長さんが散見されます。最近は公務員の方々の都心の一等地での社宅問題も話題になりました。私も税務の仕事をしながら、なぜ都心の一等地に住みながら家賃負担が少ないのか、と勝手に勘ぐったりした時期もありました。私の居住している地域はお寺が多く、その庫裏(寺院の僧侶の居住場所、また寺内の調理室、つまり台所も兼ねる) の家賃負担の問題も、あまりに様々なケースにぶち当たり、一税理士として、私自身の検討課題となっています。
 
 
 ということで、今月は家賃負担と経済的利益について考えることにしましょう。
 
 

1、社宅の無償使用は給与所得

 
 給与は、金銭で支給されるのが普通ですが、食事の現物支給や商品の値引販売などのように物又は権利その他の経済的利益をもって支給されることがあります。これらの経済的利益を一般に現物給与といい、原則として給与所得の収入金額とされます。
 使用人に社宅や寮などを貸たとき役員に社宅などを貸したときも、一定の金額を個人が負担していなければ、経済的利益を得たとして現物給与となってしまいます。
 
 

2、ホテルの住み込み従業員・首相官邸も家賃を取るの?

 
 使用人に対して社宅や寮等を無償で提供している場合であっても、その社宅や寮等が、その職務の遂行上やむを得ない必要に基づき使用者が使用人の居住する場所として指定したものであるときは、その社宅や寮等の貸与を受けることによる使用人の経済的利益については課税されないことになっています (所得税法9-(1)-六、所得税法施行令21-四)。
 また国家公務員宿舎法2条(無料宿舎) の規定により、無料で宿舎の貸与を受けることによる利益その他給与所得を有する者で、その職務の遂行上やむを得ない必要に基づき使用者から指定された場所に居住すべき者が実際に居住するために家屋の貸与を受けることによる利益についても、職務上必要な給付とされていて、課税されません。ですから、早朝又は深夜に勤務することを常例とするホテル、旅館、牛乳販売店等の住み込みの使用人に対し提供する部屋についても非課税となります。
 つまり、強制居住者は賃料の負担義務がない――そういうことですね。
 
 

3、お寺の庫裏部分の家賃問題

 
 昨2011年、京都の臨済宗大徳寺の禅の専門道場を見学したことがありました。ここの道場のプライベート空間は畳一畳分くらいで、私物を置くスペースもほとんどありませんでした。そして自給自足での生活が数年に及びます。ここでの修行の仕方や生活ぶりを見ると、調理することも食事をすることも宗教活動の一環であると納得できるほどに、生活イコール宗教活動という実感を持って帰ってきました。
 そして、多くの昔ながらのお寺の庫裏には、禅道場ほどではないにしろ、そのような宗教的雰囲気が漂っていたものです。従ってこのような場合のお寺の庫裏について経済的利益云々で問題にされることもなかったようです。つまり強制居住者としての位置づけもしくは、庫裏そのものが有する宗教活動との一体性から、庫裏の家賃についてとやかく言われてこなかったのであろうと推測します。
 
 ひるがえって、“昔ながらではない” 最近のお寺は、ビルの中に入っていたり、プライベート空間が宗教活動とは全く分離しているところが増えてきています。お風呂なんかジャグジー付きのところもありました。豪華社宅そのものといった趣のお寺もあります。それでも副住職たる息子家族がお寺に同居している場合はまだいいとして、同一敷地内の別棟に居住していたり、あるいは近隣のマンションに居住していたりするところまでいくと、これはいかがなものでしょうか。
 お寺の業務とは関係ない、つまり他の企業等に勤務している家族の部屋については、宗教法人の建物の一部をそのお寺に関係しない家族に貸しているわけですから、家賃負担の問題は当然に考慮しなければなりません。実際、家族の部屋に関して固定資産税が徴された事例もあります。 近隣のマンションの場合は、いかに言っても庫裏とは言えませんので、使用人に社宅や寮を貸した時と同じに考える必要があります。
 
 

4、社長の借上げ社宅と迎賓館的機能

 
 税務調査の際にいつも問題になる点があります。社長の自宅(借上げ社宅)には、常に仕事上の来客も多く、海外からのお客様は自宅に招いてホーム―パーティをよくやると主張します。いわゆる自宅も迎賓館的機能を持ち合わせている。従って自宅の応接間部分も会社のために利用しているのだから、その部分は個人使用部分から除外してもらいたい。あるいは自宅の書斎で早朝や土曜日、日曜日問わず仕事をしている。従って自宅の書斎部分の何割かは、会社の使用部分に算入してほしい、という主張です。
 私自身、事務所に出てしまうと従業員との打ち合わせや決済業務、顧客との相談業務や関与先への訪問等々で事務所にいる時間は限られており、デスクワークはほとんどできません。クラウドの世の中になってネットさえつながればどこででも仕事ができるようになっていますので、メール処理や原稿書きその他決済業務等デスクワークは、ほとんど早朝や土日の自宅作業となっています。
 これら自宅での作業の真実性は事実認定の問題で、そのことを第三者に向けていかに客観的に説得力を持って説明できるかということになるでしょう。中には家まで見に来てほしいとさえ言う経営者もいます。しかし税務署の調査官はそこまでは見に行きません。合理的、客観的に説明できるような事実関係と証拠資料が提示できなければ無理というものです。
 衆議院議長公邸や参議院副議長公邸等でパーティや会合をすることが時々ありますが、実際に入ってみて、こういう場所こそ迎賓館的機能をあわせ持つ居住空間であると思いました。従って中小企業の経営者の自宅作業の認知を求める声については、「あきらめてください」としか言いようがありません。中小企業に限らず、これは経営トップの宿命です。
 
 
 固定費としての家賃負担自体を小事と言うつもりはありませんが、住居用建物の一部をとって是が非でも社用名目に算入しようというような細かいことに気を使うくらいなら、自らの責任で十二分に利益を生み出せる体制を作り出し、然る後に十分なる役員報酬を取るようにされてはいかがでしょうか。
 
 
 
 

 執筆者プロフィール 

渡辺俊之 Toshiyuki Watanabe

公認会計士・税理士

 経 歴 

早稲田大学商学部卒業後、監査法人に勤務。昭和50年に独立開業し、渡辺公認会計士事務所を設立。昭和59年に「優和公認会計士共同事務所」を設立発起し、平成6年、理事長に就任(その後、優和会計人グループとして発展し、現在70人が所属)。平成16年には、優和公認会計士共同事務所の仲間と共に「税理士法人優和」(事業所は全国5ヶ所)を設立し、理事長に就任。会計・税務業界の指導者的存在として知られている。東証1部、2部上場会社の社外監査役や地方公共団体の包括外部監査人なども歴任し、幅広く活躍している。主な編著書に『一般・公益 社団・財団法人の実務 ―法務・会計・税務―』(新日本法規出版)がある。

 オフィシャルホームページ 

http://www.watanabe-cpa.com/

 
 
 
 

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