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ビジネス 川上徹也の「買いたい」のヒミツ vol.3 「志」を売る 川上徹也の「買いたい」のヒミツ コピーライター/湘南ストーリーブランディング研究所代表

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 むかしむかし中世ヨーロッパでのこと。旅人がある町を訪れました。そこにはレンガを積んで壁をつくっている職人が3人いました。旅人は3人それぞれに「どんな仕事をしているのですか?」と質問します。するとこんな答えが返ってきました。
 
A 「ごらんの通りレンガを積む仕事だよ。誰にだってできる仕事だからどんなに働いても1時間で銅貨1枚しかもらえない」
B 「レンガを積んで壁をつくっているのさ。ものすごいやりがいのある仕事とはいえないけど、それなりに満足しているかな。1ヶ月で銀貨10枚になるしね」
C「町中の人が喜ぶ大聖堂(大きな教会)をつくる仕事です。とてもやりがいがありますよ。自分が死んだあとも、大聖堂は残る。子どもや孫たちもそれを見て、きっと誇りにしてくれるでしょう」
 
 もし、あなたがこの3人のうち誰か1人と仕事をするとしたら、誰を選びますか? 
 そこには「買いたい」のヒミツが隠されているのです。
 
 

物語の幹になる「志」

 
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写真提供:株式会社みやじ豚
 こんにちは。コピーライターの川上徹也です。
 上記のビジネス寓話では、多くの方は一緒に仕事をしたい相手としてCのレンガ積み職人を選んだのではないでしょうか?(友だちとしてつきあうにはちょっと暑苦しいと感じるかもしれませんね)
 それは彼の仕事に「志(こころざし)」を感じるからです。商品やサービスでも同じです。同じ商品やサービスであれば、多くの人は「志」を感じるもののほうを買いたくなります。
 
 この「志」こそ、前回の最後で予告しておいた物語で売る時の「幹」になる重要な部分です。
 
 
 神奈川県藤沢市に「みやじ豚」というブランド豚があります。豚自体の品質が高く味がおいしいというだけでなく、経営者の大きな「志」がみやじ豚を有名にしました。
 社長の宮治勇輔さんは、2005年、それまで勤めていた会社を辞め実家に戻り、翌年父親が営んでいた養豚農家を株式会社化して引き継ぎました。それまで養豚農家を継ぐことは考えてもいませんでしたが、ある本を読み日本の農業に対する問題点を発見したことで考えが変わります。「一次産業を“きつい、汚い、かっこ悪い、臭い、稼げない、結婚できない6K産業”から、“かっこよく、感動があって、稼げる”の新3K作業に変革する」という言葉がひらめいたのです。そして「農畜産業界を変革する」という「志」をもって家業を継ぐことにしました。
 
 宮治さんのお父さんは、豚にできるだけストレスを与えない環境で育てることで、甘くクリーミーでうま味に富んだ肉を生産していました。しかしせっかくおいしいものをつくっても、「生産者に価格決定権がない」「生産者の名前が消されて流通する」が問題だと考えた宮治さんは、「みやじ豚」というブランドネームを考え農協を通さずに売ろうとしました。
 
 しかし実際どこから手をつけていけばいいかわかりません。流通の壁はあつく、簡単に買ってくれるところなどありませんでした。
 
 

「志」が豚をさらにおいしくする

 
 そんな中で活路を見いだしたのがバーベキューマーケティングという手法です。簡単に言うと、自宅近くの観光果樹園を借り、「みやじ豚バーベキュー」を開催するというものです。直接食べてもらうことで味のよさを知ってもらい、口コミを広げていこうと考えたのです。
 
 宮治さんは、大学時代の友人や会社員時代の同僚たち約1000人にメールを送ります。それはただ開催を知らせるだけの内容ではありませんでした。日本の1次産業を変えていくという宮治さんの熱い「志」が記されていたのです。案内を受け取った多くの人は、宮治さんの物語に心を動かされ、バーベキューに来てくれました。一度来てくれた人は、職場や家庭で口コミをどんどん広げてくれました。
 味がおいしく、週末に東京から離れてみんなでバーベキューしながら交流をするというイベント性もうけました。おかげでお客さんの人数は回を重ねるごとにどんどん増えていきました。「みやじ豚」の名前はどんどん浸透していき、直接扱わせてくれというレストランなども増えていきます。
 
 それまで「神奈川県産の名もなき豚」だったものが、数年で「神奈川トップの銘柄豚」と言われるくらいまでブランド化に成功しました。また宮治さん自体も、「NPO法人農家のこせがれネットワーク」を立ち上げるなど、今もっとも注目をあびる一次産業の担い手の1人です。
 もちろん豚自体の品質が高く味がおいしいことは言うまでもありません。しかし「一次産業をかっこよくて・感動があって・稼げる3K産業にする」という「志」がなければ、ここまで注目されることはなかったでしょう。
 「志」が豚をさらにおいしくしたのです。
 
 このように「物語で売る」ということを考える時にはまずは「志」が重要です。
 それは、会社でも商品でも個人でも同じです。一般的に世の中にむけて「志」を発信する会社・商品・個人は多くありません。だからこそ、それが人々の共感を呼ぶものであれば、そこに「物語」が産まれてきます。同業他社との一番の差別化要素になるのです。
 
 でも、そんな心から沸き上がってくる「志」なんてないよ、という人も多いでしょう。そんな方には、私が提唱する「ストーリーブランディング」という手法を使って「物語」を組み立てていくことをオススメします。
 
 
 次回はいよいよ「ストーリーブランディング」の詳細についてお伝えします。
 
 
 
 
川上徹也の「買いたい」のヒミツ
vol.3 「志」を売る

 著者プロフィール  

川上 徹也 Tetsuya Kawakami

コピーライター/湘南ストーリーブランディング研究所代表

 経 歴  

大阪大学卒業後、大手広告代理店に入社。営業局、クリエイティブ局を経て独立。コピーライター&CMプランナーとして50社近くの企業の広告制作に携わる。東京コピーライターズクラブ(TCC)新人賞、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞など受賞歴は15回以上。ストーリーの持つ力をマーケティングに取り入れた「ストーリー・ブランディング」という言葉を生み出した第一人者としても知られ、現在は広告制作にとどまらず、そのノウハウを個別のアドバイスや講演・執筆などを通じて提供している。著書は『物を売るバカ』(角川新書)、『キャッチコピー力の基本』(日本実業出版社)、『価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ』(クロスメディア・パブリッシング)など多数。 最新刊『1行バカ売れ』が好評発売中。

 オフィシャルホームページ 

http://kawatetu.info/

 
(2015.7.15)
 
 
 

 

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