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「はじめに」から「おわりに」の205ページまで一気に読める本。速い人は2時間か2時間半ぐらいで読み終わるのではないでしょうか。多くても5、ほとんどが3センテンス以内で改行するので、ページがどんどん進むのです。「今時のビジネス書は全部そうじゃないか」と言われそうですが、本書に限って言えば、趣旨に鑑みて、編集サイドは意図的にそうしたのではないかと。「やった! もうこんなに読めた!」という達成感と満足は、例えば「忙しくて本を読む時間がない」人や「本を読むのが遅い」人にとって、小さな成功体験だからです。
 
――と、ここまで説明すれば、本書の趣旨が伝わりそう。そう、「自信がある人に変わるたった1つの方法」とは、成功体験を積むこと。小さな成功体験を積んで大きな成功体験に育てることです。「なんだ、自己啓発書によくあるあの結論か」と思う方もいるかもしれません。でも、中身が違います。
 
忙しくて本を読む時間がない人に成功体験を積ませるとき、よくある自己啓発書は「どうやれば本を読む時間をつくれるか」からアプローチします。時間術、タスク管理術、ライフハック術など、ビジネス書の市場を形成する一連のテーマ群の範疇です。本を読むのが遅い人にはフォトリーディングなどの速読術でアプローチするか、「キミは本当に読む価値のある本と出逢っているか」といったなんとなく高尚な感じのする読書論で煙に巻き、成功体験の意味を相対化して終わりです。
 
それに比べ本書の著者なら、「忙しくて読む時間がない」に付随する「読書がいいことはわかっているのに!」という自責の念や、「読むのが遅い」という自己評価の裏にある目標設定の下手さにアプローチするでしょう。(でしょう、と推量形にするのは読書の例は出てこないからです。念のため。)いずれも本書が定義する「第二の自信」を低下させる無意識の要素です。
 
著者の下園壮太氏は元自衛隊メンタル教官。惨事を経験した警察官や消防士、自衛官のメンタルケアに20年以上従事してきたメンタルヘルスの専門家です。本書で下園氏は、自信には3つの種類があると説きます。第一は「できる・できない」の自信。特定の課題ごとの自信です。第二は身体や頭脳に関する自信。これは身体や頭脳の能力そのものというよりも、「自分でコントロールできている」という感覚のほうが重要です。自責の念や目標設定の下手さはこの感覚を損ないます。そして第三は「人に愛される」という自信。他者との人間関係をうまくやれる自信です。第二と第三は相互関係的ですが、あえて構造化すれば土台から第三、第二、第一の三層構造になっています。
 
そう説いたうえで著者は、現代の日本人に自信を失っている人が多く、しかもそれらの人が周囲の親身な助言や援助をなかなか素直に受け入れられないのは、自信の3 種類を意識していないことと、特に第二と第三の自信が損なわれているせいだと分析します。その第二と第三の自信を回復させるために提唱される「自信サプリ」が、原子人視点、日本人視点、大人・子ども視点という3つの視点への転換です。
 
各視点の詳細は本書を読んでいただくとして、この3つで見ると、現代の日本人が歴史的経緯からもいかに第二、第三の自信を揺さぶられやすい状況にいるかがわかります。そんな中でも成功体験を積んで自信を回復するには、第二、第三の自信を揺るがす無意識の癖を意識化して取り払い、成功体験を素直に成功体験として取り込めるようにする必要があります。そこが、「やった! もうこんなに読めた!」という達成感を得させようとする意図を感じる所以です。
 
最後に、評者の個人的な気付きを一言。各章、各項でたくさん紹介される事例や例え話で、1つだけ「うわ、それイヤだな~」と感じたものが151ページにありました。「ある新人が大きな仕事を任されたとします。大変ですが寝ずにがんばっていました。上司がそれを見て、周囲の人に援助を指示しました。そのおかげもあって、仕事は成果を収めました」――本書によれば、普通に捉えれば良い話で終わるところを、この新人は1人でこなせなかったことで自信を失ったそうです。しかし評者が反応したのはそこではない。途中でこっちの意志と関係なく誰かに援助させた上司にイラッとしたのです(笑)。狭量でしょうか。でも、同じ反応の人は結構いるのでは・・・。こんなふうに自分の無意識の癖に気付く効能もついてくる、お勧めの一冊です。
 
(ライター 筒井秀礼)  
 
『自衛隊メンタル教官が教えてきた 自信がある人に変わるたった1つの方法』
著者 下園壮太
朝日新聞出版
2016/2/28 第一刷発行
ISBN 9784022513151
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価格 本体1300円
(2016.7.20)
 
 
 
 

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