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「保守と名乗るな! 保身と名乗れ!」

 
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旅人 / PIXTA
昨年12月8日、日本の転機になるかもしれない法案が成立した。「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」いわゆる改正入管法である。
 
過去にも何度か改正されてきた同法だが、今回の改正点は2点。外国人の日本在留資格として「特定技能1号」「同2号」を新設したことと、もう1つは、これまで法務省の内局だった入国管理局を外局にして再編し、出入国在留管理庁として従来の「出入国」に加えて「在留」も管理させることだ。なお、特定技能1号の資格期限は5年で更新は不可。2号は更新可能で実質無期限だ。
 
しかし、こう書いただけでは何が転機なのかわからない。いったいこれの何が、国会で反対票を投じた山本太郎議員をして「賛成する者は二度と保守と名乗るな! 保身と名乗れ!」と叫ばせたのか。本稿は保守でもリベラルでもナショナリストでもない一介の物書きが論点の整理を試みたコラムである。
 
 

2つの在留資格――「技能実習」と「特定技能」

 
今回の改正は技能実習制度および在留資格としての「技能実習」との関連抜きでは語れない。以下を見てほしい。
 
1981年 技能習得のための外国人研修制度を開始
1990年 出入国管理法(入管法)に在留資格として「研修」を新設
1993年 既存の在留資格「特定活動」内に制度として技能実習を導入
 
この時期は、外国人が日本で働くことを「後進国の人材に日本のすぐれた技術・技能を習得させてあげて、帰国後に母国の発展に尽くしてもらう」という趣旨で認め、在留資格上もそう位置づけてきた時期だ。
 
そして2010年の入管法改正で「技能実習」が在留資格に格上げされた。在留1年目が「技能実習1号」、2年目と3年目が「技能実習2号」である。「研修」は事実上1号に含まれる。
 
格上げの目的は実習生を法的にも被雇用労働者と位置づけることで労働関連法が適用できるようにし、横行する受け入れ先の不正――実習生を安価な労働力として扱う不正――から彼らを保護することだったが、実態は大きく改善されることはなかった。
 
なお、企業が単独で受け入れて不正を働いた例は1.4%にとどまる(法務省発表資料-表1)。不正を働く受け入れ先はほとんどが事業協同組合である。結果、2017年末で27万人いるはずの実習生のうち2014年に5000人、2015年に6000人、2016年5000人、2017年には7000人が失踪して闇にもぐった。「組合は受け入れ窓口になるだけ。実習は加盟企業が行うから知らない」との言い訳はこの際通用しないだろう。組合の責任は重い。
 
そして2017年、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」によって新たに「技能実習3号」の在留資格が設けられ、4年目と5年目も在留できるようになった。なお、同法の施行を受け2018年1月創設の「外国人技能実習機構(OTIT)」が活動を始めているが、事業計画書を見ると制度の“Gメン”的な役割は期待できなさそうだ。
 
以上、「技能実習」をめぐるあらましを踏まえたうえで、今回の「特定技能」がなぜ転機なのか。
 
在留資格「技能実習」およびその制度は後進国を支援する趣旨のものだった。実態はこの通りにいかなかったとしても、少なくとも建前はそうだった。対して「特定技能」は、法務省入国管理局の資料を見ると、設立背景の項も政府基本方針の項も、「人手不足に対応するため」「即戦力となる外国人材を受け入れる」となっている。「労働者」の一語こそないが、明確に労働者の確保を趣旨としている。
 
実際に、例えば「特定技能1号」は「技能実習2号」修了者であれば資格試験が免除されることになっており、各省庁とも、すでに3~5年在留している実習生(「技能実習2号」修了者と「同3号」資格者)が在留を延長するために利用する例が当面は大半を占めると予想しているようだ。「特定技能1号」の在留期限を含めれば技能実習生から始めても優秀な人なら計10年間日本で就労できるようになる。「特定技能2号」にいたっては在留1年目から永住許可要件の「在日期間10年」に算入されるから、10年就労後には永住権も申請できる。
 
今回の法改正により、日本は初めて公式に外国人を国内の労働人材構成に組み込んだ。国の方針を転換したという意味で、「特定技能」は明らかにこれまでとは異質の在留資格なのである。
 
 

グローバル時代の国民国家をどう考えるか

 
本稿は論点整理が目的なのでこの異質さの是非は問わない。労働移民受け入れをめぐる産業界と国政のせめぎ合いが今さら始まったものでないことは一橋大学名誉教授の依光正哲氏のまとめを見てほしい(リンク先図表4;明石書店刊『日本の移民政策を考える』P31,32)。いずれにせよ送り出し国と受け入れ国に経済格差がある限り労働移民の潜在需要はどうやっても残る。それをコントロールするのが国の政策だ。人口動態に照らして移民受け入れの割合とペースはどうあるべきか。日本の国益を損ねる行動をとる国からの移民は拒否するのか、人的交流は別扱いとして受け入れるのか。その他の社会的影響をどう考えるのか。
 
その意味では、私たち市民の側が国民国家としての日本の姿をどう思っているかも問われている。単なるヘイトと変わりない偏狭なナショナリズムではない、健全なNationalism(これについては2015年末の拙稿も参照してほしい)を、正面から論じなければならないだろう。移動手段ひとつとってもかつてなかったほど世界が縮んでいるのだ。単に開くのも単に閉じるのも両方間違っている。「人手不足」の呪文で思考停止している場合ではない。
 
なお、「人手不足」をめぐってはジャーナリストの有本香氏の指摘(【Front Japan 桜】「在日ウイグル人の苦悩 / 外国移民の前にやることは?~追加就労希望就業者とキャリアアップ助成金の活用を」)に注目したい。リンク先動画49:00から55:00の内容によると、就業時間の増加を希望している短時間労働者が現在国内に183万人もいる。「外国人入れる前にやることあるでしょ」という有本氏の指摘は至極もっともだと思われる。グローバル時代の健全なNationalismとはこういうことを言うのだろう。
 
 

本当のNationalistとは

 
そのうえで、最後に一つだけ。国民国家うんぬんはわかった。健全なNationalismについても理解した。ただ、日本で働いて日本で暮らしたい人たちのその意思は、本質的には「生きたい所で生きる自由」という人としての普遍的自由権に属するものだ。これを否定することは本来はNationalismといえどもできないはずだ。彼らの意思と権利を否定することは、自身の「生きたい所で生きる自由」も自ら否定することである。
 
国民国家の一員としての自分と一人の人間としての自分。この2つを思うとき、筆者の中ではどうしても後者が優位に立ってしまう。在留期限が切れた外国人の友人が「もっと日本にいたい」と悲しめば、帰国して当然と思うよりいさせてあげたい気持ちが先に来る。一方で、帰国して当たり前だと自己矛盾なく思える人もいるだろう。その人たちをいわばカナ書きのナショナリストと呼ぶならば、筆者としては、本当のNationalistは自己矛盾と自己分裂に踏みとどまりながら思想信条を実行できる人たちだということを覚えておきたい。
 
 
(ライター 筒井秀礼)
 
(2019.1.9)
 
 

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