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ラストワンマイル協同組合の試み

 
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CORA / PIXTA
今月1日、関東の運送会社23社が加盟するラストワンマイル協同組合がサービスを開始した。まずは理事長企業であるデリバリーサービス株式会社の担当エリアでのトライアル営業だが、同組合が提供する新しい配送サービスの在り方に、大いに関心が寄せられているようだ。
 
そのサービスとは次のようなものだ。通常、宅配便の配送には「集荷→物流センターで一次仕分け→トラックターミナル(デポ)へ運搬→トラックターミナルで二次仕分け→営業所から最終配送」という工程がある。各工程で業務が発生するが、ラストワンマイル協同組合はそれらを荷主と分担し、どの工程のどの深度から組合が入るかによって割引プランを設け、低運賃を実現する。荷主は主にネット通販業者だ。
 
割引プランAは、荷主が荷物を配送先の都道府県別に仕分けて物流センターへ持ち込むときのもの。これはつまり、荷主が一次仕分けを一定の深度で担当する形だ。さらに県別ではなく配送会社別に仕分けて持ち込めば一段高い割引率のプランBが適用になり、営業所別に仕分けてデポに持ち込めばプランCが、営業所別に仕分けて営業所に持ち込めばプランDが適用される。料金表を見ると、重さ10kg以内、3辺合計が100cm以内の荷物であれば、プランAの運賃が905円、Dが517円になる。
 
4月の発足以来、サードパーティロジスティクス(以下3PL)事業者から多数の引き合いがあったようだ。これは、一般消費者は意識していないことだが、通販業者が自社の敷地内で商品在庫をストックしている例は実際には少なく、多くは倉庫業やシステム開発業を母体とする3PL事業者が在庫管理と商品の発送業務を担っているからである。彼らとしては、荷主に依頼されて商品を流す際に、最終配送先が近いものは自分たちで仕分けて最寄りの組合の営業所に持ち込めばDの運賃ですみ、原価が抑えられる。仮に荷主と1000円で契約していれば単純計算でプランDだと483円、プランAでも95円の利益が生まれる。
 
最終配送の組み方次第で利益が動かせる仕組みが現れたというのは、久しく社会問題になっていたラストワンマイルがついに動き出したことの証ではないか。直接の影響はまだ限定的だとしても、同組合の試みがこれからのラストワンマイルを占う象徴的な意義は決して小さくないと思われる。
 
 

社会の認知と業界の構造がシンクロ

 
背景には物流ビジネス全体の大変化がある。ヤマト運輸を筆頭に大手宅配業者が荷物の激増とドライバー不足から送料を値上げする中で、また、そもそも大手だけでまかなえるキャパに限界が見えてきた中で、末端の最終配送を担ってきた地域の中小零細の運送業者(リージョナルキャリア)が団結して表に出たことは、一種独特の感慨をもよおさせる。
 
神奈川大学教授の齊藤実氏の著書『物流ビジネス最前線 ネット通販、宅配便、ラストマイルの攻防』には、1995年を基準値100とした一般貨物輸送のサービス価格指数が2004年に95まで下落したことが示されているが、当時の極端な例で7次下請けまであったという業界特有の下請け構造が、ここに来て変わり始めたかもしれないのだ。
 
一般消費者としては、1050円の服が送料手数料を入れると1750円になるのは詐欺だとしたZOZOTOWNユーザーのツイートを当のZOZOTOWNの前澤友作社長がド正論で批判して炎上した一件を思い出したい。ラストワンマイルへの認知が足りないのではないかという問題意識があれを機に一般の人たちのあいだにも広がった。社会の認知と業界の構造がシンクロして変化し始めるまでに約6年。その間もラストワンマイルの負荷は増え続けている。
 
 

1億総荷主時代の内訳

 
負荷が増えた要因には何があるか。ネット通販の拡大は言わずもがなとして、もう1つ、メルカリなどのフリマアプリの普及が新たな要因にあげられるだろう。
 
これは「アプリの普及」ととらえると事態の意味が隠れてしまう。正しくは「個人間売買の一般化」ととらえるべきだ。ネット通販の荷主は基本的に小売業者であるのに比べ、フリマアプリの荷主は一般の個人。ということは、個人間売買が本当の意味で一般化(≒シェア経済が一般化)した時代においては、極論すれば1億2800万人が全員荷主になる。荷主の絶対数がまったく違ってくるのだ。
 
またネット通販のほうも、売り切り、つまり発送が1回で済む業態が基本だったのが、近年は月定額制のレンタルサービスのように何度も荷物のやり取りが発生するサブスクリプション業態が増えつつある。
 
さらにここに買い物弱者の問題が加わる。総務省行政評価局の推計では、自宅から食料品スーパーまで500m以上離れていて自動車がない65歳以上の高齢者の数は2025年に814万人。それも地方の過疎地ではなく、420万人、52%を三大都市圏が占める。完成食を個人宅に配送する配食サービスの市場は2009年から2014年のあいだに1.8倍強拡大し、ネットスーパーの食材宅配は高齢者以外も使うようになった。これらの要因により、ワンマイル内の物流需要がとにかく増えているのである。
 
 

毛細血管のものは毛細血管で

 
『週刊ダイヤモンド』5月26日号の「コンビニ“物流ハブ”計画の幻想 ラストワンマイル乱戦の勝者」という記事に、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文元会長の「コンビニは街のご用聞きになれ」という言葉が紹介されている。その一方、フリマアプリ利用者が宅配便を持ち込む際のモラルが低い――業者でないぶんその傾向は顕著だろう――うえに、負担の割にフランチャイズの手数料の取り分が少なすぎ、コンビニに物流の末端を担わせるのは無理があることも指摘されている。
 
では誰が担えるのか。1つのアプローチとしては、1次仕分けからトラックターミナル(デポ)への幹線輸送を大動脈、ターミナル以降のラストワンマイルを毛細血管にたとえるとして、毛細血管内で完結する物流需要は可能な限り毛細血管内でまかなえるようにすることだろう。ラストワンマイル協同組合のプランCとD、またはネットスーパーでも店舗ピックアップ型の宅配サービスはこのアプローチに沿うものと言える。
 
さらに言えば、毛細血管内でまかなう際も、プロの業者を使うに及ばない配送は一般の個人でまかなうのも手ではないか。アメリカにはウーバーの買い物代行版のインスタカートがあるが、あれを日本でやってもいいわけだ。
 
また「街のご用聞き」を「市民のご用聞き」とすれば行政の文脈も出てくる。その際は「大きな政府か小さな政府か」というあの議論がからむだろう。たかがワンマイル、されどワンマイル。ラストワンマイルは極めて現代的なテーマなのだ。
 
(ライター 筒井秀礼)
 
(2018.6.6)
 
 

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