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プログラミング教育に集まる注目

 
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node / PIXTA(ピクスタ)
小学生や中学生に対するプログラミング教育の重要性が叫ばれている。経済産業省の発表によると、2020年に36.9万人、2030年には78.9万人のIT人材が不足するとの予測だ。日本の産業界の発展を考えるうえで、IT人材の確保は急務である。
 
国としても様々な対策を打ち出しており、その1つが「早期からプログラミング教育を行う」という方針に現れている。2012年には新学習指導要領に基づき、中学校の技術家庭科で「プログラムによる計測・制御」が必修とされている。さらに2020年から小学校での「プログラミング教育の必修化」を検討するという文部科学省の発表があり、「未来の学びコンソーシアム」サイトの立ち上げ、「プログラミング教育実践ガイド」の公表などを進めている。
 
さらに総務省は、全国どこでも持続的に実施可能なプログラミング教育のモデルを構築し普及するための施策として、2016年度から「若年層に対するプログラミング教育の普及推進」事業を推進中だ。
 
 

国家資格「情報処理技術者試験」の歴史

 
筆者は、情報処理技術者試験を何度か受験しており、システムアドミニストレータ、応用情報技術者資格を保有している。この試験は、時代の流れに応じて試験制度の改革が繰り返されており、合格者を多数生み出すことよりも「試験制度を設け、変革も繰り返すことで、多くの人に勉強をしてほしい」という国側の意図があると、資格スクールの説明会では解説されていた。
 
この試験は1994年の大幅な制度改革までは、プログラミング言語に関する知識が重要視されていたが、それ以来現在に至るまでの制度ではプログラミング言語そのものの知識がなくても合格水準に達することができる試験内容になっている。
 
プログラミングを行うには「どのような目的を達成するプログラムが必要なのか」を検討し、それを実現・実装する能力が求められるのであって、「コンピュータが理解できるプログラミング言語で記述する」というのは、過程の一部でしかない。
 
例えば、あなたの目の前にある計算機が「四則演算と小数点以下切り捨て」という機能だけを持っているとき、この計算機を使って「小数点以下を四捨五入すること」を実現するには、どうすればいいだろうか? 結論から書くと「入力された値に0.5を加算し、得られた値の小数点以下を切り捨てる」という作業を計算機に行わせればよい。
 
このようにコンピュータが理解できるコマンドを、どのように組み合わせれば、必要な結果が得られるのかを考える作業こそが、重要なのだ。
 
情報処理技術者試験でも、上位試験になればなるほど「論理的思考」「問題解決能力」「それらを発揮するための表現力」などが求められるようになる。それらが正しく発揮されてはじめて、問題解決のための正しいプログラムを構成できるのだ。
 
 

幼児期、児童期からの早期教育における注意点は?

 
子どもたちに早期にプログラミング教育を行うことで、ITという「なんだか難しそうな、わけのわからないもの」への抵抗感を薄れさせ、興味を持たせるという効果は望めるかもしれない。
 
ただし、プログラミングの知識が本当の意味で「生きる」のは、「何かを解決したり、新しいツールを生み出したりする際に、プログラミングの知識を使える」という場面である。これは、英語などの外国語を学ぶ場面でも同様で「英語の知識がある」だけではなく、「英語を使って表現したいことがある」「職業を選ぶときに英語を使えるという武器がある」となって、はじめて役立つのと同じだ。
 
子どもの中に、人生経験や将来への希望などがしっかりと生まれていない段階で、プログラミングの知識や、外国語の知識だけを詰め込んだとしても、知識を何に使えばいいのかわからず、単に試験をクリアするための浅い理解に終わることになりかねない点には、注意が必要だろう。
 
すでに触れたように、情報処理技術者試験は高度区分の試験になればなるほど、プログラミングで培った論理的思考などを、現実のトラブル解決や新技術を生み出すためにどう活かすかが問われる。解答は高度試験になると論文式であり、文章表現力や説得力などが求められ、社会に出て働いたことのない小学生や中学生には、とても太刀打ちできない内容である。これからプログラミング教育の必要性が周知される中で、もし教育ビジネス界が商品(カリキュラム)の売りやすさ最優先で「資格試験合格」を最終目的にしたり、「この質問にはこの答え」というようなマニュアル教育に偏ってしまったりするようでは本末転倒だということは知っておきたい。
 
 

プログラミング学習は大人にも楽しみをもたらす

 
少子化が進み、子どもの絶対数が減っている現在は、子どもの中から生まれるIT人材だけでは人材不足の解消にはならない。むしろ「すでに社会経験がある人が、IT人材としてのスキルを身に着ける」ことが重要だ。
 
プログラミング知識を身に着けプログラミング的思考を養うことは、今“プログラミング教育”という言葉で対象にされている次世代の子供たち以外、すなわち現役のビジネスパーソンにとっても、論理的思考や問題解決能力を身に着けることができるメリットが大きい。
 
プログラミングの知識や考え方に触れると、例えば3月までに多くの人が利用した国税庁「確定申告書作成コーナー」で、自動的に納税額や還付税額を算出するために、どのような機能がどう組み合わされているのか、興味がわく。この興味は、プログラミングそのものだけではなく、所得税や消費税そのものへの興味へ発展していくだろう。
 
2020年からは大学入試が大きく変わるとされているが、まだまだ全容が見えておらず、子どもの教育方針について心配している人も多いだろう。プログラミングを通して問題解決能力を高めておくと、実施予定とされるCBT試験(Computer-Based Testing「会場型コンピュータ試験」)にも落ち着いて対応でき、国立教育政策研究所のいう「21世紀型能力」、つまり基礎力、思考力、実践力を大学入試で発揮できることにもつながる。これらの力は、社会人が仕事や人間関係などで要求される力でもある。
 
子どもの教育を「なんだかわからないから塾任せ」にしてしまわないためにも、そして社会人としての力をアップさせるためにも、大人も子どももプログラミングに意識を向けるべき時期が来ている。
 
 
 
(ライター 河野陽炎)
 
  (2017.5.10)

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