電力自由化でクールジャパン
~迷走する先進国電力事情にモデルを示せ~
狙い通りの価格競争が発生している様子からはバラ色の未来が予感されるが、諸外国の例を見ると不安も大きい。欧州では経済統合の一環として2007年以降、電力小売の自由化が義務づけられたが、経済規模の大きなドイツ、フランス、英国では電気料金が右肩上がりで上昇している。アメリカでも、カリフォルニア州で電力不足により大停電が発生、テキサス州では電気料金が高騰している。原因は、規制を取り払ったことで発電コストを自由に価格に上乗せできるようになったためである。日本でも同様の事態が起きる可能性は否定できない。
◆2020年以降はCOP21で行き詰まりも
電力小売の自由化により、発電事業者は電力を自由に販売できるようになるが、送電に際しては一般電気事業者が管理する送電網を利用する。一般電気事業者は2020年まで送電網管理業務の一環として、需要と供給のバランスを保つことが義務づけられているため、心配される停電などのリスクは小さいが、問題は送電網の管理業務が独立した事業者に移管される2020年以降だ。新たな送電事業者が発電量と需要のバランスをうまく保てなければ、停電などのリスクが高まる。
さらに足を引っ張りそうなのが各国に温室効果ガス抑制を義務づけたCOP21の「パリ協定」だ。日本は2030年度までに2013年比で26%の削減を目指すことを約束。電力業界はより高い目標として35%を目指すことで合意している。
産業の中でもっとも温室効果ガスを排出するのは火力発電だが、2014年の電力構成では天然ガス、石炭などを燃料とする火力が電源の89%を占める。新規参入事業者においても発電単価が低い石炭火力の割合が高く、環境配慮を求められると一気にコストが膨らむ。
いっぽう、一般電気事業者には温室効果ガスの排出量が少なく発電単価が低い原子力発電の再稼働という奥の手がある。今後、電力の安定供給という義務を外された状態で、一般電気事業者が独り勝ちする展開になれば、価格高騰や大規模停電という欧米各国の轍を踏む危険性が高まる。
◆新技術導入と組織で先進国をリード
欧米各国のような失敗を避けるためには、新技術の開発促進とそれを活かす発想力が必要だ。太陽光発電や風力発電には原子力発電所などに比べて導入障壁が低く、ランニングコストが極端に小さい利点がある。また温室効果ガスも、太陽光発電、風力発電とも発電時の排出量はゼロであり、設備建設時の排出分を発電量換算しても、1kWhあたり太陽光38g、風力25gとなる。同基準で943gにものぼる石炭火力と比較すると、環境負荷の小ささが際立つ。
昼夜の別や天候、風の強さなどに影響され、発電量が安定しないことが太陽光発電や風力発電の問題点だが、蓄電池の導入や揚水発電と組み合わせればクリアできる。蓄電池については米テスラ社が1kWhあたりの単価が従来品の1/4という超低コストの製品の発売を今秋に予定しており、事業レベルでの利用に期待を示す事業者は数多い。
こういった新技術の導入と併せて、送電事業の独立性確保も重要な課題だ。たとえば現状、新規参入事業者が発電施設をつくっても、最寄りの変電所に容量の空きがなければ稼働できないことが、再生可能エネルギーの普及にとって、事実上のキャップとなっている。
変電所の容量を増やし、他エリアとの連係を増せばクリアできる問題だが、新規参入事業者と利害がぶつかる一般電気事業者には送電設備について積極投資を行う動機がない。組織的にも設備的にも完全に独立させ、送電負担金で経営が成り立つ構造をつくることにより、先進的な取り組みを進める事業者をアシストすることができる。
電力は全国を網羅する巨大産業だけに、単に自由化するだけでは混乱をもたらすリスクが高い。市場の活性化と安定供給と両立させるためには、リスクをヘッジする適切なコントロールが欠かせない。パリ協定という制限が課せられる中、技術力と組織力という日本のアドバンテージを活かせれば、「もう一つのクールジャパン」として電力自由化の成功モデルを世界に示すことが可能だ。
(ライター 谷垣吉彦)