ドローンを新たなインフラに
~新技術を活かす小さな民力と大きな政力~
ドローンはこういった「配達」事情の救世主となり得る存在だ。例えばamazonが開発を進める配達用ドローンは時速88kmで飛行し、半径24kmのエリアをカバーできる。中規模の過疎地なら問題なくまかなえる性能だ。配送先に運んだ後、受け取ってもらう際も、マンションや一戸建て住宅のベランダや屋上にドローンと連動する宅配ボックスを設置すれば、人手をかけない効率的な配達が可能になる。ドローンなら個人の敷地内に上空から垂直に着陸できるため、門や玄関が施錠されていても問題ない。地上の往来に面した宅配ボックスの弱点とされる盗難被害も、大きく軽減できるはずだ。
◆小さな民力が広げる可能性
ドローンを有効活用する取り組みにおいては、大手企業による研究も進んでいるが、実は小さな民力の取り組みが目立つ。
その1つとして注目されるものにクラウドファウンディングを利用した実証実験がある。香川県では2015年1月、世界初となるドローンによる海上貨物輸送実験「空飛ぶカモメの宅配便 KamomeAirプロジェクト!」に成功している。主導したのは地元の離島在住のITエンジニアが主催する団体「KamomeAirプロジェクト」。同団体はドローンを提供するメーカーや地元IT企業などの支援を受け、さらにはクラウドファウンディングを利用して資金を集めることにより、ドローンを含む物流網で瀬戸内の島々をつなぐプロジェクトを進めてきた。2015年9月には医薬品の空輸にも成功しており、実用化に向かう足取りには確かなものがある。
同じく四国の徳島県でも、小さな民間資本によるドローン宅配の実証実験が進められている。ドローンを使ったシニア世帯向け宅配サービスを計画するMIKAWAYA21株式会社が行うもので、2015年4月には山間の民家に「おはぎ」を宅配する実験に成功している。
このようにドローンは、比較的小資本での開発が可能なこともあり、実は都市部ではなく過疎地との相性がいい。
◆急がれる政力による法律と環境の整備
改正航空法の整備で明らかになったが、現行法制下でのドローン宅配は都市部では不可能と言える。合法的に飛行できるルートがほとんどないためだ。
改正航空法ではドローンの飛行について、東京23区内のような人口密集地や航空機の安全に影響を及ぼすエリア、イベント会場などにおける飛行について、国の許可や承認を義務づけている。また、同法上の許可や承認を得たとしても、個人の土地は上空300mまで所有権が及ぶため無断で飛行することはできないし、道路上は、高度にもよるが道交法の規制を受ける。電線など空中の障害物の多さも過疎地の比ではない。
いっぽう、地方の集落では事情が異なる。地権者が少なく住人間の絆も密なので、集落内の飛行について同意を得ることが都市部に比べて格段に容易だ。個人のコンセンサスを集めにくい都市部でドローン配達を実現するには、私有地上空の飛行を可能にする抜本的な法改正が必須となる。
さらにもう1つ国に求められるのが、ドローンの利用効率を高める環境の整備だ。ドローンを高精度で自動航行させるためには精度の高い位置情報の要となる人工衛星が必須である。日本は2010年に準天頂衛星「みちびき」の打ち上げに成功しており、2017年までに同様の衛星3機を打ち上げ、高精度で24時間測位できる体制づくりを目指している。実現すれば、現在10m程度とされる測位誤差は10cm程度となるうえ、ビルや山の陰などに入っても衛星による測位が可能になる。
技術を人の暮らしに利する方向で活用するためには、地道な努力の積み重ねが欠かせない。ドローンについては細かな配慮を重ねながら利用者に寄り添う「小さな民力」の活躍がめざましい。法整備や宇宙開発といった面で「大きな政力」がうまくバックアップすれば、世界に先駆けて新たなインフラとしての利用が実現できそうだ。
(ライター 谷垣吉彦)