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異次元緩和のその後
~追加緩和から1年、第2弾はどうなる?~

 

◆政府の姿勢も変化

 
 この間、政府の姿勢も変化している。内閣府の月例経済報告は2014年12月まで「日銀には、2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現することを期待する」としていたが、2015年1月以降は「日銀には、経済・物価情勢を踏まえつつ、2%の物価安定目標を実現することを期待する」と論調を変えているのだ。また、IMFは今年7月23日に発表した日本に関する経済審査報告書で、日銀に対し必要に応じて追加金融緩和を準備するよう要請したが、日銀総裁の黒田氏は7月31日、読売新聞のインタビューに対し、「今の時点で追加緩和の必要があるとは思っていない」と述べている。また、原油価格の大幅な下落の影響で物価が押し下げられてきたが、反転の流れにあると考えていることも答えている。
 
 2015年6月の日銀短観によると、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業製造業でプラス15となり、前回(3月)の調査に比べて3ポイント改善、大企業非製造業はプラス23と、前回比4ポイントの改善となっている。また、15年度の設備投資計画は大企業全産業が前年度比9.3%増となり、黒田総裁の言葉を裏付ける形となっている。
 
 

◆今後の展望は?

 
 そして先月8月7日、注目の日銀・金融政策決定会合が開かれた。会合後の発表によると、「わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。」という判断のもとに、「2%の『物価安定の目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、『量的・質的金融緩和』を継続する。」との決定が行われた。この決定からは「近々の追加緩和はない」というメッセージも受け取れる。
 追加緩和を行えば一時的な株価上昇などの効果は出るかもしれないが、景気全体の底上げのためには、それよりも長期的な視野に立ち、消費者物価指数や賃金など、国民の生活と関連の深い数値が上昇していくことを重視する判断をしたのだろう。実際それを裏付けるかのように、厚生労働省の中央最低賃金審議会の小委員会は直前の7月29日、2015年度の最低賃金(時給)の引き上げ額について「全国の加重平均で18円上げるべき」との目安をまとめている。
 
 また、会合から3日後の10日に発表された8月の金融経済月報によると、生鮮食品とエネルギーの影響を除いた消費者物価指数が6月は前年比で0.7%上昇。コアCPIは0.1%の上昇にとどまるが、エネルギー価格下落の影響を取り除けば物価の上昇基調が明確になったとしている。また、住宅投資については従来の「持ち直しつつある」から「持ち直している」と上方修正された。
 
 前回の追加緩和が強烈なインパクトを市場に与えたのは、黒田総裁の「追加緩和は必要ない」という発言が続く中で、サプライズ的に行われた緩和という意味合いが強かったためだ。現在は、国民は前回の追加緩和後の流れをすでに知っている。長期的視野で実体経済を見守る判断が仮になかったとしても、日銀は、安易な追加緩和を行うことができない流れの中にいる。
 
 懸案事項はもう1つある。日銀が日本の経済状態について「緩やかな回復を続けていくとみられる。」「予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。」と予想するのであれば、いずれは日銀が現在の緩和政策を終了する時期が来るということだ。その時、国債を保有している金融機関や生命保険会社、あるいは利益追求に熱心な海外投資家などが、日銀による買入れが期待できないという危機感をおぼえ始めれば、国債価格が急激に下落するなどの混乱がみられ、これまでの緩和政策の効果が帳消しとなる可能性もある。
 
 また直近で、中国・人民元切下げに端を発した世界同時株安の進行も危惧される。先月8月25日には日経平均株価が半年ぶりに1万8000円台を割り込んだ。甘利明経済再生相は「世界経済基盤は揺らいでいない、冷静な対処が必要」と述べ、麻生太郎財務相も「リーマン・ショック時の不安と今回は全く違う」との考えを表明しているが、「株価の上昇・円安の進行」による景気浮揚を狙ってきた安倍政権にとって楽観できない状態であることは間違いない。
 
 「経済は生き物」――古くて新しいこの教訓を思うにつけ、第2弾の追加緩和を行うならその時期、そして現在の緩和政策そのものを終了する時期の両方について、日銀は非常に慎重な判断を求められると言えよう。
 
 
(ライター 河野陽炎)
 
 
 
 

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